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君と男爵、ときどきメイド  作者: みつ
第一章 ようこそ異世界へ
32/39

「天山大剣かく語りき」

 ★★★

 おまたせ

 また来たよ

 ★★★



「さて、ばれてしまったなら隠れても仕方ないな。

 紹介にあずかったのはこのぼく、天山大剣だ。けらけらけら。どう?びっくりした?」

 と天山大剣が言いながら気まぐれに姿を現し、島が再び夜のようになった。


「頭の悪そうな声だな」


 と男爵は言う。眉間に皺をよせて不愉快そうだ。


「貴様の目的はなんだ」


 と男爵が叫ぶ、空に向けて。


「人間ごときがぼくの崇高な理念を理解できるとは思えないけれど。

 とりあえず、町をナパームの襲撃前の時点に戻しておこう。男爵が【帰化】で出現させた木々も消しておこう、邪魔だしね。

 この天山大剣の能力をもってすればこの程度の芸当はお茶の子さいさいなのさ、けらけら。

 おぉ、男爵がにらんでいる、怖い怖い。どうせぼくにさせるように言うつもりだったくせに。

 あぁ、そうだよ。ぼくは思考を読めるよ、どこの誰がなにを考えなにを思い、何をしようとしているのか手に取るようにわかるのさ。

 だからやめときなよ男爵、魔力の無駄遣いだ。君は自分と相手の力の差がわからないほど愚かだったのかな?」


 と天山大剣が言うと、男爵は術式を解除し、身体からあふれ出た魔力が霧散した。


「ちょうどいい、取り込んでおこう、うまうま」

「貴様……」

「おぉ、怒った、怖い怖い。まぁそんなに怒らないでよ、無理矢理魔力を徴集しようなんてしないから」

「目的はなんだ」

「正直に言っていい?」

「……何か躊躇う理由があるのか」

「ぶっちゃけちゃうと、この世界とあちらの世界の力関係の均衡が目的なんだ」

「均衡……釣り合わせるということか? なんのために?」

「突然だけど男爵。例えばの話もしこの世界の生物全てとあちらの世界の生物全てとで戦争を行ったとして、勝利するのはどちらだと思う?

「……その生物に貴様は入っているのか?」

「鋭いなぁ、当然ぼくは手出しはしないよ。そう考えると全ての生物って言うよりも全ての人類って言い換えようかな」

「ならば、おそらく……あちらの世界だろう」

「へぇ、何故そう思う?」


 と男爵はそのマントを翻すと、いずこからか細長い物体を取り出した。

 男爵が出したその物体に旅人はぎょっとした。何度かニュースで見たことがある物だ。

 その名を『ルチノーイ・プラチヴァターンカヴィイ・グラナタミョート』と呼ぶ。英語綴りにした略称はRPG。

 ロケット弾という認識で大体相違ない。

 これは現代地球、すなわちこの世界の物品ではない、あちらの世界の武器だ。何故男爵がそんなものを持っているのか。


「貴様を追って世界を飛び回ってるといろいろ珍しい物を拾ったりもするのだよ」


 そして、男爵は躊躇なく使用したが、弾頭は天山大剣に届くことなく海へと着水する。


「ふん」


 男爵はがらくたになったRPGを放り捨てた。この兵器は一発こっきりの使い捨てだ。


「貴様ならこの兵器の威力は知っているだろう?」

「もちろん。構造単純、取扱簡便、低製造単価、さらに比較的軽量で高威力という性能ゆえに発展途上国の軍隊やゲリラに使われているね。

 この程度の情報は携帯で調べればすぐ出るから調べてみるといい」

「そしてこのとおりだ」


 男爵が、マントをふわりと翻すと、ガランガランと金属音を立てて大量のRPGと砲弾類が現れた。


「そんなに落ちてたんだね」

「一つ一つ拾って丁寧に掃除をして使える状態にしている」


 クリーニング、もちろん修復及び洗浄作業をしたのはメイドだ。


「ロベルタは何回死んだのかな」

「100から先は数えてないな……人の思考を読むな」

「男爵自身がいつもしてる事じゃないか」

「……話がそれてる気がする。元に戻すぞ」

「かまわないよ」

「マナを消費せずあれほどの威力を出せるこの道具が、あれほど大量に作れるならばそこらの一般人でも魔獣を殺せる」


 労力は発射するときの反動くらいだが、RPGは反動を相殺する機能も搭載、暴発に注意すれば子供でも使えるだろう。


「マナを消費しないという言い方は厳密には正しくはないがな」


 男爵の言うとおり、全ての物質は存在するだけでマナを消費する。

 生物であれば、呼吸をするとき、食事をするときにマナを取り込み、愛を語らい子を産み育てるときにマナを放出する。


「そうそう、魔力とは、イコールマナという認識で構わないよ、呼び名や使い道が変わっても大本の力であることには変わりがないから。

 つまり、たとえば銃の引き金を引く、火薬が炸裂する、弾丸が発射される、このプロセスのなかでもマナは消費されている。

 だけど、そのマナの消費は人々は普段無意識で行われているものだから自覚はないだろうね」


 天山大剣による補足説明。

 男爵の言うマナの消費とは意識をした上での魔力の放出だ。魔法や魔術の取扱いの意味だ。


「この世界には、これほど効率のよい武器がないのだ」


 それは、魔力を扱える者の存在することによる弊害だ。


「知っての通り、私は魔術士であり魔法使いだ。かのナパーム程度なら数分あれば容易く殺害できる。だがそれだけだ」


「そう、それだけ。男爵は強いよね、おそらくあちらの世界のどんな人間よりも。

 だけどそれでも男爵は独りだ。ヒトという種の中から出現した突出した存在とはいえど、個人の力ではどうしようもならないことはいくらでもある」

「こちらの人間とあちらの人間が、殺し合いをしたら、おそらくもっと強い武器を作ってしまうだろう」


 今、RPGの弾頭は天山大剣に届きすらしなかったが、そもそも直撃してもRPG程度の破壊力では天山大剣の防御を突破できない。

 それと同様に、RPGの爆発では男爵のマナによる防御領域を突破できない。

 しかし今ある武器が通用しないならより強大な武器を持ち出すのは戦争の常だ。


「あるんだろう?」

「あるね」


 天山大剣は肯定した。


「ならば、こちらの世界はあちらの……君の世界には勝てない」


 男爵のその言葉に君はずいぶん驚いた様子だ。

 魔術や魔法があるのに、それでも現代兵器の方が威力としては上だという事実に。


「……そうか、そう言うことか……」

「おや?何かに気付いたのかい」

「あちらの世界の人類は、マナによる魔術を使うその権利を放棄したのだろう。だからそんなにもか弱い」


 か弱いとは男爵基準の目線で、一般的な身体能力的にはこちらの人間もあちらの人間もさほど差異はない。

 人間というくくりで考えるたら男女の違いもたいした差にはならない。


「マナを繰る能力を放棄することで、個々が強大な力を発揮することができなくなった。だがそれでよかったのだろう

 弱い者同士で力を合わせることで苦難を乗り越えてきた。彼らにとっては魔術は発展のためには不要なものとして切り捨てたモノだったのだな」


「正解! ぱんぱかぱーん、どんどんどんひゅー、ぱっぱらぱー」


 天山大剣からファンファーレに合わせて大量の花火を投下される。普通花火は打ち上げるものだが、天山大剣は高度数千メートルの位置にあるから問題ない。


「数千……なるほど、あの武器じゃ届く道理はないか」

「……そっちこそ思考読まないでくれないかな」

「読まれたくないならばちゃんと遮断しろ。それくらいできるだろう」

「できるけどそれしたら不親切だって罵られちゃうじゃん」

「なにを今更」

「けらけらけらけらけら、仰るとおり。だからこそぼくは認識されないようにひっそりと存在していたんだけどね」

「ふん、そのように天山大剣でこの世界の空を謳歌しているもののセリフとは思えないな……。ナパームの襲撃も貴様の仕業か」

「いや、便乗はしたけれどアレは偶然だよ」

「偶然か」

「そうだよ」

「落雷も貴様の仕業か」

「それにぼくがあえて答えると思うのかい」

「ならばなぜ今回に限って攻撃を行った。ナパームは確かに人類の天敵として強大な力を持つが、この町の住人の力をもってすればさほど苦ではない相手のはずだ」


 ナパームは鎖によって完全に捕らえられた。しかし天山大剣より放たれた雷によって鎖は一瞬にして蒸発しナパームは解放された。


「まぁぶっちゃけていうと、調子こいてるからちょっとちょっかい出しただけだよ、けらけら」

「貴様のその気紛れで町はあの有様か」

「そんな怖い顔しないでもいいじゃないか、全部なかったことにしてあげたじゃないか

 なんだったらヴァンデミールやロベルタの怪我もささっと治して「断る」あげても、そう?遠慮なんて要らないのに、拒否られちゃった」

「どこの世界に自分の腕を吹っ飛ばした人間に直してほしいなどと思うか」

「wwwwwwwww」


 天山大剣は楽しそうに失笑した。


「そんなに毛嫌いしなくても、そもそもぼくは人間でないし。知らないうちに直っていた、なんてこともしてあげられるよ?

 そう、人はそれを奇跡と呼ぶよwww。幸せそうに涙を流して喜んでくれるよwww。誰もが喜びの声を上げるよwwww」

「断る。貴様の世話になるのは今後一切まっぴらごめんだ」

「そう?ならいいや」

「私はどうも貴様のことを好きになれそうにないな」

「嫌われちゃった。けらけら、ぼくは男爵のこと結構好きだよ」

「貴様に好かれたくもないな……。話を戻そう、ずいぶん脱線してしまった」


 Q:なぜ魔術を発展には不要のモノとして切り捨てたのか。


「一つ聞くが天山大剣、彼らの世界の人類の総数は何万人だ?」

「それって参考になるのかな? それに桁が違うよ、大体七十億人だよ」

「億……七十億……いまいち多いのか少ないのかわからないな」

「けらけらけら。こちらの世界の人口も把握できてないもんねww」


 それも詮無きことだろう、この世界は広いし魔獣だって闊歩している。


「こっちは広いよ。どれくらい広いかというと、あちらの世界の五十倍くらいの広さがあるよ」

「そんなに広いのか」


 比べたらの話だ。しかし広さの割に人が住んでる土地はこちらの世界はそう広くはない。魔獣、魔物、植物、海。人のものではない領域が広すぎる。


「んで、人口の話だけど、この世界には大体三十億人が存在してるよ。もちろん亜人種を含めての数だけれど、ロベルタやローズマリーは含めてないよ」

「屍鬼や草人だからか」

「Exactly。ちなみにインデックスやリードマンも除外ね。彼女たちみたいな特殊な種族を数に含めるとかなり数値が変わるから。

 そもそもこちらの世界ならともかく、あちらの世界には彼女たちのような存在はほとんど居ないからね、比率が全く違うから入れるわけにはいかないのさ」


 前述したとおり、ロベルタを初めとする屍鬼は魔術によって行動が許された屍体だ。

 ロベルタのような高品質な屍鬼なら人と何ら変わらないけれど、質の悪い屍鬼を生み出そうと思えばいくらでも生み出せる。それは数に入れない。


「ちなみに入れるとどうなる?」

「そうすると、ざっと九十億ってところかな」

「いきなり3倍か」


 屍鬼とはゾンビやスケルトンとかのアンデッドのことだ。それなりの実力を持つ術士なら割りと簡単につくれるし自然発生もする。


「でも実は屍鬼よりも草人の方が多いんだ、ローズマリーのように動いて喋れるのは稀だけどね。

 インデックスのような人形や、リードマンみたいなゴーレムという種族を含めたりするとそんな数になるよ。

 他には精霊や妖精、悪鬼や病魔なんて種族もあるけれど、それでもやっぱりあちらの世界の人間の数のほうが多いよ。あちらの世界は『人間』という一括りの種であるにもかかわらずね。

「そして、魔術を使えない」

「ゼロというわけではないけどね。先天的に魔力が高かったり、無意識に魔術を使えたりする人間はかつても居ないわけでもないから」

「それでも多くはないんだろう?」

「そうだね。こちらの世界の魔術師の割合に比べてかなり少ないのは確かだよ。その少ない理由が、さっき男爵が言った『人類が発展するには不必要なモノとして切り捨てた』からと言うわけなんだけど。なぜだかわかるかい?」

「私のような魔術士が居ると、集団がその人物に依存するようになるからだろう」

「まさにその通りなんだ。魔術は確かに便利で、魔術を使えれば無人島でたった一人生き続けることだって可能だ。男爵、火を出してみてくれるかい」

「こうか?」


 天山大剣に促されるままに男爵が手のひらに火を出した、その火があれば寒い冬の夜だって平気だ。火があれば食材の加熱も可能だし、お湯を沸かす事だってできる。


「今でこそあちらの世界ではガスコンロなんて便利なモノがあるけれど、そんなモノがない昔の時代なら魔法に見えただろうね。

 もし今のような技術がない時代に、そのような能力を持った人間が、そのように便利なモノをばらまいてしまうとそこで技術が止まってしまうんだ。

『なんで?火なんて彼に頼めばすぐに手にはいるじゃない』なーんてことが起こってしまう」


 実際よくある話だ。わかりやすい例えで言うとイラストレーターに対する扱いだろう。

 彼らはその技術を習得するために自身に多大な投資を行っている。

 しかし世の人々はその彼らの技術をあまりにも軽視しすぎる。


「ちょちょっと適当に書いてよって言われて言われるがままに書いて提供する。そしてその恩恵を受ける側はその恩恵がさも当然のように受けられるものと勘違いするよね」

「なんか話が飛んだぞ、なんのことだ」

「あ、ごめんこっちの話だった。忘れて」


 天山大剣は発言を取り消した。


「そんで、そんな能力を持った人間によって火が簡単に手に入る世の中になったとして、その彼が明確な意図を持って火を与えることをやめてしまえば困ったこと大変なことになるよね。ちなみに男爵は火を分けたりしてないよね」

「そんなことをしてるほど私は暇ではない」

「そのおかげで町の住人は未だに火打ち石と油、薪で火を扱ってるんだけどね。館とは大違いだ。

 だけどそれでいいのさ。火がほしい、そんな簡単なことで他人を頼ってたら、その彼がいなくなったときどうするのって話。人間だもの遅かれ早かれ死ぬ」

「『不老』の術を使えばいいだろう」

「男爵基準で簡単に言わないでよ、一般人が『不老』の魔術なんて一生分のマナ使ったって発動させられないよ」

「『節約術』で使用するマナを減らせばいいだろう」

「あーもう!無理だっつってんでしょ!まったくもう!

 こほん。

 もっと楽をしたいなら人は人の可能な範囲で工夫を凝らすべきなんだ。

 そして人はその選択をして、次第にそのような術を使う人間は、群衆を惑わす異端者として排斥されるようになったのさ。

 その筆頭と言ったら、かのナザレのイエスだよ」

「知らんな」

「だろうねwwww。ナザレのイエスと言ってもあんまり君たちにはなじみが少ないかな。それとも文脈とイエスという名前だけでわかるかな。

 どうやら察してくれたようだね。そう、イエス・キリストのことさ。イエスと言ったら宗教関係に疎い君たちでも知っているだろう?」


 旅人は肯定した、さすがに世界三大宗教の発端ともなった有名人だ。名前くらいは知っているだろう。

 ナザレのイエスについて興味が湧いたらその手元の携帯で検索してみるといい、それで大体わかる。子細は異なれど特に問題はない。


「真実については伏せておくとするよ、彼の神秘性を損なわせないためにもwwwwww」

「だが魔術を使えたのは本当なんだろう」

「本当だよ、あちらの世界では奇跡を起こしたって言われてるけどね、男爵からしてみれば単なる魔術だろうね。

 それでもあちらの世界人間からしてみたらイエスがしたことは紛れもなく奇跡さ」

「貴様が手を出したのではないか?」

「む、どうやらさっきのぼくの発言をそう捕らえたようだね、こっそりと気付かれないように救いを与える、なんてことを……。

 出wwwしwwwたwwwよwwww、けらけらけらけら。

 でもだからって彼の能力が偽物というわけではないよ、確かに彼には奇跡を起こすだけの力があったのさ。

 でも結局十字架に貼り付けにされて槍に貫かれて処刑されるんだけどね」

「結局か」

「そう結局ね、確かに彼の奇跡は素晴らしかったし救われた人も何人もいた。パン5個と魚2尾で数千人のお腹を満たした時もあったよ。その時その信者達は彼をメシア王と確信したのさ」

「飯屋王か。少し面白いな」

「wwwwww」

「ブフォッ」


 突然、黙って聞いていたマイルスが吹いて崩れ落ちた。


「メシアが……メシヤ。ごほっ、ううぇwww」


 どうやらツボに入ってしまったようだ。

 orzの格好でぷるぷると震えている。


「ちょ……ごめ……www。メシ……ぶふっ」


 端正な顔が見る影もないが、ある意味で言えば肩を振るわせて笑うマイルスの笑顔はそれはそれで魅力的である。


「うるさいばかっ!あーもう、鼻水出て来たじゃないか」


 医者の七つ道具の中からガーゼを取りだして拭う、どうやら落ち着いて立ち上がったが涙目になっている。


『笑いすぎだ』


 さりげなく天山大剣と男爵のセリフがユニゾンした。




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