表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君と男爵、ときどきメイド  作者: みつ
第一章 ようこそ異世界へ
20/39

「門松は冥途の旅の一里塚」

 ★★★

 怪我も病気も治してあげるよ。

 ただし命の保証はできないぜ。

 ★★★


「はいさい」

「はいさい……で、用件はなんだ」

 彼女と男爵のその挨拶に君はびっくりした。なぜなら、二人が交わした挨拶は君の元居た世界の言葉だったからだ。

 マイルスはもう一度、はいさい、と君に向かって挨拶した。

 君はとまどいながらも挨拶を仕返した。マイルスは満足げに笑顔を浮かべた。そして男爵に向き直る。


「それで、できれば早い方がよい用件とはなんだ。まぁ、おおよそ予想はつくが」


 マイルスは苦笑いしながら言った。


「えへへ……あんねー。シャワータイムとヴァンデミール何とかなるんだけれど、ロベルタの肉体の損傷がひどくてさ。ストックしてある分じゃ足りそうにないん


 よ」

「それで?」

「素材の確保が必要な訳なんだけれども……ちょっとコレが……」


 そしてマイルスは指でマルを作った、金銭の要求である。


「どれくらい必要だ?」

「そうねー……とりあえず予備の分も含めて五人分は確保しておこうかと思うんだけど今の相場ってどんくらい?」


 マイルスの言葉に男爵は腕を組んで天井を仰ぎ、考える。


「あの惨状じゃ探せばいくらでも確保できるだろうとは思うがな。まぁ200から400ってところか」


 するとマイルスは両手を合わせ、手のひらを上に向けておねだりのポーズ。

 すると男爵は机の引き出しから羊の皮で作られた頑丈な袋を取り出した。揺するとジャラリと音がする。

 とてとてとマイルスが歩いて、机の前までやってくる。


「ほれ」


 目の前にやってきたにもかかわらず何故か男爵は袋を投げ渡した。袋は放物線を描いてマイルスの身長より高く飛んだ。

 マイルスはその袋を両手をバンザイしてキャッチしようとした。


「ほあっ」


 ところが、コインの詰まった袋がのしかかった途端、あまりの重さに変な声を上げた。


「ちょ、これ重くない?」

「気にするな、自由に使え」


 紐をゆるめてマイルスは中を覗く、ぎっちりときんきらの金貨が詰まっていた。君にはどれ程の価値があるのかわからなかった。


「それで足りそうか」


 男爵の言葉にマイルスは少し考える仕草をする。


「んー……よっぽどのことでない限り大丈夫かとおもうけどねー。足らなかったらその時はまた来るよ」

「そうか。ならもういいか?」


 男爵の態度があからさまにさっさと行けと言っていた。マイルスはそそくさと扉へと向かう。


「おじゃましましたー」


 ぱたんと扉が閉じてマイルスが出て行った。





「ふぅ……どこまで話したかな……」


 マイルスの乱入によって会話が途切れてしまった。男爵は記憶を呼び戻し始めた。

 君は、マイルスがやってきたことで、シャワータイムやヴァンデミールの状態を訪ねた。

 男爵の思考は君が声を掛けたことで取り消された。


「あぁ、まぁ心配はあるまい。あれの腕の確かだからな、世話になったことはないが。何とかなると言ってたからには言葉通りなのだろう」


 だが、ロベルタの肉体の損傷が激しいとも言っていた。素材の確保が必要とも言っていた。


「ふむ……突然だが君に問題を出そう。マイルスは町に何を買いに行ったと思う?」


 男爵に問題を出されて君は考える、傷の治療といったら、やはり薬関係か。

 だがロベルタは両手両足が消し飛んでしまった、君の世界の医術の知識はあまり役に立ちそうもない。

 ファンタジーにありがちな秘薬とかが手にはいるのだろうか、それを使えば失った身体の一部も元に戻せるとか?

 ヒントとするなら男爵は、あの惨状・素材・いくらでも・確保できる・などと言ったことだろう。

 男爵は頬杖を付きながらニヤニヤと笑みを浮かべている。

 やはり薬関係というわけではなさそうだ。そもそも薬くらいなら館に常備してあるだろうし、町でも薬は使用するだろう、使えるものがあるとも思えない。

 そもそも人の四肢を簡単に元に戻せる方法があるはずもない。トカゲの尻尾じゃあるまいし。

 惨状と言っても君は町に何があるか把握しているわけではない。

 結局町の見学は、ベルウッドと会ったところでナパームの襲来によってなあなあにしまったのだから。

 素材、シャワータイムとヴァンデミールは何とかなる、四肢を失ったロベルタはどうする。

 君ははっとなったあの惨状ならば、素材はいくらでも、ということは……人間の遺体。

 正解、とばかりに男爵はぱちぱちと拍手をした。


「察しがよいな君は、メイド共に爪の垢を煎じて飲ませたいほどだ。あるいは君の世界にも人体を素材とする医療術があるのかな。いかにも、ナパームの襲撃を受


 けたのならば犠牲者の数は計り知れない」


 君はナパームの攻撃、砲撃を思い出す。めちゃくちゃに吐き出された油は木造家屋を打ち砕き、全焼させた。死者がどれ程になるのか君には想像もつかない。

 人体を素材とする医療術として、現代日本でも割と最近まで臓器移植は行われていたが昔の話だ。

 今となっては必要な臓器は万能細胞によってほとんどが代替が可能になっている。

 他人の遺体を素材として使うなんて拒絶反応はどうするんですかと君は言った。


「拒絶反応? なんだねそれは」


 男爵はきょとんとした表情でそう返した。

 君の世界における万能細胞による臓器製造は、臓器が必要な本人の細胞を抽出し、そこから必要なパーツをつくる技術だ。

 人の体というものは不思議なもので、臓器提供を受けたとたん趣味嗜好や味覚が変わったりするという。

 その点、万能細胞からつくられた臓器なら、本人の細胞からつくられるために拒絶反応が小さい。全くないというわけではないが。


人間ヒューマンの体の差異なんて、男か女か大人か子どもかくらいでそんなに違いなんてないだろう。」


 男爵があっさりと言い放つ。メイドを物みたいに扱う男爵だが、彼にとっては町の住民たちも道具の延長線上のようだ。

 いや、どちらかというと軒下に住み着いたノラネコといった感じか。

 下手したら町の住人が敵に回りかねない発言だが、町の住人など驚異ではなさそうな口ぶりだ。


「軽蔑するかね? だが考えてもみたまえ。たとえば両親を亡くした幼子がいるとしよう。幼子は両親の亡骸に抱きつき大声で泣きはらしている。だがその亡骸は


 そのままなら土か煙か食い物だ」


 土に還るか、焼かれて煙になるか、野生の獣共の食事になるか、死んだあとの道などそれくらいしかない。


「死せる物と共に土になるか、煙になるか、獣たちの飢えを満たすか。まぁそれは個々の自由だとは思うが、それよりは有効に活用したほうがよいとは思わないか


 ね?」


 男爵の言葉を聞いて君は反論する言葉を持たなかったできなかった。

 外道? 非道? ある意味では外道だ、土か煙か食い物という本来進むべき道を外れ、新たな道に進めているのだから。

 そもそも臓器移植は君たちの世界でもやっていたことだ。批判できる言葉を君たちは持っていない。


「とまぁそういうわけだ。素材さえ確保できれば1カ月あればロベルタも仕事に復帰できるだろう。気長に待ってくれたまえ」


 と男爵は言葉を切った。

 さて、と言いつつ男爵は会話を戻そうと思考を巡らせる。何を話してたっけかな、と。

 腕を組んで考える男爵に、きみはおそるおそる質問した。

 これから、自分はどうなるのか、と。


「これから、ふーむ……。元の世界に戻りたいかね?」


 君は、男爵のその言葉にしばし沈黙した。元の世界、近代日本、君が居た世界。

 君は憧れていた、不思議な力のある世界、魔法のある世界、異世界を夢見ていた。

 物語の中にしか存在しない、あんなにも近くて遠い世界。今君が居る世界。

 けれど、いま君はここで何ができる? ここにいたい? それとも帰りたい?


「先日天山大剣がこの島の空を通り過ぎた後、君はティシューによって見つけられた。おそらくはアレはこちらとあちらの世界をつなぐ何らかの要因となっている


 のだろう」


 それを気にしているのは男爵だけなのだけれど。


「あの天山大剣にどうにか乗り込む手段があれば、君は元居た世界に戻れる可能性があるかもしれない」


 だが、今の男爵にはその手段は皆目見当もつかない。男爵は大きく息をついて天井を仰いだ。

 運よく天山大剣の上部装甲に接触できた際、男爵はその魔術を惜しむことなく放った。

 全力ではなかったとはいえ、町一つ蒸発させられるほどの『太陽レンズ』ですらさほどの損傷を与えられなかったことは、男爵にとってはそれなりにショックなよ


 うだった。


「君が望む事があればできる限り叶えてあげようと思うのだがね。その代わり君の世界のことを教えてはもらう。好きなメイドを君専属にしてもいいし。これらの


 魔道具を自由に使っても構わない」


 そう言って示したのは室内に転がる用途の代わらない様々な器物。やはり魔道具のようだ。


「なんだったら……あー……」


 何かを言おうとして、男爵あからさまに言葉を濁した。

 なんですか?と君がなかば促してみたが、男爵は吐き出し掛けた言葉を飲み込んでしまった。


「やはりなんでもない。やめておこう」


 君は少し釈然としないものを感じながらも、特に追求することなく会話を終えた。



読んでくれてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ