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君と男爵、ときどきメイド  作者: みつ
第一章 ようこそ異世界へ
11/39

「ご注文はお刺身ですかエビフライですか」

 ★★★

 この私と渡り合いたければ、凍ったマグロでも持ってこい!

 ★★★




 それからしばらく歩く、厩舎から敷地を出るまでが長かった。

 中庭も広かったが、外周の庭も相当広い、君の感覚でも500メートルくらいの距離を歩いた。


「お出かけですか」


 植栽の手入れをしているローズマリーと再遭遇、植木に箒を立てかけながら木々の剪定を行っている。胸元のナイフは相変わらず突き刺さっていた。

 君がそのナイフを見ていると、視線に気づいた彼女は腕で胸を抱く仕草をした。


「えっち」


 ぽっ、と頬を染める仕草をした。そしてすぐに腕をおろした、ちょっとからかっただけである。


「お客様をからかうものではありませんよ、ローズマリー」

「まぁまぁ、お客様のままかそれとも身内になるか現段階では判らないでしょ。あたしとしては早く慣れるように親しげにだね……」


 困ったように肩をすくめるティシューだが、ローズマリーなりの気遣いによる発言なのでそれ以上は何も言わない。

 ちなみにこの会話中にもローズマリーは君たちに身体を向けながら右手をびゅんびゅん振っていた。

 その腕の先で、木々の枝葉がすぱんすぱん吹っ飛んでいる。

 君はローズマリーの宝具の力を今まさに目の当たりにしていた。


「まぁ、あまり遅くならないようにね」


 地面に横にしてあった箒を持ち上げつつささっと掃く。突如風が巻き起こり、落ちた枝葉が吹き飛ばされる。

 箒が置かれてあるのは君も気づいていた。その箒で落とした枝葉を集めるんだと思っていた。

 実際用途は一緒だったが当然のように普通の箒じゃなかった。

 名称をストームブルームと言い。風を起こす魔道具である。ひねりのない名前だ。

 主な用途はこのように起こした風でチリを集める事ではあるが、風を起こし空を飛ぶことが可能。

 典型的な『魔法のほうき』ではあるが、分類はあくまでも魔道具、ローズマリーの胸の『剣閃ナイフ』に比べるとそれほど珍しい道具ではなかったりする。

 なぜならば館に予備も含めて32本確保されてあるからだ。

 もっとも、使いこなすにはそれなりの魔力と修練が必要ではあるが。


「ん?なにか?」


 ぽかーんとしている君に気づいたのか、ローズマリーが首をかしげる。その手にはほうきを持ったまま。

 君がほうきについて聞くと、ローズマリーは前述したとおりの説明を行った。


「使ってみますか?」

「後にしましょう」


 ローズマリーがぐいっと箒を突き出したが、君がそれを受け取ろうとしたところをティシューが押し戻す。

 残念そうに腕を引っ込めて君たちに背中を向けた。箒でさっさっと地面を掃き始める、風が巻き上がり埃が飛ぶ。 


「さて、行きましょうか」


 と、その時だ。ひゅるるると風が起こったかと思うとティシューのメイド服がふわりとへその位置までまくれ上がった。

 君は呆然とする、水色。

 風はゆっくりと収まり、スカートはふわりと元の位置へ。


「少々お待ちを」


 そう言ってティシューは手綱から手を離し、ローズマリーの所へつかつかつか。


「……早く親しくなれるようにだね……」


 言い訳するローズマリーの手からほうきをもぎとるとと、それで頭をばしばしばし。

 そして返すとローズマリーは受け取る。大して痛くはなかったがとりあえず叩かれた頭をすりすりと撫でている。


「お待たせしました」


 戻ったティシューは再び手綱を掴んだ。

 君がローズマリーを見ると、イタズラを窘められた子供のようにしょぼーんとしていた。

 ローズマリーはぺこりとお辞儀をして君たちに背を向けて庭を掃き始める。

 哀愁漂うローズマリーの背中を振り返りもしないティシュー。手綱を引きつつその場を後にする。

 ほっといていいの?と君が聞くと「かまいません」とあっさりした様子。わずかながら頬を染めている、照れているようだ。

 そうしている間にもローズマリーは移動しながらほうきを使い、どんどん遠ざかっていく。


「彼女のことが気になるようでしたら、また改めて紹介いたします」


 ティシューはごまかした。

 だが、メイドと遊ぶにしても時間が足りないのは確かだ、序列のあるメイドは何人と言っていたか君は思い出してみる。

 ローズマリーが何位だったっけ?頑張ってみるが無理だった。

 おとなしくティシューに聞いてみる。


「ヴァンデミールが三位、私が六位でベーグルが七位、ローズマリーが十位。シャワータイムが十四位です。他にどなたにか会いましたか?」


 君は遊戯室で幼い二人にあったことを言った。


「メルが八位でセッティエームは九位となります。確か序列は偉い順序と申し上げたかと存じますが、厳密に言えば少し違います」


 十四位のシャワータイムが遊戯室であの二人を子供のように扱っていた様子を見ればわかるだろう。

 十四位という事は最低でも十四名存在することになる。名も知らぬ一位と二位もいるし。

 まてよ?三位がヴァンデミールで、六位がティシュー。四位と五位は?

 その疑問をティシューに投げつけてみた。


「四位と五位ですか?ちょうどよかった、紹介いたします」


 立ち止まり、手綱を引いて馬の歩みを止めた。




 館の正門、左右の門柱に背中を預けて君たちを待っている二人のメイド。

 その二人に君はちょっと見覚えがあった、朝食の用意をしていたあの二人だ。

 それときのう、落ちた絵画を肩車で治してたあの双子だ。

 まるで静かに凍てつく薄氷色アイスブルーのような、あるいは静かに燃える蒼炎色ファイアブルーのような髪。

 その外観はほとんど同一で、全くもって見分けがつかない。


「四位のツナ・フォルテ・ペルフェットと、五位のシュリンプ・トラ・ネロです」


 ティシューの紹介に二人はスカートをちょこんとつまんでお辞儀をした。


「おっとっと」


 するとツナの頭の上に載せていたランチバスケットが落ちそうになって、慌てて手で支えていた。


「二人は厨房での料理長を担っております。今朝の食事もきのうの食事も彼女たちの責任において作られたものです」


 どっちがどっちだろう、と君は思った。

 困ったことにツナとシュリンプは瓜二つだったのだ。

 双子?と聞いたらティシューは「いいえ?」と答えた。

 ツナ?と呼ぶと「はーい」とバスケットを持ってる方が返事した。

 と言うことは持ってない方がシュリンプか。


「はいこれ」


 ツナが駆け寄ってきて馬上の君にバスケットを渡した、これでもう見分けが付かなくなった。

 君はバスケットに視線を落とし、コレは何だろうと思った。


「サンドイッチだよ。自信作ですっ」


 そんな元気いっぱいな返事をしてに胸を張るツナorシュリンプ。バスケットに目を落とした一瞬でどっちがどっちだか判らない。

 ツナ?と呼ぶと「はーい?」と返事があった。

 シュリンプ?と呼ぶと、もう片方が「なーに?」と返事をした。

 本気で見分けが付かない……。


「シェフ」

『はーい』


 ティシューの呼びかけに二人揃って返事をする。なるほど、見分けが付かないなら一括りにして呼んでしまえばいいのか。

 この方法なら館で見かけたときにどちらでも間違いにはならないだろう。根本的な解決にはならないけど。


「それでは参りましょうか」


 ひょいっ、とティシューが騎乗する。


『いってらっしゃい』


 手をふりふりして見送るシェフの二人、君は体をねじり二人を見ながら考えた。

 なんとか見分ける方法はないものか、手を振る二人を見ながら考える。

 そしてと気づいた、二人は手を振っているが、上げているのは片手、右手と左手。

 こういう場合利き腕で区別できるじゃなかろうか。

 君は名案だと思った、ドキドキしながら早速ティシューに聞いてみる。二人の利き腕はどっち?


「利き腕……ですか……?」


 ティシューは料理中の二人の姿を思い浮かべた。


 二人とも両利きですね」


 頓挫した。



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