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君と男爵、ときどきメイド  作者: みつ
第一章 ようこそ異世界へ
4/39

「発達した科学は魔法と区別がつかない」

 ★★★

 名前が違うだけで同じもの

 ★★★




 ここが異世界であるという証明はできまますか。君のその問いに、男爵が手を上げた。

 すると、メイド達が途端に動き出し始めた。

 てきぱきとテーブルの上の料理を片付けて始めるのを見て、君は男爵の逆鱗に触れたかと思った。

 しかし、男爵の顔をうかがい見ると、怒りの表情は見えず、むしろ得心を得た様子で笑みをかすかに浮かべていた。

 怒ったのでなければ、何故メイド達が料理を片付けたのか。

 やがてテーブルの上には燭台のみが残され、その蝋燭もメイドがふっと息で吹き消して持って行ってしまった。


「ふふふ、やはりそう来たか。まぁにわかには信じがたい事実だろうとは思う。私ですらおそらく君の住んでいた世界に行けば同じようなことを思うだろう。すまないが立ってもらえるかね?」


 男爵に促され、君は腰を上げる。


「もうよろしいのですか」


 真下から聞こえた声に君はびっくりした。思い出した、ティシューに座っていたんだった。


「さて、君は言ったね、ここが本当に異世界であるかその確証はあるのかと。ならば逆に君に問おう、君の世界でこのようなことができるものはいるのかね?」


 突然、浮いた、何もかもが。




 君は驚愕に目を丸くする、自分の身体がゆっくりと宙に浮かび上がっていくのだから。それだけではない、目の前のテーブルもクロスも浮き上がっていく。

 赤い絨毯は床に貼り付けられているからか動かなかったが、ふわふわの表面が波打っていた。

 君は慌てて身体を動かす、しかし両足はすでに地面から離れている、移動しようにも体重を預けられるところがない。

 パニック寸前になっていたところで、ティシューが抱きついてきた。


「落ち着いてください、何も害はありませんから」


 ぎゅっとティシューに抱きしめられその胸に顔を埋める。暖かくいい香りがした、君はだんだんと落ち着いていくのがわかった。

 そして次の瞬間、君たちはドサリと床に落ちた。


「どうだね、おもしろかっただろう?」


 男爵のその声を聞きながら君は顔を上げる。いつまでもティシューの胸に顔を埋めていては恥ずかしい。

 今のは?と君は男爵に問う。


「なんてことはない、いまのは取るに足らない『魔法』だ。もう一度やってみるかね?」


 首を横に振るよりも前に、またしても部屋の中の全てのモノが浮かび上がった。




 食事を終えると、メイド達が料理を片付けていった。

 全体の半分も減っていない、さすがに二人分にしては量が多すぎる。

 また、さっきの浮遊によって落ちた絵画を元に戻すメイドもいる。料理の説明をした二人のメイドだろう、髪の色が綺麗な青色をしていた。

 メイドの肩に立つというワイルドな肩車だった。下のメイドは上のメイドの足をしっかりと捕まえている。


「残りは彼女らの食事になるのだよ。捨てるにはもったいないからね」


 視線を男爵に戻すと、食後の飲み物をグラスの中で薫らせていた。グラスの持ち方から推測するとブランデーの類だろうか。


「さて、実は私は君に渡すものがあるのだ」


 渡すもの?なんだろうと思っていると、メイドがトレイに鞄を載せて入ってきた。


「君を見つけたときそばに置いていたというのだがね。見覚えはないかな?」


 男爵がそう聞いたが、見覚えがないはずがなかった。紛れもなくそれは君の鞄だったからだ。

 君はメイドからそれを受け取った。


「ふむ、君の物ならばそれは重畳。ところで一つ聞くが」


 何でしょう、と君が言うと、男爵は鞄を指して言った。


「君が寝ている間、その中から妙な音が断続的に聞こえたのだが。何か心当たりはあるかね」


 男爵の言葉に、君が音ってなんだろうと思うまもなくティシューがその音を諳んじた。

 君はその音がなんなのかすぐにわかった。携帯の着信音だ。

 何故着信音がしたのか、それはわからなかった、まさかとは思いつつ、君は急いで鞄から電話を取り出す。

 次の瞬間はっと思い出した。何万倍もの倍率から手に入れた、ユニバーサル携帯。

 君の手に黒く沈黙したそれが握られていた。

 思い出した、未だかつてない世界を体験しますかというメッセージが出ていた、まさかその世界がここだとでも言うのか。

 最初にメッセージが出たときは、このユニバーサル携帯の能力という意味でのメッセージかと思って何も考えずに「はい」を押したのだが。

 ディスプレイは黒く沈黙している。ユニバーサル携帯には受電機という装置が付いているはずだ。空気中の電気から電源供給されるためにバッテリも非常用に最小限しか付いていない。だがここが異世界だとしたら?電源供給ができるのは元の世界だけだとしたら……。

 君は問う、一体自分はどれほどねむり続けていたのかと。最後にその音を聞いたのはどれほど前なのかと。

 その言葉にはティシューが答えた。


「あなたを発見したのは2日前、最後に音を聞いたのはきのうです」


 ボタンを押してみるが反応はない、やはり電池切れだろうか。電気の供給もないということだろうか。

 しかし冷静に考えてみると当然だろう、異世界で携帯が使えるわけもない、異世界で使うことを想定して作られるはずもない。


「それは何だね」


 男爵に問われたので、君は『ユニバーサル携帯』ですとその道具の名を答えた。

 さらに男爵はより興味が沸いたようで、何に使うのかを聞いてきた。

 君は、遠くの人と話をしたりメッセージをやりとりできる、と答えた。

 すると男爵は大いに驚いた様子で、そんな小さな機械に遠距離通話術が仕込まれているのか、と言った。


「遠距離通話自体はさほど難しい術ではないのだよ」

「ご主人様の感覚を基準にされても困ります」


 ティシューがさらりと言った、男爵は笑う。




 この世界に存在する生き物のマナを感知し、対象の存在をしっかり探知できないと使うことができない遠距離通話術は、日々世界を飛び回っている男爵くらいしか使う人がいない。

 その術を使える人間はメイドの中にもいるが、諸島の外まで届かせることはない。

 男爵の笑い方から推測するに、男爵には余裕なのだろう、ばけものめ。

 男爵は君に手を差し出して、差し支えなければ拝見したいと言った。

 君はテーブルを迂回して男爵に近づくと、携帯を渡した。

 男爵は手の内でぐりぐりと携帯をいじる、手の動きは雑だったが、その程度で壊れることはないから君は何も言わなかった。


「これはどうやって使うのかな?」


 男爵が問う、君は電源を入れる必要があると教えた。


「入れてみてくれたまえ」


 そう言って男爵は機械を返す。君はそれを受け取りながらも電源ボタンを長押しした。

 ここが異世界だとしたら電源などはいるはずもない。電源供給がされないので内部バッテリーもすでに切れてしまっているだろうと思いつつ。

 ディスプレイに光が灯った。


「ほうほう、なるほどなるほど、実におもしろい、実に興味深い」


 唖然とする君をそっちのけで男爵は携帯のモニターをのぞき込んでいる。

 なぜと思ったが思い直した。大気中の電気から電力供給を行うのならばこの世界でも使えるということなのだろうか


「ふぅむ、君たちの世界の道具はこちらでも使えるのか、それは実に素晴らしい科学力だね」


 そうだ、確か受電機は落雷によって大気中に生じる電気、もしくは雷雲から漏れ出る電気を取り込んでいるとの話だったはずだ。

 この世界でも雨は降るし風も吹く、雷も落ちるし雪だって降るのだろう、そう考えるのが自然だ。

 君は男爵の顔を見る、珍しいおもちゃを見つけた子供のような顔で画面を見ている。

 しかし、やはり男爵が嘘をついていてからかっているのかとも思った。ここは異世界でも何でもないのかと思った。

 待ち受け画面に表示あり、『着信あり』と『留守電メッセージあり』と『メッセージあり』の三つ。

 君はまず着信履歴を確認した。履歴のほとんどが家族からだった。


「それは何かね」


 男爵がそう聞くと、君は履歴ですと答える。履歴とは何かと男爵が問うと、電話があったという知らせですと答えた。


「デンワか。そんな小さな道具を持つだけで遠距離通話魔術を自在に扱えるとは、実に素晴らしい」


 男爵は賞賛を述べた。

 その直後、携帯が歌った。



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