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君と男爵、ときどきメイド  作者: みつ
第一章 ようこそ異世界へ
17/39

「館の被害状況確認」

 

 ★★★

 ――奇人の壁――

 ――ドラゴンの壁――

 ――メイドの壁――

 ★★★



 天山大剣の消失と同時に、竜巻も火柱も消失した。

 そして空に青空が戻り、ちょうど目を覚ましたナパームが制空権を確保しようと飛び上がった瞬間、すごい勢いで落下した。

 それと同時に、ばらまかれた油も含め、街全体の火災の一切が消失した。

 メイド達がはっと空を見上げる、遥か頭上から、彼女にとってなじみ深い魔力を感じたからだ。

 青空の中、まばゆい光がいくつも出現する。次の瞬間、光はレーザーのように大地に降り注いだ。

「きゅ……ろ……ろ……ろ……ろ」

 ナパームが必死で白銀の翼を羽ばたかせ宙へ逃れようとする。だがどれだけ必死に羽ばたこうと、羽ばたきによって突風が巻き起こるだけでその全身は地面に打ち付けられたかのようだ。

 ナパームがもぞもぞもがくが、それはさながらまな板の上の鯉、なすすべなく炙られている。

 ナパームの身体は微動だにしない。

 やがて、光を纏いながら男爵が戦場に到達した。


「ひどい有様だな」


 純白の翼が左右に大きく広がる、メノウ男爵は冷めた目で君たちを見下ろしていた。

 男爵は未だに昏倒するローズマリーとベルウッドに視線をやる。

 すっと右手を出して、手の平をくいっと持ち上げると、二人の身体が揃って音もなく浮かび上がった。

 綺麗だったメイド服は見る影もない、泥と油でぐちゃぐちゃである。

 男爵はそのまま右手をぱん、ぱんと往復させた。

 すると宙に浮いた二人の頬が、誰にも触れられていないにもかかわらずぷるんぷるんと震えた。

 まるで誰かにビンタされたように、解説するまでもないだろう、浮かせたのも男爵、ビンタを行ったのも男爵だ。


「うぅ……はっ!ごはん!」

「おみず……おみず……」


 目を覚まして開口一番に二人はそんなことを言った。ちなみにベルウッド、ローズマリーの順である。

 よくよく考えてみればベルウッドは朝食抜きで野菜と君から貰ったサンドイッチくらいしか食べてないのだ、足りてないらしい。

 ローズマリーは喉が渇いているのだろう、水を欲していた。


「わぷぅ」


 水を欲しがったローズマリーに、心優しい主であるメノウ男爵は魔術で美味しい水をつくって顔にぶっかけた。


「目が覚めたかね?」

「は、はい……」


 唇に垂れてきた水をローズマリーは舌で舐め取りつつ返事をした。魔力配合の美味しいお水で草木も元気。

 ちなみにベルウッドは黒い猫耳をへにょんと垂れさせていた、とばっちりで水をかぶってしまったのである、きょとんとしている。


「さてと」


 ストームブルームが浮かんだ、男爵は箒を手元に寄せて破損の度合いを確認する。


「ふむ……箒もタダではないのだがね」


 中程で握りつぶされている柄。

 あの「魔力レンジ」を食らったベルウッドが、限界以上の握力で握りしめて潰れてしまったものだ。

 ベルウッドは自分の手のひらを今更ながら見た、砕けた箒の柄が皮膚をひっかいて少し出血している。

 すると手のひらの傷がすぅっと消えていく。

 はっと顔を上げるベルウッド、その目の前で男爵がへし折れた箒を撫でていた。

 ぱきぱきと音を立てて柄が戻っていく、あっという間に修理完了だった。

 ヴァンデミールが炭化したロベルタの腕にしたように、箒の柄を修復。

 ひょいとベルウッドに放る。ベルウッドはそれを受け取った。


「物は大切にしたまえ。そうすると一生使い続ける事だって可能なのだからね」

「あの……」


 おずおずとベルウッドが手を挙げた、黒い猫耳がへにょんと垂れている。


「なんだね、ベルウッド」

「一本壊れちゃいました……」

「……何故?」なにゆえ。


 ベルウッドは慌てて弁解する。ナパームの襲撃の際に油を防御する事に使ったこと、ドラゴンの炎を押し返すときに一本ダメにしちゃったこ


 とを説明。

 メノウ男爵は着地した、翼がテーブルクロスに戻った。ずるずると泥の上を引きずるとあっという間にクロスが泥だらけになった。

 ぬかるみを踏み越えながらベルウッドの元へと歩み寄る。

 きゅーんと、まるで粗相をした子犬のようにベルウッドは耳を垂れ下がらせている。男爵からの無言の圧力におびえているようだ。

 ベルウッドの黒髪に男爵が手をぽん、と置いた。その瞬間ベルウッドはびくっとして目を閉じた。

 けれど痛くなかったためおそるおそる目を開けた。


「お前は、私の言う事を理解していないようだね」


 ぐりぐりぐりぐり。

 にゃー、とベルウッドが言った、男爵のベルウッドの頭を撫でる手つきは少々乱暴だった。

 だがメイドたるものその手を払いのける事は許されない、ベルウッドはされるがままに受け入れる。

 しかし乱暴だったが、ご主人様に撫でられてるって考え方を変えると、次第にベルウッドの胸がほこほこと暖かくなっていった。

 なんだかんだで猫である、ご主人様大好きな甘えん坊な黒猫だ。

 持ち物は大切にする、そうすると一生使い続ける事が出来る。

 男爵の言うその一生とは、男爵の一生という意味ではない、道具の一生という意味だ。

 そしてメイドは男爵の所有物である。後は言わずともわかるだろう。

 ベルウッドを撫でる手を止めて、男爵はローズマリーを見た。ほぼ無傷、問題なし。

 次にヴァンデミールを見る、肩にロベルタを担いでいる。

 げちゃっとぬかるみに一歩足を進めると、ヴァンデミールは身体をすくませて一歩後ずさった。

 すると今度は手招きをした、そうされては抗うすべはない、ヴァンデミールは男爵の元へ参じた。


「弁解を聞こうか」


 男爵が手をかざすと、ヴァンデミールとロベルタ両名ともの身体が浮いた。二人の身体の向きを変えて並ばせる。

 片足を失いスカーフを義足としているヴァンデミール。落雷により身体の内部から四肢を灼かれたロベルタ。


「ふむ……」


 男爵は箒を使わず風を起こしスカートめくりをした。しましま、黒。

 しましまなのはヴァンデミールで黒いのはロベルタだったが、その黒は常人ならば目を覆わんばかりの凄惨な状況だった。

 黒いのは下着の色ではない、焦げて炭になったロベルタの素肌だ。

 身体に浸透した雷は四肢の末端から逃げると同時にその内部をどうしようもないほど焼き尽くしていた。

 ロベルタの着ているメイド服もぼろぼろで、ロベルタの下着は肌に焼き付いていた。

 さらに、ロベルタの顔もひどい状況だ。

 右目は熱によって水晶体が一瞬にして沸騰し、はじけ飛んでいた。

 飛び出ていた眼球はヴァンデミールが押し込まれていて、そこは今閉じられている。

 もう片方の瞳も茹で上がっており、虹彩が白濁し光を失っている。要するにロベルタは今何も見えていないのだ。


「………はぁ」


 落胆のため息をメノウ男爵がこぼす。まったく、どうしてこうもひどい有様に陥るというのか。

 男爵がロベルタに近づき、その頬に手を当ててやった。

 見目麗しかったロベルタの美貌は見る影もない、雷の走ったそこは朱く焼けただれ、水疱がいくつもふくらんでいた。


「申し訳ありまへっ!?」


 ロベルタの言葉をメノウ男爵は遮った。

 どうやって遮ったかというと、ロベルタの首を180度回転させた。ロベルタは今自分の背中を見下ろしている。


「今回の件は不問に帰す。以後この件について謝罪を却下する」


 ヴァンデミールがロベルタの頭を掴んでごりっと元に戻した。


「ぎゃふっ」

「核は無事……だろうな、その様子を見る限りは。まあ当然か」

「うぅ……ひどい……」


 男爵の言葉を聞いていない様子でロベルタはしくしくと子供のように泣いていた。


「聞け」

「ひぎぃ!」


 ロベルタのごききっと首が一回転した。しかしすぐに元に戻す。

 しかし、普通の人間ではとっくに死んでるはずの状態にもかかわらず平然としているロベルタ、男爵の言う「核」がその謎の正体だろう。


「今のは私の物でありながら私になり無く私の物を破損させたことに対する罰だ。わかるな」

「はぃ……申し訳……ひっぅ……ありません」


 言うなと言ったのに、ぐすぐすと泣きながら謝るロベルタの頭を男爵はがしがしと撫でた。

 髪の毛も熱にやられてちるちるとパンチパーマみたいになってしまっている。


「お前も、まぁ、反省しておくんだな」


 男爵はヴァンデミールを見てそう言った。さすがにヴァンデミールをロベルタと同じように扱うわけにはいかない。

 苦笑しながらヴァンデミールはスカートの裾をちょこんとつまんでお辞儀をした。


「マイルス」

「はいさい」


 男爵が名を呼んだその瞬間、君の真後ろから声が聞こえて、君はすごくびっくりした。

 男爵のメイド達に対する扱いのひどさに呆然としていたため、君の心は無防備状態だった。

 マイルスと呼ばれた彼女がそこに立って居たことにも気付かなかった。

 うん、男爵が呼んだ瞬間に現れた訳ではなく、実は男爵が二人を折檻しているときには既にそこに来ていたのだ。

 何故君の後ろに息を潜めて立っていたのか、それはびっくりする君をマイルスが見たかったのだ。


「あっはっは、あっはっは、ひぃ!だって、ひぃっ! おっかしー、さいっこー。あーっはっはっはっは」


 マイルスは腹を抱えて大爆笑だ、思いっきり笑われて、君はぽかんとした。


「マイルス、私の客人をあまりからかうな」

「あはっ、はーっ、んっ」


 大きく深呼吸してマイルスは笑いを止めた。

 藍色の髪をオールバックにし、汚れ一つない純白の白衣をはためかせて立っている。

 ショルダーバッグを腰の位置に下げて、それに左手をそっと添えている。

 ブラウンの瞳、意志強固そうな目尻、すこし下がり気味の眉、朱も差していない唇に、左目の泣きぼくろ。


「紹介しよう。我が館の保健室にてメイド衆の体調管理を一挙に担っているマイルスだ」

「B/J・マイルストーンやいびーん」


 右手を軽く挙げて挨拶をした。

 しばらく、間……。


「こほん……あー。B/J・マイルストーンと申します。よしなに」


 咳払いしてマイルスは口調を変えた。少し頬を紅くしている。

 せっかく覚えた言葉が君に通じていないみたいで残念だったようだ。


「マイルス、後にしろ」


 マイルスは鞄をごそごそとして何かしらを取り出そうとしたが、男爵が制した。

 マイルスは少し残念そうにして別のものを取り出した。

 マイルスは鞄を白衣の内側へと納めると、取り出した袋から紅白のボールを取り出した。

 君はそれをどこかで見た気がした、きみのいた元の世界のテレビで何度か見たことがある気がした。

 マイルスは、その中央のボタンをかちっと押した。するとボールは手のひら大のサイズに変化した。

 それはなんですか、と君はマイルスに訪ねた。

 紅白でカプセル状になっているから、名を【巨大化する薬】と呼ばれているが、捕獲用の魔道具である。

 まん丸に近い球体で、上下が紅白の色が付いている。

 巨大化と言っても元々のサイズから桁違いのサイズになると言うわけではない、せいぜい今見たとおりの手のひらに納まる程度のサイズだ。

 マイルスは大きくした薬をロベルタの額にこつんと当てた、

 すると薬はぱかっと開き、ロベルタの身体が光に包まれその中に吸い込まれた。

 びっくりする君の目の前で、マイルスはヴァンデミールの額にも当てて捕獲、ミイラ状態のシャワータイムも同様にし、薬の中に納めた。


「あとはいいかな?」


 きょろきょろとマイルスはメイド達を見回す。ずぶ濡れ泥まみれのメイド達だが負傷がひどいのは三人だけだった。

 昏倒していたローズマリーもベルウッドも、少々頭痛がするようだが特に問題はない。

 次にマイルスは街の人たちを見て、指を差して男爵に視線で訴える。


「要らん」


 と、男爵は切って捨てた。町の人の救出する必要ないとのお達しである。


「ふむ。ならば、後ほど!」


 ばっ、とマイルスは手を掲げたかと思うと、その場からふっと消えた。

 館に戻ったのである。回収したシャワータイム、ヴァンデミール、ロベルタの治療及び修繕が彼女の仕事である。


「さて」


 と、男爵は君に視線を戻した。


「使うかね?」


 男爵は君に箒を差し出した。

 君はそんなことを言われても使えるとも思えなかったし使い方もわからなくて狼狽するだけだった。


「臆することはない、ただマナを込めて振り回すだけで風が起こせる。このように」


 いつの間にか身体を起こしていたナパームが、口腔からガスを発射していた。

 男爵はそのガスを巻き起こした風で受け止めて跳ね返した、ナパームの眼前で引火、爆炎が鼻先の甲殻をちりちりと焦がす。

 ほら、とばかりに男爵は君にお手本を見せた。そして箒をなかば無理矢理君に押しつける。

 君はその箒を受け取ったが、マナを込めろと言われてもやり方がわからない、どうしろというのだ。

 君が助けを求めるようにティシューに視線を向けると、ティシューは複雑な表情で苦笑していた。


「それにしても……ナパームか。かの魔獣が襲来するとは……」


 トワレヤ諸島にも魔獣は生息するし、外から魔獣が飛来することもある。

 そのための撃退設備は館にも町にもあるのだが、館はともかく町の設備ではナパームを相手にするには不足であったようだ。

 町の現状は散散たる有様だ。

 ナパームの砲撃によって木製の建物は全壊、はたまた全焼し柱の幾つかを残し炭になってる。

 燃えない石の建物はエビルハイロウに因る圧倒的な破壊力によって吹き飛ばされている。


 死者重軽傷者の数は計り知れないだろう。


「きゅろろろろろ」


 ばさばさとナパームが翼を羽ばたかせ始めた、打ち付ける翼が突風を巻き起こす。

 ばっと飛び上がったナパームに、男爵は開いた手を掲げて、ぎゅっと握って振り下ろす。

 と同時に、せっかく飛び上がったナパームは落下体のバランスを崩して重厚な音を立てて落下した。


「さて……ティシュー」

「はい」

「ローズマリー」

「はい」

「ベルウッド」

「はいっ」


 ベルウッドが元気よく手を挙げて返事した。


「撃退したまえ」


 くいっと男爵は顎でナパームを指した。三者三様に一礼して、その命令に従う。


「きゅろろろろ」


 ナパームが飛び上がりながら油を発射した。男爵が手をかざすと油は到達することなく空中でぴたりと止まった。

 男爵がナパームを見る、ナパームも男爵を見る、交錯する二者の瞳。


「きゅろろろろろ」


 ナパームはその翼をより一層羽ばたかせると天高く舞い上がった。

 どうやら一瞬のにらみ合いで男爵が圧倒的な強者であることを悟ったようだ、そのまま飛び去っていった。

 いくら魔獣で最上位に位置する人間の天敵とはいえ、狩りがこれほど上手く行かなければ諦めてしまうのも無理はない。

 ただ、上空から大量の油を断続的に落としていったのは奴なりの最後ッぺだったかもしれない。

 ちなみにその最後の油は男爵が全て落下する前に止めた、大量の油ゲットだぜ。


「ふん、逃げたか。残念だったな」


 男爵のその言葉にメイド達は苦笑するだけだ、ロベルタならともかく彼女たちには少々荷が勝ちすぎている。

 ティシューのスカーフは防御に秀でてるが炎に弱い、ベルウッドの箒もナパームの攻撃を防ぎきれなかった。

 そしてローズマリーの宝具も、対人ならともかくナパームの巨体と鋼のごとき甲殻にどれ程効果があるだろうか。

 実際に試してみるのが一番よかったのだが、それをする前に等のナパームが逃げてしまった。残念だったね。

 破壊されて落下した天使の輪エンジェルハイロウの破片を男爵は拾い上げた。

 ベルウッドの箒のように直すのかと思いきや、男爵は破片の断面を撫でるのみだった。

 その仕草が修理に必要なのかとも思われたが、破片は歪に砕けたまま、男爵は君に向かって「ほれ」と放り投げた。

 反射的に君は手を出した。しかしヴァンデミールの足をすぱっと切り落としたことを思い出した。

 うわぁっ、と君は後ずさり、足がもつれて尻餅をつく。

 足と足とのあいだに輪はすとんと刺さった。


「申し訳ありません、人をからかうことが好きなお人なのです……」


 ティシューが君に近づいてそっと耳打ちした。そして刺さった破片を掴んで引き抜いた。

 危なくないようにスカーフでぐるぐる巻きにする。


「何はともあれ、コレにて状況終了。館に戻るがよろしいかね?」


 男爵が君を見ていた。

 君はその視線を受けながらきょろきょろと見回した、ティシューもベルウッドもローズマリーも、君の言葉を待っている。

 君は何故の言葉を待たれているのかわからなかった。

 普通に考えて、男爵が同意を求めるのは現段階で君以外には居ないことを君は理解すべきだろう。

 メイドは男爵の所有物であり、男爵の決定に対する拒否権はないのだから。

 君はおずおずといった仕草で頷くと、男爵は右手を掲げて指を鳴らした。




お読みいただきありがとうございます。

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