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君と男爵、ときどきメイド  作者: みつ
第一章 ようこそ異世界へ
22/39

「そして君は登り始めた。この長い上り階段を」

 ★★★

 どちらにしようかな神さまのいうとおり

 ★★★



 廊下はとても静かだった。

 魔力によって灯された蝋燭は、芯の燃える音すら発しないため、廊下に存在する音は君の呼吸音くらいだ。

 改めて廊下を歩いてみると、いたるところに壷や絵画などの調度品が置かれていることが目につく。

 特に、鎧一式が槍を持って立ってたりしているところなどはまさにファンタジーだ。

 ホラー番組とかゲームではこういう鎧が動き出したりするんだよね、と君は余計な想像をしてしまった。

 ちょっと怖くなってそそくさとその場を後にした、途中振り返ると鎧は想像に反して動いてなかった。

 サスペンスなんかだと鎧の中に死体が入ってたりするんだよね、とまたしても余計な想像を君はしてしまった。

 角を曲がると鎧は見えなくなった、ほっと一安心して歩みを進める。

 通路に台が置かれ、その上に壷や変わった形の工芸品が置かれているのも目につく。

 君は、まさかコレも魔道具なのかななどと思いつつ近づいて見てみた。

 この世界の芸術品に明るくない君にはその壷の価値は見当もつかない。

 ちょっとつま先立ちをして中を覗いてみる。空っぽである。

 蝋燭の光が壷の中に君の頭の影を落としているだけだった。触ってみたが何も起こらない。

 ちなみに君の予想通りの魔道具だったりするのだが、詳細は省く。


 視線を反対側の壁に移すと立派な絵画が掛けられていた。

 それに近づいて見上げる、優しげなタッチに雄大な草原が描かれ、真ん中に素朴な家が有る。

 家の前では子供達が元気そうに遊んでいるところが、まるで生きているかのように活力溢れるタッチで描かれている。

 額縁の下にプレートが打ち付けられている、残念ながら君には読めなかった。

 その時だ、廊下の先のT字路から足音が聞こえてきた。

 君はとっさにすぐそばの台座の陰に隠れた。

 足音は右手の方から聞こえるようだった、君は台から顔を少し出して様子を見る。

 角から姿を現したのは二人のメイドだった。君に見覚えはない、どこに所属のメイドだろうか。

 二人は廊下の真ん中で立ち止まり、君がいる方向に視線を向けながら何事かを喋っているようだった。

 君はドキドキとしながら様子をうかがっていたが、やがてメイド達は君のところへ来ることなくそのまままっすぐ進んで行く。君はほっと一息ついて台座の陰から姿を現す。

 極力足音を立てないようにT字路へと歩み寄り、メイド達が行った先をそーっと覗いてみた。

 するとそこには先へ行ったはずのメイドが君を待ちかまえていた!

 などとありがちなことはなく、君がこうして様子をうかがいに来たころにはメイド達は既に通路の先へと進んでいてその姿はもうそこにはなかった。

 右を見て、左を見て、右を見る。

 さて、君はどっちへ行こうかと考える。メイド達が来た右か、メイド達が行った左か。

 どちらでも同じ事である、どちらにしようかな、と君はてっぽうをばんばんばんと撃って選んだ。

 左になった。




 進んだ先の階段を上る。踊り場で一旦止まった。上からメイドの話し声が聞こえたからだ。

 声がゆっくりと遠ざかっていくのを確認して階段を上りきる。

 上がった先には開放感あふれる渡り廊下があった。

 しかしここから見える限りではこの館には屋上もあるようだ。どこから登るのだろうか。

 渡り廊下は正面の棟とつながっている。そして、渡り投下は十字になっていて、四方の棟へとつながっている。

 田の字を想像してもらえるとわかりやすいだろう、十字で区切られた大きな四角か地面まで吹き抜けになっている。

 廊下と言うにはかなり広く、その幅は人が3人横に並んですれ違うことができるほど。

 それに加えて、中央までの距離は100メートルほどある、相当広い。

 さらに中央にはこんな高いところにもかかわらず石造りの泉のようなものが設置されてあり、君の目の前でだばだばとあふれている。

 泉を取り巻くように水路が設置されており、あふれた水がこの通路を水浸しにしないように、水路がつくられている。

 水は流れて田の字の左上と右下の吹き抜けへと流れ落ちている。

 こうして君がこの建物の上を廊下として歩いていると言うことは、この足の下は室内ということになる。

 建物のかなり上階に存在するはずなのに、妙に凝ったつくりをしていると言えるだろう。

 君はまず左下の吹き抜けの中を覗く。夕暮れの傾いた日差しでは地面まではっきりと見ることはできなかったが、何か地面で動く影が見えた。

 誰だろうと君は思ったが、やはりはっきりとは判らなかった。髪の毛が緑色をしていると言うことだけはなんとか見えた、ローズマリーだろうか。

 次に君は逆の右の吹き抜けの方に移動して見下ろした。

 今君が覗いた吹き抜けと異なり、そちらの方は噴水から出た水が水路を辿ってまるで滝のように流れ落ちている。

 君は流れ落ちる水を見てみようと移動した。

 すると君は驚いた、てっきり滝のように水がどばどばと流れ落ちていると思っていたのだが、廊下から宙に躍り出た水はぐるぐると螺旋を描いてゆっくりと落ちていたのだ。

 さて、君はしゃがんでその水に触れてみた。水はとても冷たくて気持ちいい。両手で器を作って掬ってみるが特に匂いはしない、ただの水だ。

 さすがに口は付けずにそのまま零した、零した水は水路の水と溶けて遠くへ行ってしまった。

 ちなみに飲んでも問題ない、水を引くときにセイントの調整が入っているのだ。

 冷水に関してセイント以上の適正を持つものはこの館にはいない。

 そんなときだ、ざぶんと聞こえてきた音に君はそっちを見た。すると、円形の噴水の中にスイカが浮かんでいた。

 スイカとしか形容するしかない形状だ、ちょろんと飛び出たヘタと、まん丸ボディに縞模様。

 もっとも、何故かその縞模様が赤と紫だったのは目に毒だと言わざるを得ない。

 ぽこん、ぽこん、ぽこんとスイカが次々と浮かんできた。スイカは泉の中でぷかぷかと浮かんでいる。

 君は水に浮かぶそのスイカを写真に収めようと、ポケットから携帯を取り出そうとした、そのときだ。


「ふーっ」


 君はひゃぁっと飛び上がった、突然耳の後ろに息を吹きかけられたからだ。


「にゃはははは」


 振り返ったそこにはメイドが立っていた。夜のとばりのような黒い髪に満月のような金の瞳、頭からぴょこんと飛び出た猫の耳。


「こんニャところで何をしているのかニャ?」


 ベルウッド・ド・ロシーが、右手を挙げてにぎにぎと招き猫のポーズをした。

 君はばくばくとする心臓をなんとかなだめようと努めつつ、にへばりついた。

 ベルウッドは子猫のような純粋な瞳で君をじいっと見つめている、金色の瞳に君は吸い込まれそうになる。

 きょとんとして首をかしげる、ベルウッドは君の言葉を待っているのだ。

 しばらく待っても何も言わない君に、ベルウッドは笑顔を浮かべながらも少しそわそわとしだした。金色の瞳の焦点がきょろきょろとする。


「ごめんニャさい」


 そしてぺこりと何故か謝った、君は何故謝るんだろうと思うと、少し落ち着いてきた。

 君をびっくりさせてしまったことに対する謝罪である。ベルウッドはくるっと身体の向きを変えてぺたぺたと噴水に近づいた。

 小さな手のひらでぷかぷかとしてるスイカをよいしょっともちあげた、重いのか少し足がふらついた。

 持ち上げたところでぴたりと止まった。

 君はどうしたの、とベルウッドに訪ねてみた。


「スイカが大きくてこれ以上持てない……」


 どうやらベルウッドはスイカを取りに来たようだ。取りに来た後で自分の身体一つでは一個しか持てないことに気がついたみたいである。

 というか、ベルウッドの自己申告によるとやっぱりそれはスイカのようだ、色はおかしいが。

 君はそれを食べれるのかを尋ねた。


「危険だけど食べれるよ」


 危険って……どういう事?

 ベルウッドはんしょっとスイカを抱え直した。スイカのヘタが顎の位置に来る。


「これ、これ、ね」


 ヘタがどうかしたの?


「コレ取らないようにして食べないとね、危険なの、爆発しちゃうのニャ」


 爆発とは物騒な。


 爆発ってどういう事?


 君がそういうとベルウッドはあからさまに困惑した顔を見せた。

 爆発と言ったら爆発に決まっている、それ以外の説明をするほどの語彙力をベルウッドは持っていなかった。


「えっと……ぼーんって、どかーんって……うーん」


 そんなベルウッドを察したか、君は諸手を振って取り消した。やっぱいい、なんでもない。

 あとで誰かに聞いてみようと君は思いつつ、2個目を必至で持ち上げようとするベルウッドを見つめていた。

 あろう事かベルウッドは、1個目を片手で支えながら2個目のヘタを指でつまんで持ち上げようとしている。

 スイカを持つ腕も、ヘタを掴む手も、両足もぷるぷると震えている、危ない。

 ついさっきヘタを取らないようにと言っていたくせにヘタをつまんで持ち上げようとしてるのは何故なんだろう。取れたりしないのだろうか。

 君は立ち上がりベルウッドに近づいてスイカを持ってあげた。ずしっとくる、ぽんぽん、いい音がする。


「ありがとニャ」


 君が持ってくれたおかげで両手がフリーになった。ベルウッドはもう1個を自ら拾って抱え上げる。

 持ち上げたことで判ったのだが、このスイカずいぶんひんやりしている。君がスイカを嫌いでなければ非常に美味に感じることだろう。

 君は、このスイカどうしたの?と訪ねた。


「うん、地下で冷やしてたんだけど流されちゃって……ツナがお仕事中でうっかりしてたらしいニャ」


 地下、なるほど、近代日本と違い文明の利器が無いのなら地下水を利用して冷やすしかないようだった。

 ツナって誰だっけ。


「ツナはあれニャ。ご飯作る子ニャ。あ、ご飯作るのはシュリンプもだニャ。二人一緒で作ってるニャ」


 二人一緒、ご飯、キーワードで思い出す、お弁当と称してサンドイッチを用意してくれた二人だ。

 髪の毛の色と外観が瓜二つの二人だ。瓜二つ、スイカだけに。

 君は二人の見分けができなかった。ベルウッドはできるのだろうか。


「熱いのが好きなのがシュリンプで、冷たいのが好きなのがツナニャ」


 できるようだった。熱いのと冷たいのか、どういう意味だろう。ベルウッドにどういう意味か聞いたらきょとんとされた。

 君は質問を変えた。外見で判断はできないの?と。


「無理ニャ」


 無理らしい。


「どっちかの名前を呼べばすぐ判るのニャ。あんまり気にしちゃ禿げるニャ」


 ツナと呼んで返事をすればツナで、返事をしなかったらシュリンプと言うことである、ある意味ではわかりやすい。

 双子じゃないんだよね? と尋ねた。


「じゃないニャ。双子以前にあの2人は人間じゃないニャ。ベルも違うけど」


 そういえばベルウッドは猫に変身していたな、と君は思ったりした。


「ベルは半獣ニャ。人と猫の姿になれるニャ」


 半獣とは、ベルウッドの言うとおり人と獣の二つの姿を持つ種族のことで、通称「ダブル」だ。

 半獣のゆえんは結構短い、亜人種としての虎瞳人ケット・シー牙狼人ワ・フーに比べて十分の一にも満たない歴史しかないのだ。

 ちなみに、よくある猫耳獣人ケット・シー犬耳獣人ワ・フーという認識で大体合っている。

 猫の獣人も、獅子の獣人もまとめて虎瞳人ケット・シーである。砂漠の民という呼び方もしたりする。

 ベルウッドにそのゆえんを聞いても君の期待する答えは返ってこないだろう、君だって人間のゆえんを知らないようにベルウッドも知らないのだ。自分が生まれる遥か昔のことなど。

 ベルウッドのことをおいといて、ツナとシュリンプのことを尋ねてみた。


「ツナが精霊で、シュリンプが妖精……だったかニャ?あれ?どっちがどっちだったかニャ」


 大きなスイカを両手でしっかりと抱えてベルウッドはがんばって思い出そうとする。

 ベルウッドはあまり細かいことを気にしない性格らしい、あまり有益な情報は手に入れられそうにない。

 君がそんな顔をしていると、ベルウッドはその表情に気付いたのかしゅんとなってしまった。

 ぴんぴんとしていた猫耳がへにょんと垂れている、スコティッシュのようで可愛いと君は思った。

 んしょ、とベルウッドはスイカを抱え直して、あっち、といった。ベルウッドが示した方を君は見る。


「ベルはあんまり難しいことわかんないから、いろいろ知りたいならインデックスに聞いてほしいニャ」


 インデックスって?


「図書室にいるニャ。ベルは文字ばっかりのごほんは苦手だからあんまり読まないニャ」


 君は少し考える。図書室か……。

 本は人類の英知の結晶である、過去の先人達が残したもの全てを学ぶことができる唯一のものと言っても過言ではない。

 もっとももこの世界の書物は君では読むことができないのだけれど。

 ベルウッドが言った、インデックスというメイドに逢ってみようかな、などと君は考えた。

 悩んでいるように見えるが君はもう心の中では図書室に行く気になっていた。


「いいニャ。そっち、そこ、もういっぺん水に落とすニャ」


 図書室に行くにしても君の両手にはスイカが抱えられている、コレをどうにかしないと身動きが取れない。

 ベルウッドは君に向かって、もう一度水に落とすように支持した。

 君は水路にスイカを落とす、どぷんとスイカはぷかぷかと浮かびながら流れていく。


「コレで全部みたいニャ。まぁ、後はこっちで何とかするニャ。ありがとー」


 そう言いながらベルウッドは水に浮かんだスイカを手で押しやった。

 スイカはどんぶらこと流れて吹き抜けへとくるくると落ちていった。

 大丈夫なの?と君はベルウッドに尋ねた。


「問題ないニャ。水路を突き抜けて落ちることもないし、水は一旦下で溜まってまた下に流れていくのニャ」


 問題ないらしい。


「それじゃーベルはいくのニャ」


 そう言ってベルウッドは手をふりふりして塀を越えて吹き抜けへ飛び降りてしまった。

 あっ、と思って君が塀から身を乗り出して見下ろすと、ちょうどベルウッドがくるくると踊るように体勢を整えて見事に着地するのが見えた。

 さすが猫である、ベルウッドは屋上の君を見上げてもう一度手をふりふりしている。

 君は軽く手を振り返して、ベルウッドが示したあっちへと視線を向ける。

 図書室があるのがあっちと言っていたが、果たしてホントにあっちにあるのか。

 ベルウッドがあっちと言ったのは、ここに来る途中の通り道に図書室があったからである

 だが、この館の名は積み木の城、果たしてベルウッドが示した場所に君がたどり着いたときにもそこに未だあるのだろうか。



お読みくださりありがとうございます。

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