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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第一章
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「そんな訳で、私は封印されている身です。多くの秘密が有りますし、大きい魔法も使えません。私の心掛け以前に、師匠としては力不足でしょう」


男なのに黒髪を伸ばしているシャーフーチは、弟子希望者達の顔を再び見渡した。

最初は全員が緊張していたが、今は妙に警戒されている表情へと変化している。

いや、赤毛の少女だけは変わらずに緊張したまま。


「また、貴女達は、魔法の修行を行うと同時に、生活の糧を得る為の仕事をしなければなりません。自分の食い扶持を自分で稼がなくてならないのです」


シャーフーチは懐から金色の指輪を取り出し、円卓に置いた。


「封印の丘と言う土地柄、通いで学ぶつもりの人は居ないでしょうが、一応伝えておきます。魔法使いの修行は例外無く住み込みです」


「だから自分で生活費を稼げ、と言う訳ですね」


そう言う赤毛の少女に頷いて見せるシャーフーチ。


「これは魔法使いの弟子になる者全員に課せられる課題です。拒否は許されません。修行に無関係な労働が嫌なら弟子にならないでください」


ふたつ目の指輪が円卓に置かれる。


「魔法使いは、今では絶滅危惧種です。一人前になったら尊重はされるでしょうが、魔法使いとして大活躍する明るい未来は想像出来ません」


みっつ目の指輪。


「更に、魔王である私は魔法使いギルドに所属出来ません。ギルドの援助は他より少ないでしょう。その点でも苦労すると思われます」


そして、よっつの指輪が円卓に並べられる。

少女達の人数分。


「それでも魔法使いになりたいのなら、本名を名乗ってください。名乗った時点で、貴女は私の弟子です」


四人の少女が指輪を見詰めている。

当然だが、かなり悩み戸惑っている様だ。

しかしここはあえて厳しい言葉を続ける。


「弟子は師匠に絶対服従です。指示や命令に背く時は、師弟関係の破棄であると覚えておいてください」


ツインテール少女が手を上げて発言する。


「それがセクハラやパワハラでもですか?」


「魔法の修行に関係が有るのなら、拒否出来ませんね」


「それ系の魔法が有るのですか?言ってしまいますが、性的な方面の魔法が」


「貴女達の素質を知りませんので、分からないと答えるしかありませんね」


「ふむ……。では、私達の素質次第では、エログロな修行をするかも知れないと言う訳ですね?」


少し考えたシャーフーチは、力強く頷く。


「この場で曖昧な事を言うのは良くありませんね。断言しましょう。必要ならします。無いと思いますがね」


怯む少女達。

しかし神学生だけは冷静なままだ。


「失礼を承知の上で言わせて貰います。貴方はかなりの面倒臭がりだ。先程出た話から察するに、この弟子入り自体、貴方は望んでいない」


神学生は一呼吸置き、聞き手の意識をより自分に向けてから言葉を続ける。


「だから訊きます。貴方は私達を一人前にするつもりは有りますか?そして、この儀式にウソは有りませんか?」


困り顔のシャーフーチは神学生の目を見た。

真っ直ぐな瞳で返答を待っている。


「なるほど。魔王を師とするには信用を確実な物にする必要が有る。そう言う事ですか」


神学生の真意を悟ったシャーフーチは低めの声で応える。


「私には誓いを立てられる存在が無いので、私の命に掛けて誓います。貴女達が諦めない限り、私は貴女達を見捨てません。儀式にはウソが有りません」


「その誓い、私が聞きましょう」


ツインテールの少女はシャーフーチに向かって右手を翳した。

その手には円に囲まれた十字星が紋章となっているブローチが下げられている。


「そのブローチ、神官の証ではありませんか?神学生が持てる物ではないと思いますけれど」


金髪美少女が目を剥いた。


「魔王のお膝元に来るのですから、魔除けは必要でしょう?だから神官の資格を取ったんです。神学校はそれが可能な場所でしたから」


ツインテール少女は、まるで遠足のお菓子を買って来たかの様に言う。

弟子募集の手紙が届いてから満月までは、約半月。

そんな短期間で取れる資格ではない。

最低でも一年は集中して勉強をしなければならないくらいの物だ。


「はっはっは。貴女は実に頼もしい」


シャーフーチが朗らかに笑う。

直後笑みを消す。


「問題は性的な方面だけではありません。例えば力の付いた貴女達に国王を暗殺して来いと私が命令したら、貴女達は拒否出来ません。弟子の内はね」


質の悪い例え話に金髪美少女が気色ばむ。

シャーフーチはそれを無視して言葉を続ける。


「魔法使いが王家に牙を剥くのは世の為人の為にもなりますしね。それが絶対服従の意味であり、目的です」


金髪美少女は我慢出来ずに口を開く。


「そんな事をしたら、ギルドは王家に潰されます!王家は常に敵を蹴散らしますから!」


「潰されません。絶対に」


「何故ですの?」


シャーフーチは神学生に目配せした。

それを受けたツインテール少女が微かに迷惑そうな顔になる。


「私は解説役ではありませんが」


「ですが、私よりは詳しいでしょう?」


ツインテール少女は「仕方有りませんね」と呟いてから金髪美少女に身体を向ける。


「王家と魔法使いギルドは太陽と月の関係である事はご存じですか?」


「はい。王家は太陽を象徴し、ギルドは月を象徴としています。そして、女神に仕える神官は星ですよね」


神学生は頷く。


「王家は、ギルドが牙を剥く事を許す誓いを立てています。国王が独裁政治をしない様に」


万が一国王が暴走したら、ギルドの名の許でクーデターが起こる。

それは王家転覆が目的ではなく、あくまでも政権交代、つまり世代交代を促す物だ。

簡単に言えば、狂った現国王を王座から引き摺り下し、王子か王女を次の国王にする為の運動である。


「だからギルドは民草を助ける仕事を主にしています。いざとなったら民衆を味方にする為に」


神学生はシャーフーチに金の瞳を向ける。


「ギルド側も、魔法使いには国王への忠誠を誓わせています。第二の魔王を生まない様に。だから先程の例え話は魔王以外の魔法使いは口に出来ない」


冗談でもそんな事をストレートに言ったら、ギルドに魔法使いの資格を取り上げられる。

もしも別の師の許で同じ儀式を受けたら、もっと遠回しな言い方をされていただろう。

内容は一緒でも、言い方次第で受け取り方が違う物になる。


「このふたつの誓いは矛盾しています。太陽と月が並んで空に浮かぶ事が無い様に。まぁ、昼間の月が有りますが、今はそれを無視しましょう」


「どうして無視しますの?」


「王家とギルドが並んで動く時。それは国の一大事です。魔王軍、つまり大量の魔物相手の戦争が起きればそうなるでしょう。が、今の私達には関係無い」


「確かに、その通りですわね」


「話を戻します。矛盾した誓いですが、国民の生活を守る為には必要な誓いです。王家は自らを律して政治を行い、ギルドは国民を助ける。不都合は無い」


「なるほど。しかし、そんな事は習いませんでした……」


「習う前にここに来たのでしょう。そして、神官は常に中立です。どちらの味方もしない」


神学生は円に囲まれた十字星のブローチを掲げる。


「しかし、月と星は夜に出る物。昼間の月が有っても、昼間の星は無い。その意味は、ご自身で考えてください」


「はい……」


金髪美少女はしおらしく頷く。

解説が終わった様なので、シャーフーチは一際大きな声を上げる。


「これまでの話を全て踏まえた上で、深く考えてください。弟子になるかどうかを。これは貴女達の人生を左右する決断です」


石造りのリビングは、闇に相応しい静寂に包まれた。

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