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君と男爵、ときどきメイド  作者: みつ
第一章 ようこそ異世界へ
8/39

「草の香りのローズマリー」

 ★★★

 お花より野菜植えろ野菜!

 ★★★



「ごきげんよう」


 中庭に入ると、すぐそこにいた緑髪の女性が挨拶をしてくれた。

 それは年若い双葉色、首の後ろから毛先まで編まれ、彼女が頭を垂れるたびにふわりと動いた。

 細い指先に水捲き用の如雨露を持ちながら、彼女は両手を前に揃えたて姿勢を正した。

 それはまるで草原に立つ若い樹木、大地にしっかりと根を張りつつお日様に向かって精一杯背を伸ばしている風情。

 頭のてっぺんには真紅の薔薇が一輪咲いていた。


「中庭、及び外周の植栽を任されております。ローズマリー・ポーン・ネイルと申します」


 また覚えるのが大変だ、と思う前にローズマリーとお呼びください。なるほど、だから頭に薔薇があるのか。

 こういう身体のどこかに特徴的なアクセサリなどがあると見分けも付きやすく覚えやすいな、と思う。

 ティシューは黒髪、ベーグルは金、ローズマリーは緑色。

 黒と金はともかく、青色や緑色の髪って人類の遺伝子的にあり得るものなんだろうか、等と君は思う。

 食堂にいた青髪の2人を見たあとなのに、いまさら。

 しかし、君は気づいただろうか、ベーグルのときもそうだったが、眉も長いまつげもその頭髪と同じ色をしているのだ。

 明らかに地毛である。しかし君はその考えを適当なところで打ち切った。情報不足。


「本日お出しした料理の野菜のほとんどは我らがお作りしたものなのですよ」


 ローズマリーが誇らしげに胸を張った。

 君はその胸元に目を奪われた。


「野菜や果実の管理はベルウッドの得意分野でしょう。彼女はどちらへ?」


 ティシューの言葉にローズマリーはイタズラを咎められた子供のように舌を出した。

 見た目は大人の女性なのにずいぶん子供っぽい仕草をするなぁ、と君は思ったりした。


「ベルウッドは採れた果物を街に売りに行っているのですよ」


 街があるの?と君が聞くとティシューが肯定した。


「トワレヤ諸島は大小百を超える島々からなる諸島郡ではございますが、この島のように人が住めない広さではありません」


 この島にも街はあるし、他の島にも住人はいる。そういうこと。


「興味があるのでしたら、街まで案内いたしますが?」


 君はしばし考える、主な部屋はあといくつくらいあるの?と。


「序列のある私どもが長を担う部屋でしたらあと六つございます。それ以外の部屋でしたらさらに数は増えます」


 あと六つか、さてどうしようかとちょっと考える。

 街まではどれほどの時間がかかるのかを聞いてみた。


「徒歩で片道1時間弱と言ったところでしょうか」


 ちなみにローズマリーは待機中、特に会話に入ることもなく苗木の剪定中であったりする。

 行ってみたいかな、と悩んだ末に君が言うと、ティシューは恭しく礼をした。


「かしこまりました、では不肖ながらも私が同行いたします」

「いってらっしゃい」


 ローズマリーに見送られて中庭を後にする。

 そして再び室内の通路を行く、緊張もだいたいほぐれ、君はティシューの後を歩きながらきょろきょろと物珍しそうに周囲を見渡す。

 通路は明るい、今が昼だからというのもあるだろうがもう一つ、頭上の燭台がに蝋燭が立っていた。

 蝋燭を横目で見ながら通り過ぎる。蝋燭の炎はちろちろと燃えており、君たちの影を床に作り出している。

 蝋燭は階段の踊り場にもあった、もちろん火はついている。毎日取り替えてるのだろうかと君は思う。

 当然だろう、いくら何でも蝋燭は消耗品だ、火が何日も燃え続けるとはとうてい思えない、普通の蝋燭なら。

 君は振り返る、階段を上ったおかげで踊り場の燭台が視線の下にある。

 ここから見た限りでは普通の蝋燭だ。

 ティシューに蝋燭について聞いてみると、


「気になりますか?ただ、危険ですのでお手を触れないようお願いしますね」


 困った様子のティシューに君はそれ以上の詮索をやめた、火を使っているのだ、火傷でもしたら大変だろう。

 触らぬ神にたたりなし。とりあえず君は蝋燭の存在だけは心にとめておくことにした、とりあえずの伏線である。

 そして君は、もう一つ気になることをティシューの後ろ姿に聞いた。

 さっきの中庭のローズマリー、何故胸にナイフが刺さっていたの?と。


「あっ」


 とティシューは声を上げた、忘れていたのだ。

 ふくよかな胸の中央に突き立てられた大振りなナイフ、君の目はそれに釘付けだった。

 中庭に最初に入ったときこそ髪の毛に目を奪われていたが、二人の会話のさながらにローズマリーが胸を張ったその時。

 最初は単なるアクセサリーだと思った、しかしよくよく見ると鋼に輝くナイフが胸に刺さっていたのだ。

 位置的には喉の真下で乳房よりは少し上、ちょうど首のアクセサリが飾られる位置でイメージできるだろうか。

 気づいたときには目を疑った、マジマジと見てしまった、見れば見るほどナイフの刃は肉の中に沈んでいたのだ。


「アレは生まれつきらしいです」


 生まれつき?どういうこと?

 さらに問いただすとティシューは困ったように振り返った。

「彼女の過去にはあまり詳しくはないので……気にしたこともあまりありませんので……」

 誰にだって人には触れられたくない事の一つや二つある、初めこそ好奇心はあったが結局触れず今に至る。

 気づかぬうちに有るのが当たり前になっていた、ティシューはそういう風に言う。

「たしか、あのナイフは秘宝であったと存じます。あのナイフがあるが故に彼女は庭師を受け持ってると言えるでしょう」

 秘宝?と君はさらに聞いた。


「宝具……とも呼ばれますね。強い力を持った器具のことです」


 名前を「剣閃ナイフ」と言い、全身コレ刃物にする秘宝である。

 如雨露は持っていたが、剪定用の鋏を持っていなかったのはそれが理由である。

 手のひらで撫でるだけですぱすぱと切れる、手入れ不要ですっごい便利。

 だが、宝具と名の付くモノが草木の剪定のみにしか使えないはずが無く、ただ便利だから剪定に使っているにすぎない。

 太刀筋を記憶し自在に繰り出すことが可能である。太刀筋を記憶するためにはその剣技を打ち破らなければならない。

 だが、ローズマリーは使いこなすことは考えておらず、こうして男爵の屋敷で草木に囲まれながら暮らしているのが好きなのだ。

 もしこの宝具を十全に使いこなすことが出来れば、世界に名だたる冒険者になることなどたやすいだろうに、もったいない。


「というのがヴァンデミールの言い分です」


 ヴァンデミール、君は思い出す。

 きのう食堂で一度声を聞いたあのメイドだ、白銀色の髪の毛した、何となくナイフ投げが得意そうなメイドである。

 彼女がそう言ったの?と聞くと、ティシューは短く肯定した。

 ローズマリーの宝具の強さをそのように評価できるということは、ヴァンデミールも相応の実力を備えていると言うことなのだろうか。


「はい、彼女はこの館のメイドの序列三位にして守衛室の長を担っております」


 ティシューの口ぶりを聞くと、相当強いのだろうと君は思った。

 ふと、その時、引っかかることが一つあった。

『メイドの序列三位にして……』『序列のある私どもが長を担う部屋でしたら……』

 君は聞いた、序列って何?


「これは説明をせず申し訳ありませんでした。序列とは単純に言うと偉い順序と捉えていただいて構いません」


 ティシューは何位なの?と君は聞いた。


「はい、僭越ながら六位に名を連ねさせて頂いております。ベーグルは七位、ローズマリーは十位となっております」


 被服室にいた他のメイド達の事を訪ねると、ティシューは首を横に振った。


「彼女たちは私どもの部下と言うことになりますので、序列には数えられておりません」


 要するに部長と平のような関係である。


「ただ、数字が若い方が強いというわけではありません。おそらく戦闘技術では私よりローズマリーの方が上であると思われます。しかし、館を守護するという意味では上位三名の強さは私には計りかねます」


 大体、この場所でそのような戦闘技術はさほど必要としない、森には獣がいるが、それくらいである。

 危機的状況に陥るほどの怪物など、そうそう出現することもない。


「しかし、あなたに何かあったらご主人様に顔向けできませんゆえ、危機が訪れたならば未熟ながらも全力で対応いたします」


 ピンと背筋を伸ばして宣言するティシュー、そのまなざしには一点の曇りもない。

 彼女の決意は本物だ、たとえどれほど危険が君を襲おうとも、ティシューは君を守ろうとするだろう。

 君は真正面からティシューのまなざしを受け止めつつも、気の利いた返事がとっさに浮かばず、かろうじてお礼だけを言った。



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