幼馴染の苦難
「もらいー!炎筒!」
「ギャシャアアアア!!」
「ああくそ、また取られた!」
千華の索敵のお蔭で狩りは順調に進んだ。
さっき暑士が燃やしたので21匹目だ。
討伐数は暑士が11匹、冷也7匹で俺が3匹。仕方ないじゃん、俺飛び道具ないし。
「千華、次だ次!早く次!」
「なんでそんなにやる気なの……?」
不利な状況とはいえ、深夜の女子トークでの話題を譲るわけにはいかない。
討伐数を増やそうする俺に感化された二人が積極的にゴブリンを殲滅してしまうが、まだ勝負は終わっていない!
「いた。2時の方向に、走って5分ってとこかな」
「っしゃいくぜおらぁ!」
「次も俺が貰うぜー!」
「私も負けませんよ!」
飛ぶように走り、ゴブリンを目指して突き進む。
「なにかしら?」
「楽しそうだよねー」
茫然とする女子勢も駆け足で後を付いてくる。
良いところを見せてやるからな!
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重い足取りで拠点に帰ると、土田と津田さんが迎えてくれた。
「おう、東条。お疲れ」
「お疲れさま。後ろの男子達は……どうしたの?」
阿武、足尾を始めとした彼らは、もう戦闘には連れていけない。
戦闘になって腰を抜かすようでは、仲間と自分の命を危険に曝すだけだ。
彼らには落ち着いた場所を見つけた後、農業や釣りなど戦闘以外のことで役に立ってもらおう。
想像以上に疲れた体を座らせ、何か問題はなかったか土田に聞く。
留守にしている間に魔物は現れず、特に問題はなかったらしい。
「戦力になるのは、僕と君、それに今探索に出ている十五達5人。気山と西妻さんも戦えなくはないけど、不安要素は残るかな」
みんなに聞こえない位置に移動し、戦力面について土田に相談する。
疲れている脳で適切な判断な判断を行える自信がなかったので、一人で考え込むのはやめておいた。
「やはり、実戦になると厳しいか。いずれ俺らだけでは守り切れなくなる」
いつ終わるかわからないサバイバル、敵は魔物だけでなく他の学校の奴らに見つかれば襲われる危険がある。
いつまでも魔物の蔓延る森の中にいては、不確定要素が起きた時に対処が遅れてしまう。
どこか安全な場所を見つけ、そこに拠点を移したい。
「北条森が鳩を召喚出来たろう。あれで安全な場所を探してはどうだ」
「千華か。いや、召喚魔法は使用者から離れすぎると消滅するらしいんだ。遠くまで行くなら千華に戦闘員を付けて進ませるしかないね」
そうして土田と話を進め、日が暮れる頃、遠くから十五達の声が聞こえてきた。
「ずるっこいよあれー!行き成りドーンと飛ぶやつ!」
「ふっ、あれが男の戦い方よ。名付けて『爆風ダッシュ』」
「めっちゃ自爆してましたよね。安藤さんがいなかったら何回も死んでますよ」
「安藤さんいるから無茶ができるんだろ。あ、ありがとうね安藤さん」
「良きに計らえーっ」
わいわいと騒ぎながら歩いてくる十五達。
千華は疲れているようだが、初めての探索に鳩の視界での索敵と、消耗が激しいのだろう。
「お!東樹、お疲れな。レベルが5過ぎてから上りが悪いな。そろそろ強い魔物が出るとこ行こうぜ」
「そうだね。ちなみに、みんなどれだけレベル上がったの?」
「えっとな、たしか……」
十五 LV8 HP230 MP41
千華 LV6 HP51 MP170
暑士 LV7 HP281 MP64
冷也 LV7 HP190 MP98
安藤 LV7 HP103 MP106
数時間でレベル平均4上昇か。やっぱ十五は凄いな。
「東樹はいくつになった?10くらいいったか?」
「……僕は変わらずレベル5だよ。随分離されちゃったね」
首を傾げる十五、僕ならもっと強くなってると思ってたんだろうな。
「それよりさ、新技会得したんだって?聞かせてよ」
「……おう!爆風って技があってな……」
ワザとらしく大げさに、体全体を使って新技の説明をする十五。
僕の様子から探索先で何かあったと察し、元気づけようとしてくれてるのだろう。
「……僕も、もっと頑張らなきゃね」
「ん?何か言ったか?」
「なんにも。続けて?」
「ああ。そこでな、ゴブリンに向かって熱い抱擁を……」
彼にはいつも励まされてばかりだ。
今回の探索では、戦力外を数人発見でき死者も出なかった。考え方を変えれば大成功だ。
十五に追いつけるよう、僕も前を向いて進もうと決心し、連続でボケをかます彼に突っ込みを入れた。
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初の実戦を経験した日の夜。
昼のうちに土田君と津田さんが作成してくれた簡易住居で私たちは横になってた。
壁と天井があって植物がクッションとなり、森の中とは思えないほど心地よく休息できている。
「それではこれより、第二回恋バナ大会~憧れのあの人に焦がれる思いを赤裸々に編~を開催します!」
「待ってましたー」「いぇーい」「どんどんぱふぱふ」
ムードメーカの川霧さんが切り出す形で、昨日に引き続き恋バナが始まろうとしていた。
暗くなった雰囲気を明るくするために開催された企画だったが、今ではみんな心から楽しんでいるように見える。娯楽のない森林だから仕方ないだろうけど、召喚した魔物との視覚共有で少し疲れたから今日は早めに眠りたい。
「東樹様、は西妻ちゃんと一緒に行動してたんだよね?……ってもう寝ちゃってるか」
身を乗り出して川霧さんが質問したけど、西妻さんはスヤスヤと眠りについていた。彼女は昨日も真っ先に就寝していたので、普段から休むのが早いんだと思う。
「しょうがない。土田はずっとこの住居作るのに必死だったし、後は七五三木の所か。千華と安ちゃん、どうだった彼ら?」
矛先がこちらに向いたので、ここは寝たふりでやり過ごそうと思う。
「すやすや」
「嘘寝はいいから。どうだったのよ?」
「……どうって、どうもしなかったわよ。ねえ、安ちゃん」
「えっとねー。七五三木くんがすごく吹っ飛んでたー!」
嘘寝を看破された私は、標的を安藤安ちゃんに誘導しようとしたが、十五の名前を出されてしまった。これは標的が私に戻ってくるパターンだ。
「七五三木って、千華の幼馴染だよね。どうなの実際?てか吹っ飛んでたって何?」
「……十五とは何もないわよ。なんかあいつ、新技編み出したとか言って凄い吹き飛びまくってたし」
「新技で吹き飛ぶ?どゆこと?」
「中級爆発魔法習得したらね、爆風って魔法を覚えたらしいんだけど。それを追い風として使って、背中にダメージ貰いながら超加速して戦闘してたわ」
段々と被ダメは減っていたようだけど、それでも無傷とはいかずに毎回安ちゃんに回復してもらっていた。
「すごかったよねー!暑士くんと冷也くんより早く相手の所に飛んでそのまま爆発して殴り殺すの!」
「へ、へぇ?すごいん、だね?でも、そろそろ男子達も爆発する頃じゃない?」
「爆発ってなにが?」
「決まってるじゃない。性欲よ、性欲。高校生男子が女子高生と一緒に遭難だもの、そろそろ襲われるんじゃない?」
「なっ!?十五に限ってそんなっ!」
「あれあれあれ?七五三木に特定した覚えはないけど、真っ先に七五三木想像するとか、千華ちょっとして……?」
「ちっ、違っ!直前にアイツの話したからであってそんな特別アイツにどうこうされたいとかアイツだったらムードとかそういうのあったらいいかなとか考えてないしそもそもアイツとはっ…………」
そうして、にやにやとからかうクラスメイト達と眠れない夜を過ごした。