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君と男爵、ときどきメイド  作者: みつ
第一章 ようこそ異世界へ
23/39

「図書館の目録及び案内人」

 

 ★★★

 最古のメイドと最新のメイド

 ★★★



 結論から言うと、取り越し苦労だった。

 進んだ先の扉を開け、屋上から室内に入り、階段を下りた目の前に扉があった。

 扉はものすごくでかかった、君の身長の倍はある観音開きの扉だ。

 君は扉に触れて押してみる、結構重い。

 さらに力を入れると、扉の激しい抵抗も虚しく開け放たれてしまった。

 君は驚いた、目の前に広がる広大な広さの部屋の中に巨大な本棚がいくつも鎮座し、それらの全てが様々な装丁の書物を収めていた。

 というか、明らかに広すぎる、君は降りてきた階段の高さを思い起こす。

 降りてきた高さはせいぜい数メートルだ、だが目の前の本棚は優に十数メートルはあるだろう。

 部屋の中央にの本棚の高さでさえそれだ、その奥に壁と一体化している本棚はさらに高い。

 天井はステンドグラスのようになって、空からの光を取り入れるようになっているようだ。

 数メートルと言ったら建物で言うと一階分程度だ、君が先ほどまでいた場所が屋上なら、この図書室は天井をぶち抜いている。

 明らかに間取りがおかしい。


「……いらっしゃい」


 君の入室に気付いたメイドが寄ってきて来訪を歓迎した。


 茶褐色の髪に小動物のような垂れ目。着ているメイド服は少し特殊で、足首まで広がるスカートはまるで本のページをバラして貼り合わせたような造形

 お腹から上はシックでシンプルなメイドエプロンで、胸ポケットに手帳が入っている。


「……図書室の管理を努めている……えっと……」


 少し言いよどんだ後に、メイドは胸ポケットの手帳を引っ張り出した。

 君の視線を少し気にしながらも両手で手帳を開いた。

 ぺらぺら、ちらっ、ぺらぺら、ちらっちらっ。


「……あっ」


 見つけたようだ。


「……リードマン・エメト・アルマンダル……です」


 名前かよっ!

 君は思わず心の中でつっこんだ、手帳を開いたって事は何か台本でもあるのかと思ったら自分の名前を言っただけだったのだから。


「……リードマン・エメト・アルマンダルです。うん」


 なんかどや顔で復唱した、大事なことのようだ。


「……えっと……うん……図書館の管理を……」


 それはわかったから。


「……うん……何かご用ですか?」


 かくんと首をかしげた、腰まで届く長い髪がふわりと動いた。

 なんだか君は小さな子どもみたいだな、といった感想を覚えた。

 君は屋上でベルウッドから聞いたことを話した、かくかくしかじか。


「……インデックスに……ごよう?」


 君は少し悩んだ、用と言うほどでもないのだ、ベルウッドの口から出た名前がそれだっただけなのだから。


「インデックスー」


 リードマンは天井を仰いで名を呼んだ。


「なーにー?」


 元気な返事が返ってきた。


「旅人さんがー、来てるよー」

「マジで!?」


 リードマンの視線が天井に向いている、君もそっちを見上げてみた。

 いた。さっきは気付かなかったが、天井の採光ガラスに人がいた。影はぱっと手を離して落下する。

 はっとしたときにはこっちに落ちてくることに気付いた。

 慌てて動こうとしたら、その腕をリードマンが掴んで止めた。


「動かない方が……」


 ダンッ、とそれはリードマンの隣に着地した。

 目を丸くする君の前で、彼女は、インデックスはすっくと立ち上がった。

 錆びた鉄色の髪、自信に満ちた黒い瞳。

 メイド服と言うには少し相応しくない、シンプルなワイシャツに胸元に大きなリボンがアクセント。

 スカートは膝上4センチといったところで、そこに見える膝の間接が彼女が人間でないことを教えてくれる。


「やぁ、出迎えもせずにこの様な痴態を見せてしまって申し訳ない。ボクがインデックスだよ、旅人さん」


 ふわりと髪をかき上げる仕草をして、インデックスがニッと笑った。メイドと言うにはずいぶんフランクな話し方だった。

 リードマンがインデックスの頬を袖でゴシゴシと拭った、埃が付いていたのだ。


「ありがとうリードマン。それで旅人さん、ボクらに何か……ん? 何かな」


 君が見ているものはインデックスの体そのものだ。

 インデックスの肘、膝、手首といったさまざまな関節が人とは違う球体をしていたのだ。


「ふぅん、球体関節は珍しいのかい?」


 君はうなずく、そしてインデックスのことを尋ねた。


「ボクのことが気になるのかい? うれしいね。ボクの名はインデックス・ギア・スターリスク、そしてこっちが」

「リードマン・エメト・アル、マン、ダル。ですっ」


 今度はメモ帳を見ずに言えた、リードマンがどや顔でむふーと鼻息を荒くしている。


「というわけさ。ボクが『人形』で、リードマンが『ゴーレム』だよ」


『人形』? 『ゴーレム』? 聞き覚えのない言葉に君の疑問は尽きない。


「ふむ、立ち話もなんだし、とりあえず奥においでよ」


 そう言ってインデックスはとことこと図書室の奥へと足を運ぶ。

 そしてリードマンが君の手を引いて、君はそれについていった。


 図書室の中央にある大きなテーブル。インデックスはそれの上に腰掛けた。


「まずはボクのことから説明するね。ボクは『人形』ってさっき言ったとおりで、ご覧のように『人間』じゃないのさ」


 そんな君の目の前で、インデックスが腕の肘関節をぐるぐると回転させてみせた。

 さらにすぽっと右手で左腕の肘先を取って外してみせた。


「ちなみにこうやって外せるんだ。はい」


 インデックスはそう言って、外した自らの腕を君に差し出した。

 君はおそるおそるそれを受け取った。『人形』と言った割りにはその質感は指も、手のひらも、腕もむにむにとしている、本当の人の腕みたいだ。

 感覚はあるの? と君は聞いた。


「外したらないよ、動かせるけど」


 そう言ってインデックスは実際に君が持っている左手の指をキリキリと動かしてみせる。

 手首の球体関節でぐるぐる回すことも可能なようだ。

 改めて君はインデックスの腕を眺めてみた。

 指の関節の一つ一つにパチンコ玉ほどの大きさの球体関節がある。

 その玉が前後左右に自由に回転して、人間には不可能な関節の動きができる。


「動かせるけど、空中で自在に動かせるわけじゃないし、飛ばしたら自分で回収しないといけないからあまり外さないけどね。クリーニングするときは便利かな」


 そう言いつつ、インデックスが左腕を差し出した。君は持っているインデックスの腕を本体に近づけると、まるで磁石のようにぱちっとくっついた。


「それで次はリードマンだけど、やる?」

「やる」


 ふんっ、と気合い十分でリードマンが胸を張った。

 するとインデックスは君とリードマンを置いてどこかへ行ってしまった。


「リードマン・エメト・アルマンダル、ですっ」


 今度はすらすらと言えた。けどこれはさっきも聞いた。


「えっと……図書館の管理をしています。えっと……」


 これもさっき聞いた。


「えっと……」


 言いよどんでいるリードマンに、インデックスが戻ってきてその頭にぽんと一冊の本を置いた。

 頭上に手を伸ばしてリードマンがその本を取った。

 本には『リードマン取扱説明書』と書かれていた。

 ちらっ。ぺらぺら。


「えっと、リードマンは、『ゴーレム』です」


 リードマンは読み上げた。

 まず『ゴーレム』とは。一般的なその存在としては、土や石などの鉱物を素材とした疑似生命体という認識が大きいです。

『ゴーレム』とは『胎児』を意味し、作成した主人の命令を忠実に守る召使いのような存在です。

 運用上護るべき制約がいくつかあって、それを遵守しないと暴走します。

 そしてリードマン・エメト・アルマンダル。彼女は世界にもまれに見る、『本でできたゴーレム』です。

 男爵によってつくられ、自由意思と自立行動権限を与えられた、唯一無二の存在である。ちなみに材質は『紙』です。

 リードマンは覚えるのが苦手です。でも記録するのは得意です。記録できるので記憶できなくてもいいっていう理屈です。

 リードマンは魔術が使えます。刻印魔術の一種で……。


「あ、そのあたりでいいよリードマン」


 リードマンの読み上げをインデックスが一旦遮った。


「読んだとおり、リードマンは本を素材にして作られた『ゴーレム』なんだ。元々図書室はボクの管轄だったんだけど、1人じゃ大変だろうってことで男爵がつくったんだよ」

「リードマン、3さいです」


 リードマンがどや顔で指を3本立てた。


「そう、3年前につくられたんだよ。ていうか自分の歳覚えてたんだ、ボクにとってはそっちのほうが意外だよ、リードマンえらいえらい」


 インデックスが褒めると、リードマンは鼻息を荒くして自慢げに胸を張った。

 よくみると、インデックスの髪も、スカートも本のページをつないだような形をしていて、その表面には何かしらの文字が書き込まれているように見えた


「例えばここ」


 インデックスが、リードマンの首の後ろの髪を少しめくった。

『鳥の月、ユロンの日、晴れ。きょうは本の整理をしました。毎週新しい本がやってくるので整理が大変です。虹の魔術書にまたページが増えました。ご主人様は魔術を1度見ただけで覚えられるのですごいと思います』」

「やめて……」


 インデックスがそこまで読んだところで、リードマンが恥ずかしそうに首筋を押さえた。


「他にも毎日何をしたかとかそのとき何を思ったか、リードマンの体には逐一記録されるんだ。本だからね」

「言わないで……恥ずかしい」


 リードマンがインデックスの手をぺちぺちと叩いている。

 リードマンは日々あったことを覚えない、なぜなら自身の体に記録されるから。しかし自分が覚えていないことを他人に知られることは恥ずかしいようだ。


「見ちゃダメだからね?」


 リードマンはじと目で、まるで釘を刺すように君を見上げた。

 君は、多少興味を引かれないわけではなかったが、リードマンがそこまで拒むのならと、絶対に見ないことを約束した。





読んでくれてありがとうございます。

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