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君と男爵、ときどきメイド  作者: みつ
第一章 ようこそ異世界へ
27/39

「ドクター・ワーク」

 ★★★

 医術と魔術と技術と手術

 ★★★



 ナースに先導されて奥へ入ると、まず目にするのは開放的な壁だ。

 壁はくりぬかれて外が見えており、新鮮な空気が室内に常に吹き込んでいる。

 雨の日や夜は下ろすであろうひさしが、今の時間は全開になっている。ガラスはないようだ。

 そして次が保健室という名にふさわしいいくつかのベッド。

 白い床に、壁に並んだいくつかの本棚。【用途がわからない変な装置】もある。

 ベッドの枕元にはチェストが1つ、一番上には花瓶が置かれ、花が生けられている。チェストには引き出しがある、結構容量がありそうだ。

 ベッドの数は全部で6つ、そのうち5つが使用中のようで、目隠し用のカーテンが引かれている。

 君はそれを見て、まるで病室のようだと思った。

 まさしくその通り、これは君たちの世界では、病人のための部屋はこうなっているという情報によって作り上げられたこの世界唯一の保健室なのだ。

 そもそもこの世界では医術というものがあまり発展していない。

 病気になったときは医士から薬を買って、安静にして眠るということしかできないのだ。しかも全て自己負担。

 館のメイドはマイルスの実験体としての役割があるからかろうじて無料だ。しかし、それでもマイルスは結構暇をしている。

 そのため、前述したようにマイルスは割と島を留守にすることが多いのだが、そもそもメイドたちの自己管理能力が高いからマイルスが暇なのか、マイルスの世話になりたくないからメイドたちの管理能力が高くなったのかそれは誰にもわからない。




 部屋の中央に太い柱、その天井部分に給水口があり、そこから水がだばだばとあふれ出ている。とても涼しげな光景だ。

 あふれた水は柱を伝って根元へ。そこは手洗い場になっていて、床に水が流れないよう押さえる役割もあるようだ。

 手洗い場はありふれた御影石を削って磨いたのだろう、表面がとてもつやつやぴかぴかとしている。

 その手洗い場のすぐそばで、小さな椅子を置いて座っている女の子がいた。

 先ほどマイルスが手に持っていた鞭が転じたあの黒いアゲハチョウのようなドレスを着た女の子だ。

 椅子に座り、スカートの上にメスや鉗子などを置き、布でごしごしと磨いている。

 水を入れた容器を床に置いている。水が少し濁っている、どうやら容器に入っているのが未処理、スカートに広げているのが処理済みのようだ。

 少女は、メスをごしごしと拭いながら視線を上げた、マイルスをスルーして、少女は君に小さく会釈した。

 そして手に持っていたメスをスカートに置いて。次を容器から取り上げてごしごしと始めた。メスはまだたくさんある。


「ムチ、ワッターのノコどこねー?」

「あっち」


 マイルスの問いかけに、ムチと呼ばれた少女は視線を上げずに手にメスを持ったまま指さした。

 示された場所へマイルスと向かう、するとそこには立派なデスクがあり、その上にはマイルスの思うとおりの道具が置かれていた。

 ぎゅるん、ドッドッドッドッドッ。

 そしてとつぜんマイルスはそれを始動させた。

 チェーンソーだ、どこからどう見てもチェーンソーだった。

 ノコって回転のこぎりのことか、と君は思った。

 刃はとても綺麗にクリーニングされており、まるで新品のようにぴかぴかだ。

 レバーを引くと刃がギュインと回転する。


「いやああああっ、やだやだやだやだー。やめて! やめて! 来ないで来ないで来ないでーーー!!!」


 すると突然、拒絶の絶叫がベッドの1つから聞こえてきた。マイルスはチェーンソーを持ったままベッドへと近づいた。

 ベッドにはカーテンがかけられていたが、元は白かったであろうそれはうっすらほんのり黒く染まっていた。

 マイルスがカーテンをしゃっと乱暴に払って開け放つ。

 するとそこのベッドの上に、両腕に包帯を巻いた少女が一人、恐怖に顔を歪ませて泣いていた。

 だがその腕は、本来存在するであろう長さより遥かに短い。

 君が視線を下ろすと、少女の傍らに何か細長い物体が同様にグルグル巻きにされて置かれている。

 片端が赤い。お察しの通り少女の腕である。

 マイルスが近寄る、少女が後ずさる。


「逃げられたんじゃ治療ができないじゃないか」

「治療!? そんなもので治療されたんじゃ直る前に死んじゃうよ!」

「そんなものってひどいなあ。これはれっきとした医療用回転のこぎりだよ」


 とマイルスは供述していたが、思わず君は絵面的にマイルスを止めた。一体何をしようというのかと。

 マイルスはあっさりとした様子で言った。折れた両腕をこれで一回ズタズタにしてから直す、と。

 大丈夫なの? 大丈夫だよ。

 大丈夫らしかった。


「大丈夫じゃないよ!現にさっきやられたアルニラムとアルニタクが死にかけてるじゃないかぁああ!」

「死にかけてたとしても死にはしないから大丈夫だよ」

「いやあああああああああーー!」


 マイルスは聞く耳持たなかった、泣き叫ぶ少女に一歩また一歩と近づいていく。ちなみにこの少女の名前はミンタカである。

 チェーンソーの金属の刃が高速で回転する。

 少女の視線が君へと伸びる、救いを求め懇願するようないたいけな瞳だ。翡翠のような瞳は涙で濡れてキラキラとしている。

 君は少女を不憫に思い助け船を出した。他に何か方法はないのかと。


「あるけど時間かかるよ」


 マイルスはそう答えた。

 それでも痛いのよりはましだと、少女はそっちにしてくれと懇願した。

 しかし、


「(´・д・`)ヤダ」


 とりつく島もないあっさりとしたマイルスの即答。少女も君も思わずぽかんとなった。


「あのさぁ……」

「ひっ」


 マイルスが片手でそのチェーンソーを持って、刃先を少女の鼻先に突きつけた。

 少女の眼差しが、金属の光沢を放つ刃へと注がれる。


「わかってないようだから言うけど。あんた……あんたらか。あんたらは拾われたの。落っこちてた命を拾ったの、拾われたの。ここの主である男爵にね」


 実際拾ってきたのはメイド達だが、それは些細な違いだ。

 飼い犬は、拾ったものを主に献上する事を至上の喜びとする、そう言うことである。


「現状を素直に受け入れることだけがこの世を上手に生きていく最良のコツさね。さて……」


 そしてマイルスはにっこりと笑った。


「オペを始めまう」


 噛んだ。





 施術開始3秒で、ティシューが君の目と耳をまもりのスカーフで巻いた。

 しかしそれでも、少女の身体から飛びちった鮮血の臭いが鼻につく。息をするたびに血の臭いが鼻孔を犯す。

 口で息をしても、血と肉の臭いはなお強く届く。

 開始5秒で、君の鼻と口に何か布のようなものが押し当てられた。これは何だろうか、ティシューによって目隠しされているのでなんなのかわからない。

 しかし深呼吸すると肺がその香りで満たされる、生臭い血の臭いが薄れていく。


「ふぅ」


 ものの数分で処置を終え、マイルスは刃を止めた。

 ノコギリは血まみれ、ベッドの上も血まみれでまるで猟奇的殺人現場だ。

 オペとは名ばかりの処置ではあったが、少女の両腕はものの見事にくっついている。

 マイルスが鎖状の刃を外し、部屋中央の手洗い場へ、置いてあった容器の中に沈めた。

 どうやらもう使わないようだ、バケツの中の液体は特殊な薬品だろう、刃に付着した血や脂が浮かび上がる。


「もうティシュー、せっかく私の勇姿を見てもらおうと思ったのに、ひどいじゃないか」


 腰に手を当てて、マイルスがティシューにそう抗議をした。

 ティシューがまもりのスカーフから君を解放する。数分ぶりの光と音は少しばかり変な感覚だ。

 目の前にティシューの顔、その手にはハンカチ。君の口と鼻に当てられている、あの香りはこの香りだったようだ。

 どうやらティシューがハンカチに香水か何かを垂らしたのだろう、おかげで君は血と脂の臭いを堪能しなくて済んだ。

 君は思わず口元に手を伸ばすと、思わずティシューの手に触れた。

 予想してなかったのかティシューがびくっと小さく体をすくませたのが目の前で見えた。

 ごめん、と君は思わず謝った。「いえ」とティシューは一言だけ言って、ハンカチから手を放した。

 君は自分の手でハンカチを持つことにした。くんかくんか。

 そして、ティシューがマイルスへの反論を言おうとした、そのときだ。


「マイルスの治療は刺激が強すぎるのですよ。お客様にお見せするようなものではありません」


 そんな声が飛んできた。

 どこからだろう、ベッドのひとつひとつがカーテンがかけられていて中は窺い知れない。

 と言いたいところだが、君はすぐ見つけた。ベッドの上で腰を起こして手を挙げているシルエットが見えたのだ。


「なに言ってんのさ。あんただってこうやって治療してやったんじゃないか」

「確かにその通りですし処置結果に不満はありませんが、過程は問題です。大体痛すぎます」


 マイルスがてくてくとそのベッドへと近づいた。カーテンをシャッと開く。


「この様な醜態を晒してしまい申し訳ありません。私どものためにご足労いただきまして、誠に恐縮の至りにございます」


 ベッドの上に正座するのは、メイド服を脱がされ、白く丈の長いシャツを着たヴァンデミールその人だった。

 メイド服は着てないがパンツはきちんと穿いているようだった。揃えた足の隙間からシミひとつない純白の布きれが申し訳程度に顔を覗かせている。

 ヴァンデミールの銀髪がふわりと揺れる、垂れてた頭をゆっくりと上げた。

 君はヴァンデミールの下半身に釘付けだった、もちろん白い布きれではなくその両足にだ。

 ヴァンデミールはメイド服に白いソックスを履いていた。だがその右足は綺麗にすぱっと断たれたはず。

 しかし、君の目の前のヴァンデミールのふとももはとてもふにふににしているように見えた。


「マイルスに直してもらいました」


 とヴァンデミールが言った。なるほど、さっきの少女の両腕を直した要領でヴァンデミールの切り落とされた右足を繋いだらしい。


「切り落ちた程度ならすぐ繋げるんだけどね」


 とマイルスが補足した。君の住んでいる現代医術から考えたら信じがたいほどの技術である。

 とは言っても、現代医術でもこれくらいはできるだろう。切断面が鋭利で、組織の損壊がある程度控えめであるなら、甦生が早ければ早いほど元に戻る確率は高くなる。

 もっとも、マイルスが使ってた機械のこぎりのようなやり方は、特殊な訓練を受けないとできないことであるが。

 そしてマイルスは、助手と見られる女性から白い包帯を受け取った。

 切り揃えられたクリスタルのような白い髪。ダークスーツ。表情の乏しい涼しげな美人。

 助手は表情を変えず君にぺこりと会釈した。

 君も一応礼を返す。助手から受け取った包帯をマイルスが患者の腕にグルグルと巻き始めた。

 助手も包帯を取って反対の腕を包帯で巻く。腕は繋がったと言っても傷口はまだふさがっていないのだ。

 真っ白だった包帯からじわりと血で染め上げられる。


「そういえば紹介がまだだったね。こいつらは私の助手だよ。名前は梔子、鞭、花実という」


 包帯を巻きながらマイルス言った。こいつらという言葉が示すのは3人のナース。

 クリスタルのような白い髪、ダークスーツ。表情の乏しいミステリアスな美人。梔子きょうこ

 手洗い場のそばで椅子に座り、器具を磨いている黒いドレスを着た美少女。むち

 すらりと伸びた足、ホットパンツに白のレギンス、褐色の肌にネコのようなベリーショート。花実はなみ

 どうやら保健室の人員はマイルスを含め4人のようだ。



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