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君と男爵、ときどきメイド  作者: みつ
第一章 ようこそ異世界へ
13/39

「黒猫魔法少女猫娘ベルウッド」

 ★★★

 まじかるにゃんにゃんザ・ブラック

 ★★★




 さて、小規模とは言っても人の足で歩くとなると町は結構広い。

 君の世界にない物が沢山あふれている。

 特に目を引くのは、往来する人々だ。

 髪の色がすばらしくカラフルだった。

 赤、青、黄、緑、紫、白、黒、茶、橙、その中間色もあったし、驚くべき事に透なんてのもある。

 君があっけにとられてみていると、人々の視線がちらちらとこちらを見ていることに気づいた。


「さて、参りましょう」


 君のお弁当を持って先導するティシューだったが、人々の視線なんて無い物のようにトコトコと前進する、君はあわててついていく。

 どこに行くの?と君はティシューに訪ねてみた。


「そうですね……まずは……」


 ベルウッドの所に行くべきだろう。町に出てるという情報が最初から出て来ているのだから。


「ベルウッドのところへ行きましょう」


 やはりティシューも判っていたようだ、現役のメイドに可能な限り顔を合わせておきたいと思っているのだろう。

 ベルウッドってどんな人?と君は訪ねてみた。


「猫ですね。後は野菜好きで果物好き。肉も好みますがどちらかというとやはり果物の方が好きなようです」


 猫?


「はい」


 どういう意味だろう、と思っていると、ティシューの足が止まった。

 目の前には空っぽの荷車があり、画用紙の上に黒猫がだらーっと寝っ転がっていた。

 耳の先っぽから足のつま先まで綺麗な黒猫だ、と思いきやお腹のところがちょっと白い。

 首にがま口の財布をかけており、前足がその上に置かれている。

 画用紙には「さわらないでください」と書かれてあったのだが、残念ながら君にはその文字を読むことは出来なかった。

 頭に、真っ白のメイドカチューシャが付けられている。

 君はまさかと思った。


「ベルウッド。完売ですか?」


 ティシューが当然のように黒猫にそう話しかける、すると猫はぴるぴると耳を動かした。

 ゆっくりと起きあがり、力一杯背伸び、背骨がコキコキと鳴る。

 ぱちっと開かれた黒猫の、満月のような金色の瞳が君たちを見上げた。


「おそい!」


 怒られた、猫に。


「とっくに野菜は売れてたんだぞ。本来ならとっとと屋敷に帰って草むしりしてる予定だったのに。来るって言うから待ってたんだぞ、それなのに……」


 ぷんすかぷんすかとなめらかに悪態をつく黒猫、ティシューは何とかなだめようとしている。


「ごろごろー」

「にゃー」


 なだめられた。所詮猫である。


「ふん、まぁそこまで言うなら許してやるぞ」


 ティシューは特に何も言ってないのだが、どうやら喉を撫でると言うことは謝っているのと同義らしい。

 君が町に行ってみたいと言ってから、大浴場にてシャワータイムと会い、その間にティシューが厨房の二人にサンドイッチを作らせ、ティシューの代わりにシャワータイムが遊戯室に案内し、遊戯室であの二人に遭遇し、遊戯室から外の厩舎でティシューと合流し、外周の植栽を手入れしているローズマリーと会話をして、正面門前でツナとセッティエームからサンドイッチを受け取った。

 相当待たせたようだ、怒るのは無理もないだろう。だがもう許してくれたらしい。


「改めて紹介します。中庭及び外周の植栽兼畑の管理を行っております。ベルウッド・ド・ロシーです」

「にゃーん」


 よろしくね、とばかりに黒猫ベルウッドが右前足を上げる。

 君はその手を握ってみた、握手。肉球ぷにぷにである。


「へーんしーん」


 と、ベルウッドが言ったその瞬間、黒猫の身体がまばゆい光に包まれ、君は思わず目を覆った。

 そして、次に目を開いたときには黒い髪の少女が君の手を握っていた。

 黒い髪は夜のとばりのようで、ぱっちり開かれた満月のような金の瞳は人の姿になっても変わらないようだ。


「じゃじゃーん、黒猫魔法少女猫娘ベルウッド参上っ。よろしくするぞっ」

「コレが彼女の本来の姿です」


 ティシューがそう説明したが、ベルウッドは否定する。

 ベルウッド曰く、本来の姿は黒猫、コレは仮の姿で実は動きにくい、でもお野菜いっぱい食べられるからこの姿も好き。

 特にベルウッドにとってはタマネギさんが食べれるのが特に嬉しいとのことである。猫はタマネギ食べれないのである。

 町への用事は採れた野菜を売りに来たのだが、荷車の上は空っぽ、竹箒と文字の書かれた画用紙とベルウッドしか乗っていなかった。

 ベルウッドの作る野菜は、彼女が手間暇かけて作られているため、あっという間に売り切れてしまう。

 館で「町がある」という話をしていた時点で実は既に完売御礼になっていたのだ。

 かなり長い間彼女を待たせてしまっていたことがおわかりだろうか。

 それなのにベルウッドは君たちを許してくれるという、何という寛大な心だろうか。まぁ、所詮猫である。

 まぁ、実際のところは早いところ用事を済ませて帰りたいだけだったのだが、君にはそんなベルウッドの心中は判らなかった。


「帰っていい?」


 ベルウッドが遠慮無く許可を求めた事で、君はベルウッドが帰りたがっていることを悟ってしまった。


「お付き合い願います」


 有無を言わさぬティシューのお願いに、ベルウッドはしょぼーんとしながら箒に手を伸ばした。

 ベルウッドが手に取った箒、君はそれに見覚えがあった。

 出かける直前にローズマリーが落とした枝葉を風で集めていたあのストームブルームだ。

 もちろん同一品ではない、ベルウッドの持つこの箒は彼女用に最適化されている。


「帰りたい」

「我慢してください」

「ファイアボルトも帰りたいって」

「箒に変な名前つけないでください」

「お腹すいた」

「我慢……」


 ティシューが言葉を途中で止めた。ベルウッドの視線がティシューの手のバスケットに注がれている。

 その中には君のために作られたサンドイッチがまだ沢山入っている。

 二人揃って君を見る、サンドイッチは君のものだ。


「食べてもよろしいですか?」


 君は、それが君自身のものであるという自覚がなかったようだ。

 二人の視線がどういう意図なのかをいまいち理解できず、ティシューは仕方なく切り出した。

 君は何故訪ねるんだろうと思いつつ頷いた、やはり自覚がないようである。てっきりみんなで食べるものだと思っていたようだ。


「いいのかっ。うはぁっ、ありがとうっ、お前いいやつだなっ」

「いけませんよ言葉遣い」


 額をペちりとティシューにされながらも、喜色満面で黒猫魔法少女猫娘はバスケットからお行儀悪くサンドイッチ二刀流で頬張った。

 美味しいハムとみずみずしいサラダに、チーズの油っぽさがトマトの酸味で打ち消されて誠に美味である。

 ものすごい食べっぷりだ、君の食べる分が無くなってしまう。

 ベルウッドは朝ご飯として、町へ来る道中に生野菜を二つほど食べたらしいのだが足りなかったのだろう。

 伸びる手がぴたりと止まる、残るは二切れ。ベルウッドは少し考えた。

 そしてバスケットを君に返した、ティシューと君の分を残したのだ。


「ごちそうさま、おいしかった。今度はボクがごちそうしてあげるぞ」


 バスケットを受け取ろうとした君に換わりティシューが受け取った。荷物持ちはメイドの仕事。


「お腹がふくれたのならお付き合いしていただけますね?」

「うん、いいよ。ボクは何をすればいいのかな?」


 立ち上がり、箒を持ったまま上機嫌で身体をふりふりと踊らせるベルウッド。

 町の人にとっては見慣れた光景なのか、視線を向ける人は多々いるが、人だかりまではできちゃいない。

 そもそも、君という旅人がいると言うことは遠目から見てもわかることだ。そんなところに声をかけようとする人間はいない。

 きのうもきょうも、この町は平和だった。






「きゅろろろろろろろろろ」





 上空に、それがやってくるまでは。

空気が変わりました。

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