転生女神のお仕事 物語は私が作る! ~ TKGで番外編 ~
静かな教室で先生が何かを言いました。
先生は何事もなかったかのように説明を続けました。
今回はこんな話です。
「俺はあの時、熊を助けて……死んだのか?」
見渡す限り真っ白な、境界が曖昧な世界で俺は目覚めた。
いつもの帰り道、猫に轢かれそうになっている熊を見かけ、気付いたら飛び出していた。
その後のことは覚えていない。
「やっぱり死んだんだろうな俺」
霞がかった頭を振り、現状を理解しようと辺りを見回すと眩しい光を背にした人がいた。
澄み渡った青空のような女性の声が聞こえた。
「貴方にはこれから別の世界へと旅立って貰います」
後光が目にしみる。光を見て泣くなんてクリスマスの夜以来だ。俺には眩し過ぎる。
「涙を拭きなさい。大丈夫、貴方が助けたアオモリマイマイは無事よ」
「よかったアオモリマイマイが無事で」
女神様は太陽のように神々しく直視できない、思わず下を向いてしまった。
「ん? 大丈夫よ、PCデータは消去済みよ」
心残りはない前を向いて生きよう、目が痛い。足元を見て堅実に生きよう。
「顔を上げなさい」
上を向いて歩こう。
「男の子ね、でもクヨクヨしている暇はないわよ。貴方は転生して第九の人生を歩むのだから」
「はい、頑張ります」
「いい返事ね。きっと、貴方は歓喜の歌を聞くでしょう」
「歌はいいですよね。歌は心を潤してくれます」
「フフッそうね。さて貴方の転生について説明するわよ」
「はい、お願いします」
先ほどまでよりも一つトーンを落として女神様は言った。
「貴方にはかけてもらいます」
空からゆっくりと白くて丸い物が降りて来た。
俺は腕を伸ばして両手でそっと包み込むように手に取った。
「ご飯に、ですね」
「ええ、そうよ人生をかけて」
「醤油はあるんですか?」
「薄口しかないわ。だから貴方はコイを追い求めて生きるのよ、人生をかけて!」
「わかりました。コイを求めて戦います、このミにかけて!」
「割れるとどうなるんですか?」
「死ぬわ」
「本当に人生をかけてますね。こういう転生って普通なんですか?」
「私が普通の転生なんかするわけないじゃない。卵に魂の核を入れるの大変だったんだから、既存の技術水準を遥かに超える、新技術よ!」
「すごいですね!」
「オーバーね!」
「卵かけご飯じゃないと貴方の魂は戻ってこないからね」
「因みにこれ半熟玉子だったりは?」
「生よ! 生を守りながら生を謳歌するのよ!」
「殻を割らないように生きるのよ。でも自分の殻は破ってね」
「悪い人には気をつけてね」
「あの」
「なになに!?」
「割らないでどうやって卵かけご飯作るんですか」
「つまり、コロンブスの卵ね」
「上手くないです」
「あら食べてみないと分らないわよ」
「少し腹を割って話しませんか」
「それでは有意義な異世界ライフを!」
こうして俺の転生はライフがカラの状態で始まった。
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