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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第一章
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1

「こんにちは~」


澄み切った青空の下、赤毛を三つ編みにしている少女が明るい声で挨拶した。

エルヴィナーサ王国での一般的なドレスを着ているが、あちこちに継ぎ接ぎが有るので、一目で貧民だと分かる。

そんな彼女に応える声は無い。

それからも何度か大声を出したが、だだっぴろい草原に響き渡るだけで一向に返答が無い。


「あれぇ?おっかしいなぁ」


大きな手作りリュックを背負っている赤毛の少女が首を捻った。

両手に持っているふたつの風呂敷包みを地面に下した後、所在無く周囲を見渡す。

後ろは緩い下り坂。

そこを登ってやって来たので、少女は高い位置に立っている。

遥か遠くの白い山脈が見えるくらい見晴らしが良いので、人影がどこにも無い事が一目で分かる。

視線を正面に戻すと、石造りの遺跡が静かに佇んでいる。

かなり古臭く、百年以上の時に晒されていた風格を感じる。

しかし玄関ドアはちゃんと閉まっていて壊れている様子は無い。

二階の木窓も歪んでいない。

それは、この遺跡は長時間放置されていないと言う証拠だ。

空家の窓ってのは、なぜかすぐ壊れるから。

つまり人が住んでいる。

それなのに、少女の一歩前に有る石作りの門にくっ付いているドアは朽ちていて原型を留めていない。

長時間放置した結果なのは明らかだろう。

庭は広く、雑草が伸び放題。

門から玄関までの道にも雑草が生えていて、十年単位で人が通った形跡が無い。

遺跡を囲む垣根は少女の肩くらいの高さで、植え木なのか木の柵に蔦が絡まっているのか分からない状態。

壊れていない木窓を無視して全体を見れば、どう考えても無人の遺跡。

人が居るのか居ないのか良く分からない。

ただ、返事が無いので、誰も居ない可能性の方が高い。

不安が少女の表情に影を落とす。


「来る所、間違ったかな」


赤毛の少女は、折り畳まれている羊皮紙をポケットから取り出す。

金色の縁取りがされているそれにはこう書かれてある。



『魔法使いになりたい方へ。

 只今、弟子を若干名募集中。

 希望の方は、萌の月、満月の日の昼間に、

 最果ての地、封印の丘に有る遺跡に来られたし。

※名乗りは師弟契約の儀式に必要となるので、

 許可が有るまで決して名乗らぬ様に』



羊皮紙から顔を上げた赤毛の少女は、再び周囲を見渡す。

丘の麓に有る村の住人に何度も聞いて確認したから、ここの地名が封印の丘なのは間違いない。

その村は最果ての村と言う変な名前で、その周辺に有る土地全てが最果てと呼ばれているらしい。

しかしこの丘だけは特別に別の名前が付いているので間違いない、と言われた。

今夜が満月なのも間違いない、筈。

他に遺跡らしき物は無い。


「うーん……。入って待ってろ、って事なのかなぁ……?」


取り合えずもう一回叫んでみて、返事が無かったら勝手に入ろう。

日にちを間違えていたのなら、この遺跡に数日留まれば調整出来る。

ふたつの風呂敷包みの中には日持ちする様に加工された野菜がたっぷりと入っているから食料の心配は無い。

赤毛の少女は両手でメガホンを作り、胸一杯に朝の清々しい空気を吸い込む。


「こっ、んっ、にっ、ちっ、はぁ~!」


わぁ~、わぁ~、わぁ~、と山彦の様に声がこだまする。

遺跡の裏はかなり深い崖になっていて、そこに声が響いている。


「……」


空でヒバリが鳴くだけで、やはり返事は無い。


「ま、いっか」


場所の間違いで満月を過ぎてしまったら、最果ての村に下りれば良い。

そして村の一員に加えてくださいと頭を下げよう。

見事に手入れされた広大で豊かな畑がここから見えるので、食い扶持が一人増えても嫌な顔はされないだろう。

もしかしたら働き手として歓迎されるかも。

楽観的に考えながらふたつの風呂敷包みを両手で持ち上げたその時、二階の窓が開かれた。


「誰ですか。こんな朝っぱらから大きな声を出しているのは……」


顔を出したのは、長い黒髪の優男だった。

思いっ切り寝起き顔で、寝ぐせが酷い。


「あ、こんにちはっ!魔法使いの弟子になりに来たんですけど、ここで間違いないですよねっ?」


赤毛の少女は人が居た事に喜び、笑顔で大声を出す。


「え?あー……。もう来ちゃったんですか……。準備期間を設けた筈なんですが、上手く行かなかったんでしょうか……」


大あくびした長髪男は乱雑に頭を掻く。


「まぁ、来てしまった物は仕方ない。上がってください。私も身支度を整えてから下に行きますから」


「ハイッ!」

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