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「さて困ったぞ。イヤナが心を閉ざしてしまったからテレパシーが届かない。どうしたものか」
土作りは途中で止められないので、セレバーナは消石灰を撒きながら溜息を吐く。
「わたくしが無暗に煽ってしまったのもいけなかったんですわ。今更後悔しても遅いんですが」
ペルルドールもしょんぼりしながら消石灰を撒く。
「今の段階では誰も悪くない。野心の無い男はそれはそれでつまらないしな。将来性が無い」
「ですけど、イヤナを悲しませましたわ。わたくし、心が痛みます」
「私もだ。彼等に感じていた違和感の正体を見抜けなかった。多分、アレは……。いや、言わないでおこう」
「何ですの?言ってください。気になるじゃないですか」
「以前、真実を突き詰めたら暴走して死に掛けたサコと言う娘が居てだな。慎重にならざるをえない」
「う……厭味ったらしく言うね、セレバーナ」
サコは気まずそうにクワを振る。
ツインテール少女は「それはともかく」と続ける。
「彼等の企みが暴かれた以上、その先に行く事は無いだろう。我々一人一人が警戒すればな。だからこれ以上の追及は無意味だ。今は作業をしっかりしよう」
「……分かりましたわ」
三人は無言で畑作りを進める。
少し気になる部分が有るセレバーナは、黙々と作業しながら再びイメージの解凍を試みる。
このイメージはメガネの男性、デチアン・ニジハクの思念が前面に出ている。
しかし、他の二人の思念も入っている。
目的が同じ三人の思惑が混ざり、全てを同一に感じてしまったので、他の少女達は理解出来なかったと思われる。
だが、一番最初に彼等の来訪をイヤナから聞かされた時、セレバーナは『合コン』ではないかと予想していた。
相手を男性として意識し、疑っていた。
なので、この部分を切り離して考える事が出来た。
メガネの彼は、セレバーナの容姿が想像以上に幼い事に驚いている。
彼は、セレバーナの年齢も、飛び級した経歴も、背丈に関する噂も知っている。
それでもなお、驚いている。
こう思って。
『こんな女、抱けねぇよ』
あえて十四歳らしくない幼い服装でサーカスに行った事が偶然に幸いして、計画の先を予想出来た。
彼等の最終目的は『我々全員と肉体関係を持つ事』だったらしい。
深い恋人関係になってしまえば金銭の援助も不自然ではないし、協力し合うのも当たり前になる。
ペルルドールの相手をする者は大出世もする。
ちなみに、自動車に乗って遠くの街に行ったのはサコの相手を呼ぶ為だ。
自動車の耐久テストもウソではない。
そう、彼等はウソ吐きではない。
未成年の女性と肉体関係を持った後の面倒事の全てを背負う覚悟をしているし、我々に好かれた上でそう言う事をしようとしている。
嫌われたら無理強いする事無く身を引くつもりの様だ。
だから不誠実でもないので、彼等は悪くない。
悪くはないが、ペルルドールとサコは怒るかも知れない。
女を何だと持ってるんだ、とか言いそうだ。
だから黙っておこう。
一番の問題は、映像を脳内展開をする事を苦手とするイヤナが素人の脳内情報を覗き見た部分だ。
素直で良い子のイヤナが自分から師の言い付けを破るのは考え難いので、完全に無意識化での出来事だろう。
もしもそうなら自分達にも起こり得る事だから、取り敢えずは考察して、必要なら全員で注意しなければならない。
セレバーナは考える。
自分達のテレパシーはまだ未熟なので、お互いの感情までやりとりしてしまう。
これと同じ感覚で、場の雰囲気に流され、相手の感情を受け取ってしまった可能性がある。
イヤナはウェンダに好意を持っており、相手もこちらに下心が有るのだから、その場の雰囲気はとても穏やかな物だっただろう。
下心。
もしや、サーカスの夜の部に我々を連れ出したのは、日が暮れてからも外出するかどうかを試したのか?
夜は大人の時間。
夜に動けないのなら、彼等の最終目的の成功率はグンと下がる。
十分に有り得る。
合コンを断ったと言う情報を前もって与えてしまっていたから、夜の部が終わった後は飲食に誘わなかったのか。
その情報が無かった場合、酒に誘われていたかも知れない。
それで酔い潰れていたら……。
いや、サコの相手がまだ到着していないから、紳士的に扱うか。
そうすれば我々の心証は最高レベルに達するだろう。
彼等は愚かではないから、早まった事はしない、はず。
イヤナが持ち帰ったイメージから察するに、多少の微調整が入っているものの、彼等の計画は順調に進んでいる。
気が緩んだか、もしくはイヤナの気を引こうとしたか。
どちらにしても、イヤナに嫌われない様にする為、彼女のペースに向こうが合せたのかも知れない。
その結果、テレパシーが行い易い場の雰囲気が作られた?
うむ、この線だな。
恐らく、野心家のデチアンは強く計画を意識していた。
イヤナはそれを感度良く受信したのだろう。
あの時のイヤナは、遠く離れた相手とのテレパシーを物凄い精度で行っていた。
きっと心の扉が全開だったのだ。
後の祭りだが、その事にも気付くべきだった。
この考えは後でレポートに纏め、シャーフーチに提出しよう。
何らかの対策を取って貰わねば。




