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君と男爵、ときどきメイド  作者: みつ
第一章 ようこそ異世界へ
9/39

「おでかけ前のシャワータイム」

★★★

いい湯だな

あははん

★★★



こうしている間にも歩みは続く。

先ほど通った部屋に到着。君は覚えている、浴場だ。

確か中にはシャワータイムというメイドがいたはずだ。

ティシューと一緒に中に入ると、木製の戸無しのロッカーが一面ずらりと並んでいた。

その中には編み籠が一つずつ置かれていて、どうやら服を脱いで入れておくもののようだった。


「それでは、私は用事を済ませてまいりますので、ごゆるりとくつろいでください」


ティシューがうやうやしく一礼して立ち去ると、脱衣所には君だけが残された。

脱衣所の床は大理石のようにつるつるになっていて、水をよくはじき流れやすいようになっていた。

そしてロッカーの前には木製の簀の子(すのこ)が配置されている。

君はまず靴を脱いでロッカーに入れた。そして服を脱ごうと思ったが、肝心の浴場を見てないことに気がついた。

脱衣所の奥にある通路から先に進む、足下の石がひんやりとしていて気持ちよかった。

通路の先には目を疑うほどの大浴場があった。君がコレまで暮らしてきた生活の中では見たことのない広い浴場。

作り物のライオンがどばどばとお湯を吐き出していて、浴槽はその広さになみなみとお湯を湛えていた。

君は脱衣所に踵を返し、服を全部脱いですっぽんぽんになる。編み籠の中に脱いだ服を全部乱暴につっこみ、早足で浴場へ向かった。

そして駆け足のまま大きな浴槽に飛び込んだ、水が盛大にあふれる、湯気が立ち上る。

天井を見上げて大きく一息を吐いたが、水面に目を落とすと慌てて湯から上がった。

あからさまに水面が濁っていたからだ。当然だ、2日間とはいえ風呂に入ることができなかったのだから。

水を汚してしまったことに反省しつつ、改めて浴場を見渡す。

君は驚いた、浴槽ならともかく、シャワーまで備え付けられてある。

ぺたぺたと近づいて、シャワーのカランをひねる、ひゃんっ、と冷水を頭からかぶった。

見た目は一般的な水道と変わらない、ここは本当に異世界なのか?今更君はそんなことを改めて思う。

男爵の屋敷が異常なだけで、これから行く予定の街の一般家庭には風呂など上等なものはない。

タライやタルに水を張り、沸かした熱湯を注ぎお湯を作るか、巨大な鍋で湯を沸かす五右衛門風呂のようなの単純なものしかないのだ。

まさに、男爵を基準にしては困ります、だ。

温水と冷水のカランをひねって温度を調整、降り注ぐシャワーの強さもちょうどよい。

君は頭からシャワーをかぶる、そしてその髪を手で梳いたところで、髪の脂っぽさにびっくりした。

病気で寝込んだりしたときなどは1週間入れないこともあるだろうが、基本的に衛生観念の強い現代日本では風呂は毎日入るものという意識が強い。

お風呂好きな人は日に2度3度と入ることもあるだろう。

自覚したところで不快感が出た、何とか洗い流したいと感じた。

そして、足下にシャンプーを見つけた。君はもう呆れるしかなかった。よくスーパーなどで見るプッシュ式のあのボトルだ。

ボトルの頭を押すと中から溶剤がぶちゅると出てくる。異世界なのにこんなのもあるのか。

男爵の屋敷が異常なだけである。

これらは全て天山大剣を追いかけながら見つけ、拾ったものを元に作ったものだ。

視線を動かすと石けんまである、スポンジもある。

容器から絞り出した溶剤を手でこねると泡立ってきた、容器には文字が書かれていたが、残念ながら君には読めなかった。

言葉の壁はないと男爵は言っていたのになぁと独りごちる。

言葉の壁はないが文字の壁はある。残念だったね。

髪を水でたっぷりとしめらせてからシャワーを止める。水の節約のつもりだったが君はその時その背後でライオンが水をどばどば吐き出していることを忘れていた。

溶剤を手でこすり合わせると良い感じに泡立ってくる、シャンプーかな、と君は思った。正解。

髪にシャンプーを馴染ませわしゃわしゃと洗う、みるみる泡立っていく感触に君は少し楽しくなった。

とにかく、ねっとりとまとわりつく脂を落とさねばさっぱりできない、君は心持ち力を込めた。

ある程度洗ったところで泡を流そうとした、しまった泡が目に入る、カランが見えない。

その瞬間、頭上のシャワーから温水が勢いよく噴き出して泡を洗い流してくれた。

ふぅ、と一息吐いて君は目を開けて水を止める。

そして、もう一度シャンプーを取った。


「シャンプーは一度でいいんでないかな?」


背中から声がかかった。君の手がぴたりと止まった。

君が首だけで振り返ると、聞き違いではなかった、メイドがいた。

きょとんとした表情で、彼女は君の顔を見る。

そしてその視線が背中からおしり、太ももからふくらはぎ、かかとへ行ったかと思うと、今度はその道順を逆に顔へ戻った。


「シャンプーは一度で良いと思うよ?」


君は恥ずかしさに顔を赤くしながら反論、脂一杯だから気持ち悪いと。


「一度で十分だと思うよ?脂って言ってもそんなに悪いものでもないし、全部落とすと肌荒れの原因になるし、禿げるよ?」


人の皮膚から分泌される脂は、放置していると雑菌の温床となるが、本来の役割は雑菌から皮膚を護る防御膜なのだ。


「まぁ、そんなに気になるなら止めないけど」


でも、と反論しようとしたら、彼女はあっさりとそう言った。


「どうぞ」


と言われても、君はすっぽんぽんの状態でおしりをメイドに晒している状況だ、この状況で何事もなくシャンプーに戻れるはずがない。


君は?と、メイドに問うと、メイドは恭しく一礼した。


「コレは失礼、申し遅れました。給湯室、浴場の長。序列十四位のシャワータイム・ロー・バートンと申します」


よろしくね、とシャワータイムは軽く挨拶をした、ティシューよりずいぶん快活なイメージだ。


「浴室でのお世話をティシューより頼まれました。お背中流しましょう。前も下も、ご希望とあれば」


とりあえず君は、出て行くように希望した。

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