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君と男爵、ときどきメイド  作者: みつ
第一章 ようこそ異世界へ
19/39

「念願のおしゃべりタイム」

 ★★★

 積み木の城は間取りがおかしい

 ★★★


 君が全身から水をしたたらせながら脱衣所に行くと、セイントが居た。


「湯加減はいかがでしたか?」


 とセイントはタオルを差し出しながら聞いてきた。君はそれを受け取り、体の水滴を拭き取りながら頷いて気持ちよかったことを伝えた。

 するとセイントはその表情に、笑顔を浮かべとても嬉しそうにしていた。


「お着替えはそちらです。どうぞ」


 セイントに促され、君は籠の中の服を手に取った。

 またしても同じ服である、君が望めば別のデザインの服を作ってもらえることだろう。

 慣れた手つきで君は袖を通す、服を着ながら、セイントに質問した。

 君の頭の中には、これから男爵の所に行く予定だったはず、と言うことがインプットされていた。

 曰く、男爵はどこにいるのか、ということを訪ねた。


「ご主人様でしたら自室でのんびり旅人さんをお待ちしているかと思われますけど」


 自室と言われても、君は男爵の自室の場所を知らない。


「それなら心配要りません、ここをでてすぐですから」


 こことは、この脱衣所ということだろうか。

 君は服を着ながら思い出す、男爵に先導されてここに来たとき通った道、蝋燭の灯った廊下。

 道中に扉はなかった、廊下は一本道でその途中に浴場はあった。

 一本道の通路なら、片方がエントランスなのだから、もう片方の先に部屋はあるのだろうと君は一人納得して頷いた。お着替え完了。

 君は、次にシャワータイムのことを訪ねてみた。


「申し訳ありません。わかりかねます……」


 このわかりかねるという意味は容態のことであり、シャワータイムの状況はセイントは理解している。

 セイントは医士ではないし、シャワータイムの治療をしているのはマイルスであるため、彼女は詳しいことは知らないのだ。

 まぁ、ともあれ、先にすべきことは男爵のところへ向かうことだろう。

 質問があるなら受け付けると男爵は言っていたし、男爵がそう言うならば君は遠慮をすべきではない。

 君が出入り口に向かうと、セイントはついては来なかった。

 君がセイントに振り返ると、セイントは穏やかな笑みでぺこりと一礼した。


「シャワータイムが復帰するまで、わたしがお世話を致いたします。入り用でしたら何なりと申しつけください」


 セイントはそう宣言して、脱衣所の扉を引いて開けた。

 君はさて困ったとばかりに愛想笑いをした。脱衣所に戻ってきたとき、セイントが瞳を少し腫らしていたことに君は気付いていたのだ。

 どうやらセイントは少し泣いていたようだった、君のお世話をできなかったばかりに彼女は自らの無能感に苛まれ一人涙を流していたというのだ。

 かといって、体をセイントに洗わせるというのも恥ずかしいしできないことだった。

 服を着て、荷物を持って、君はどうやって断ったものかなぁなどと考えながら、セイントにいい湯だったちありがとうと声をかけつつ扉をくぐり、廊下に出た。


「やぁ、いい湯だったようで何よりだよ」


 目の前に男爵が居た。




 一瞬、君は思考停止した。

 君の目に映るものは男爵の背後の立派な絵、壁に掛けられた装飾過多な剣や斧、机の上に大量に積まれた用途の判らない物体や書籍。

 組んだ両手は頭の後ろへ、背もたれとの隙間に差し込まれている。男爵の体重全てを受け止めている椅子からは、体を動かす度にキシキシと音が鳴る。

 男爵は目の前に広げていた本を少し下げて君に視線を向けている。ちなみに本はに手は触れておらず、開かれたまま宙に浮いていた。

 ぱたん、という音で君ははっと我に返った。男爵が本を閉じる音と、扉が閉じる音だ。

 君は慌ててきびすを返しドアを開ける。蝶番の軋む音と一緒に外側に向かって開かれた。

 揺らめく炎が通路を照らし、人の気配は全くない。君はこんらんしている!


「どうかしたかね?外に誰かいるのかな?」


 男爵の声掛けにはっと意識を取り戻した。男爵へと振り返り、今起こった現象を説明する。

 風呂から上がって着替えをすませ、脱衣所の戸を開けたら何故か男爵の部屋に繋がった。

 風呂に行く前に通った通路は?どういう事?


「ふむ」


 男爵は手を組んで、お腹の上に置いた。体重はなおも椅子にめいっぱい掛けられていてぎしぎしと揺れている。

 両足は振り上げられて、机の上に乱暴に置かれている。


「この館も魔道具なのだ」


 名を、積み木の城シャトー・ジュー・ド・キューブと言い、世にもまれに見る建物一戸となる魔道具だ。

 積み木の名が表す通り、まるで積み木を組み替えるかのように部屋の間取りを組み替えることが可能なのだ。

 そしてその操作は無音、実際に館の部屋の位置が切り替わっているわけではない。

 通路や部屋、そう言った場所がブロック単位の空間が操作されて繋げられているらしい。

 そしてその操作は、現在屋敷のメイドの中では二名しかできるものがいない。

 ちなみに、あちこちの部屋と通路をむちゃくちゃに結ぶことができる館ではあるが、見取り図なるものはきちんと存在している。

 男爵がぐちゃぐちゃにした積み木を、その見取り図の位置に戻すのもメイドの仕事の一つ、ということである。


「もう一度扉を開けてみたまえ」


 と言われたので、君は促されるまま扉を開けた。すると扉の向こうのメイド達が一斉に君を注視した。

 動き続けるミシンの断続的な音、被服室だ。君は扉を閉じた。


「というわけだが。もう一度やるかね?」


 なるほど、と思いつつ君は丁重に断った。


「遠慮などせずともよいのだがね……まぁそういう奥ゆかしいところは好感が持てるが」


 別に君は遠慮したつもりではなかったのだけれど、せっかく上がった好感度をわざわざ下げることもないと思い沈黙した。


「さて」


 男爵が机から組んだ足を降ろした。そして視線をその机の少し手前に向けると、その場所にどこからともなく椅子が現れた。

 さぁ掛けたまえと促され、君はそのイスに座った。木製の質素なものだったが座り心地は悪くない。

 そのとき君は、ん?と気付いた。君が今座るこのイスは、食堂で座ったあのイスと同じものだということに。


「さて、おまちかねのおしゃべりを始めようと思うのだがよろしいかな?」


 君が頷くと男爵は満足げに笑みを浮かべ頷いた。


「さて、まずはメイド達が君を危険な目に遭わせてしまったこと、私からも謝らせてほしい、申し訳ない」


 椅子に座ったままではあったが、男爵はまっすぐ君に向かって頭を深く下げた。

 まさか開口一番に謝られるとは思っていなかった君は慌ててしまった。

 君は、メイド達には守られたという印象のみがあり、迷惑を掛けられた、危険な目に合わせられたという想いはさらさらなかったからだ。


「それにしても、町の冒険者程度ならともかく、ナパームはあれらには荷が勝ちすぎたようだね……」


 男爵はやれやれと首を振りながらため息をついた、メイド達の能力向上に努めさせる必要があると考えているようだ。

 君は、おそるおそる男爵に問いかけた。


「ん? 何かな?」


 ナパームってなんなんですか?


 君は町を襲ったあの白銀の甲殻を持つドラゴンを思い出しながら言った。

 すると、男爵はへらへらとしていた笑みをほんの少し神妙なものに変えて答える。

 男爵がさっき閉じた本をもう一度開いた。


「ナパームとは……かつて神の前で禁じられた殺生を犯した者に、その罪を償わせるために生まれた存在」


 椅子から腰を上げて部屋の中を歩く、ぺらぺらと本をめくりながら、記述してある文章を読み上げている。


「火、水、風の恩恵をその身に宿した神に愛された存在。燃える水。人類の天敵……。口から吐き出される粘度の高い液体は非常に燃えやすく、ナパームはまき散らしたその油に火を放ち町を炎に包む」


 男爵の穏やかな口述と共に、君は恐怖が蔓延していた町の情景を思い出していた。

 漆黒の闇に天を覆われ、豪雨と落雷に晒され町はかなりの被害を受けていた。


「口から吐き出す者は油だけにあらず。不可視にして可燃性の高い気体をブレスとして吐き出す」


 港の砲台を一撃で吹き飛ばした炎の柱だ。空中に現れた真紅の炎は恐ろしくも美しくあった。


「これだけだね。ふむ……」


 男爵は本を閉じて後ろに放り投げた、本の扱いもぞんざいな男である。

 男爵は椅子に戻って腰掛けた。ギシッと大きく軋む音。

 ナパームについての情報は判っている限りではあれだけだった、だから男爵には一つ気に掛かっていることが。


「落雷が……」


 男爵が何かを言い出そうとしたその時だった、部屋の扉を誰かがコンコンとノックした。


「誰だ」


 男爵はあからさまに不機嫌そうにしながら扉の向こうの訪問者に行った。


「あたしだけど、取り込み中? あとにした方がいい?」

「急ぎの用か」

「できれば早い方がいーんしねー」


 君が扉に視線をやり、男爵に視線を向けると少し悩む様子が見えた。


「入れ」


 悩むといっても十秒足らずだった。入室の許可がもらえるとその人物は扉を引いて入ってきた。

 肩に羽織った純白の白衣、後ろに撫でつけたられた藍色の髪。

 B/Jマイルストーン、その人だった。


お読みくださりありがとうございます。

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