表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君と男爵、ときどきメイド  作者: みつ
第一章 ようこそ異世界へ
12/39

「港町モットメード」

 ★★★

 世の中には二つのモノがある

 それは私にとって価値のあるモノと、価値があるかもしれないモノだ

 ★★★



 バスケットの中のサンドイッチは、全て君のものだ。

 少なくともティシューはそのつもりだったし、シェフの二人もそのつもりで作った。

 だからたとえサンドされてるものに君が苦手なものがあっても残しても構わない。


「お好きなだけどうぞ」


 と言われて君はバスケットを開けた。白いパンに柔らかそうな野菜とハムや卵焼きなどが挟まれている。

 だが全て君のものと言っても、朝食を食べてからさほど時間が経っていない、あまり多くは食べれない。

 多くてもせいぜい二つ、それ以上だと食べ過ぎだろう、君はちょっとだけ食べてバスケットを閉めた。

 街へと向かう道は切り開かれていて、通り抜ける風が気持ちいい。


「この道はご主人様が切り開いたものらしいです」


 らしい、と言うことはティシューはその現場を見ていないと言うことである。

 せっかくティシューが振ってくれた話題に、君は詳しく聞いてみることにした。

 そもそもこの島の町は、男爵がこの島に住むようになってから大きくなった町であった。

 元々男爵はこの島の生まれではなく、トワレヤ諸島郡の北にある大陸の人間である。

 しかし、自由気ままである男爵は、その好奇心が故に天山大剣を追いかける際に、その航路上に館を置いた。

 そして、世界中を飛び回る際、身寄りのない子供を拉致してきては館でメイドとして飼うようになった。

 君は驚いて声を上げた、拉致!?飼う!?


「はい」


 とティシューの淀みない返事、聞き間違いじゃなかった。


「私たちは全てご主人様の所有物です。他の者の事は判りかねますが、少なくともご主人様に私は救われました」


 見上げた忠誠心である、男爵のことを語るティシューの声は明らかに誇らしげだった。

 過去に一体何があったのだろう。

 話を戻すと、元々はこの島の上空が天山大剣の通り道であったが故に館を置き、子供を保護しているということだ。

 ちなみにメイドをさせているのは男爵の趣味である。可愛いは正義。

 もちろん保護した子供は女の子だけではないので安心してほしい、別の館にいるというだけである。


「機会があれば他の館に行くことがあるかもしれません」


 基本的にティシュー達メイドは島から出ることはあまりない、彼女自身よそのメイドに会ったことはないらしい。


「メルやセッティエームは定期的に大陸に渡っているのですけれど」


 何をしに?と聞くと、ディーラーです、と即答。相変わらず打てば響くほどよい回答をする。

 でぃーらー?君はますます判らなくなった。

 ディーラーというと販売者という意味である、あの二人が一体何を売るの?と聞いてみた。

 売るのではなくトランプゲームでの親を行うことをティシューは説明した。ディーラーってそっちのことか。

 君はメルとセッティエームの事を思い出す。十に届くかどうかと言った年齢のあの二人だったが、務まるのだろうか。


「すごいですよ」


 務まるらしい、君は二人の年齢を訪ねてみる。


「メルが八つでセッティエームが九つです」


 十に届いていなかった。

 ところで、遊戯室に行ったのであれば、遊技台があったことに気づいただろうか。

 メルやセッティエームに見とれて、ビリヤード台や作りかけのパズルのみに気を取られていただろうか?

 それだけではなく、縄跳びやダーツのセットもあった、遊戯室の名は伊達じゃないということだろう。

 遊技台とはカジノでトランプゲームをするときに使用する台のことである。

 半円状のテーブルで、直線の所に親が位置し、五名ほどの子を相手にする台だ。

 ちなみにルーレットやスロットマシーンもあったりする。

 また今度遊戯室に行ったときに頼んでみたらいいだろう、遊びたい盛りのあの二人なら喜んで遊んでくれるはずだ。

 遊技台、トランプゲームと聞いて、君はラスベガスのカジノを思い浮かべる。

 何か賭けたりするのと君が聞くと、しばしの沈黙。かっぽりかっぽり馬の蹄の音だけが聞こえてきた。


「あまりおすすめはしませんが、それを望まれるのでしたら、あの二人ならば喜んでお応えするでしょう」


 何か賭けたいなら付き合ってくれるかもよ、と言うことだった。


「ただ、身体的にも精神的にも極力負担の無いように行うのが最良だと存じます」


 ギャンブルは身を滅ぼす、そのことは君の先駆者が身をもって証明しているはずだ。

 人間誰も勝ったときの話しかしない、数カ月に一度たかだか数万勝った程度でこれまでの数年で数十万と費やしていることを見ないふり。

 ギャンブルは身を滅ぼす、そのことは君の先駆者が身をもって証明しているはずだ。

 ティシューはそのことを言いたかったのだ、君は肝に銘ずることにする。

 話がそれた、メイド達がこの世界で何をしているのかを説明し出すと時間がいくつあっても不足する。

 町へ行く一時間足らずでは、これくらいの話が関の山だった。




 森を抜けると、町があった。君が暮らす近代日本のような舗装された道路ではない。

 だが、木造石造の建物がいくつも存在し、市もあった。

 さすがにトワレヤ諸島の一つの島でしかないここは、町としては小規模である。

 だが、この町が出来た理由がこの島に男爵がいたから、それだけが理由であることを考えればそれはかなりすごいことでもある。

 高台から町を見下ろす、この丘の上からでも人々が市場を歩いているのが見えた。

 大人も子供も活気にあふれている。

 男爵の庇護のもと成り立っているこの町には、君の世界で言う警察などと言った自警組織をメイドのOGが勤めている。

 基本的にメイドは三十路を越えるまでには伴侶を見つけて館を出る。

 館を出た後は町で暮らす、メイドであるときに身につけた生活能力は、まさに良妻賢母に相応しいものと言えるだろう。

 また、館には男爵と勝負を望む冒険者達も訪れるが、それらは大抵メイドが撃退する。

 そもそも男爵は館をほとんど留守にしているからであり、メイド達は館を護ることが義務であるからだ。

 そんな経緯で撃退された冒険者達は、尻尾を巻いて逃げるか、リベンジを果たすために町に居座るか、そのどちらかである。


 町に存在する施設は、冒険者ギルドは当然として、鍛冶屋と八百屋、肉屋に雑貨屋に貸本屋、大きなところでは学校も存在する。

 基本的には物々交換だが、金銀銅貨も多少使われる。もちろん描かれる人物は男爵の横顔である。

 金銭的な価値は、銅貨が100円、銀貨が1000円、金貨が10000円程度、とまぁわかりやすく区切られている。

 銅貨以下のおつりは無いので、使用するときは「銅貨一枚分で」といった買い方をする。

 それでも基本は物々交換ではあるのだけれども。

 君はティシューにお金の詰まった袋を手渡された。結構ずしっとしていて数が入っているようだったが、全部銅貨だった。

 君のお小遣いのつもりでティシューは渡したのだが、実はこのお金、ティシューの自腹だったりする。それを知らない君はそのまま受け取ってしまう。


 丘から降りると町の入り口の門があった。門と言ってもそれほど上等なものではなく、柵と言った方がしっくり来るような簡単なものだ。

 頭上の見張り台にティシューは声をかける。


「ごめんください」


 声をかけられた見張り人はすこぶるびっくりしたようで、「ふぇぁ!」なんて声が頭上から聞こえた。

 居眠りをしていたらしい、仕事しろ。

 もっともティシューが今いるこの入り口は、男爵の館直通故に、外からここに来る人間と言ったらメイドしかいないのだ。

 暇をもてあますものしょうがないと言える。

 見張りの女は身を乗り出して声をかける、コレは珍しい人が来た、反物でも切れたかな?

 庭で野菜を栽培をしているベルウッドが採れた物を売りに来るのは毎日のことではあるが、

 被服室の長であるティシューが町に来るのはあまりない。

 洋裁に必要な布は部下であるメイド達に買いに行かせるか、まとめて仕入れるかをするからだ。

 それ故に珍しいのだが、ティシューは丁寧にそれを否定する、布は十分確保してあります、今回は別の件です。

 すると見張りの女は君を見る、ほほう、と目を細める、君の位置からは彼の表情は見えなかった。


「あなたより珍しい客人ですね」

「えぇ、その通りです。通ってもよろしいですか?」


 メイドの通行を拒否する理由などどこを探してもあるはずがない、一も二もなく彼女は了承した。

 門を通過しながら君は振り返る、見張り台の女がなおも君たちを見ていた。君の見ているのに気付いて手を振ってきたので、君は律儀に振り返した。


「元メイドです」


 知り合い?と訪ねた君にティシューはそう応える。

 なるほど、さっき話したメイドのOGというわけである。


「メイドを引退したと言っても、そのころの能力や経験を活かし、あのように町の治安維持に尽力したりしている者が多いです」


 門から少し中に入ったところで建物がある、ティシューはそこに馬を預けた、コレよりは徒歩。


「少々歩きますが。お疲れになりましたら仰ってくださいね」


 馬から降りてティシューは優雅に一礼。

 君は差し出された手にバスケット渡し、するりと馬から降ろされた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ