それぞれの修得
ふーむ、画面を見つめながら顎を擦る。
所有DR2041。魔法を買うかステータスを上げるか悩みどころだ。
一人で考えてても埒が明かない、他の奴の様子を見に行く。
「西妻さんは何を取るの?」
「し、七五三木くん!い、いえ私はその、何も役に立てなかったので……。な、何を取っても足しか引っ張れないような気がして……」
眼鏡の奥の瞳は力なく地面を見つめている。真面目な彼女は、みんなのサポートをしようと補助魔法を習得している。しかし、今回の魔物刈りでは戦闘員はゴブリンを一撃で葬る力を持っていため、特に補助魔法を必要としなかった。攻撃方法を持たない彼女はまともに戦闘に参加できず、1人レベルが低いのもそれが原因だ。
「そんなことないよ!聡里ちゃんがいるから、男子達が安心して戦えたんだよ!」
ひょこっと小さな体を乗り出し、フォローを入れる安藤さん。
彼女には、魔物との戦闘で爆発魔法で自爆を繰り返すたびに治癒魔法をかけてもらった。この小さな女の子のおかげで魔法の実践練習はできたが、爆発を使いこなすことができず使うたびに吹き飛ばされた。
俺の拳、「爆拳」は攻撃力はあるが、派手なだけで殺傷力は刀と大差ない。戦闘に魔法を組み込むことが出来れば、爆風を利用したアクロバティックな戦法で東樹以上の戦闘力を発揮できるはずだ。
「あ、ありがとう安藤さん……。でも、ちゃんと皆を助けられるよう、強くなるよ……」
「うん!聡里ちゃんならきっとなれるよ!」
そうして、西妻さんは保留、安藤さんは中級治癒魔法を習得した。
「これでまた七五三木くんが自爆しても直ぐに回復できるよ!」
屈託のない笑顔を浮かべる彼女には、またお世話になるだろう。
次に暑士、冷也、それと土田の前に移動する。
冷也が氷魔法で敵を足止めし、暑士が炎魔法で敵を焼き尽くす。息の合ったコンビネーションは見事だったな。
「僕らは中級魔法を習得しました」
彼らは中級炎魔法、氷魔法、土魔法をそれぞれ購入したそうだ。
レベルアップ毎に1000DR取得し、初級魔法を習得するのに500DRを使っている。
中級はDRを1500消費するので、購入するにはレベルが3になってなければ厳しいだろう。
「ゴブリンを三体殺したら、レベル3になった」
土田が言う。昨日、俺と東樹が二人して一匹のゴブリンを倒した際、2人ともレベルが上がった。序盤だけかもしれないが、レベルアップのための必要経験値は少ないようだ。
俺も中級爆発魔法を購入しようかと考えたが、初級爆発でさえ使え熟せないのだ。中級の威力で自爆をした際には命が危うい。
MPの少ない東樹なら魔法以外の考えを持っているだろうと近づく。
「ああ、僕はステータスを強化したよ。僕のMPじゃ魔法は使えないし、武器は足りてるしね」
レベルアップ時、HPとMPが強化されるが上昇する値には個人差がある。
東樹は1レベル上がるごとに最大MPが1ずつしか上がらない。資質……魔法の威力も極端に低いため、ステータス強化を選んだのだろう。
確か、100DRでステータスを1上げられるんだったな。東樹の端末でステータスを見せてもらう。
DR 3051→51
筋力 51→60
敏瞬 55→71
「体感的には何か変化あったのか?」
「そうだね、肉体に変化は見られないけど、力と足の速さは確実に上昇したよ」
筋力を上げまくっても筋肉隆々にはならないのか。ロリ体系がマッチョマンに腕相撲で勝てるってことだな、どうでもいいが。
「今後狩りをするに辺り、ネックなのは魔物を探す手間だよね。探索系の魔法でも取ったらどうだい?」
「そんなことしたら、尚更お前との差が広がっちまうよ。戦闘で使えるのしか取る気はないね」
「相も変わらず、負けず嫌いだね」
「お前こそ、俺に抜かれるのが怖くて非戦闘系魔法を進めたんだろ?」
「……負けず嫌いはお互い様だったね」
「じゃあ探索は私がやるよー」
もう一人の幼馴染、千華が二人の間に割り込んできた。
「実はもう、召喚魔法とったんだー。ほら、これなら探索できるでしょ」
千華で肩には一羽の鳩が寝ている。間抜けそうな顔をしているが、空から探せば魔物も直ぐに見つかるな。
「なら俺は中級爆発か、ステータス上昇だな」
「爆発強化したって、自分が爆発するだけだよ?」
「使いやすい魔法が覚えられるかもしれないだろ。買っちゃいます」
端末を操作し中級爆発魔法を購入。正直、徹夜からの森林探索、自爆発連破、魔物との戦闘によって頭が正常に回ってない気がする。貴重なDRを無駄かもしれない魔法に消費するなんて非効率的だ。
だが買っちゃた物は仕方ない、習得した魔法を確認してみる。
中級爆発魔法――「爆風」
「また一つか」
「どんなの?また自爆技?」
自爆技マニアみたいに言わないでよ。今回は被害の少なそうな技だったので自爆はないはずだ。
2人から離れ、安全な位置に移動してから「爆風」を発動させる。
ドッフォォォォ!!
熱気を含んだ突風が吹き荒れ、踏ん張りがきかずに一人で地面を転げまわった。
「……マゾ」
仰向けのまま声が聞こえた方向を向くと、千華が冷たい瞳でこちらを見ていた。
自爆風と名付けよう。