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レッツサバイバル  作者: ノンノン
5/13

爆発

「ゴブリンって名前だけ聞くと可愛いと思うんだ。ゴブリン、だぜ。○○リンってアイドルみたいじゃん。千華せんかだったらセンリン、ほら可愛い。じゅうごだったらジュウリン、これは微妙だな」

「……何言ってんのよ」


 深夜の独特なテンションと修学旅行気分で男子達と語り合っていると千華が目を擦りながらやってきた。

 気づけばもう日が昇っている。時刻を確認すると午前6時、徹夜でくだらない話を延々してしまった。


「で、センリンって何よ。可愛いの?」

「うん、可愛くね?」

「そ、そう……かな」


 何故か頬を染めもじもじする千華。名前をもじったら可愛いという話だろうに。


「それで、今日の訓練はどうするんですか?大人数で狩りをするのも効率が悪いですよね」


 四角い眼鏡を指でくいっと持ち上げ、凍山冷也とうざんれいやが言う。

 習得した氷魔法を実戦で使いたいのだろう、心なしかソワソワしている。


「いや、そうとも限らないだろ。経験値の入り方がわからないし」


 戦闘に参加した者で経験値が分散されるのか、固定された数値が与えられるのかわからない。

 経験値10の魔物を1人で倒せば経験値が10得られるだろうが、10人で倒した場合全員に1ずつ振られるのか、10ずつ貰えるのかわからないのだ。おそらく前者だろうが、後者の可能性もある以上、考慮しなくてはならない。


「とりあえず、俺らが先行して経験値の入り方試してみるか」


 昨日、俺と東樹が協力してゴブリンを倒したが、経験値の取得条件が戦闘に参加したからかダメージを与えたからかは不明だ。ダメージを与えなければ経験値を得られないとなれば、攻撃手段を持たない限りレベルを上げることが出来なくなってしまう。


「その前に十五は魔法を覚えたらどうだー?」


 馬鹿っぽい口調で日光暑士にっこうあつしが言う。確かに俺はまだ戦闘方を見に着けていない。東樹もだが、俺らはMPが極端に低いのだ。平均50程度らしいが、レベル2の俺はその半分以下しかない。下手に魔法を取らずにステータス強化や武器購入にDRを回すべきだろうか。


 端末から万屋を選択し武器一覧を覗く。

 短剣、長剣、大剣、短槍、長槍、盾、弓、矢、銃、弾丸……いろいろあるな。試しに短剣を押してみる。

 

 短剣――・ショートナイフ1000DR ・ショートソード2000DR 


 二つしかないのか。他の奴に聞くと「ショートナイフ」だけしか表示されていないらしい。レベルが上がるごとに武器数が増えるのか?

 

 片っ端から武器を確認し、自分にあった得物を探す。東樹ならともかく、俺は剣の扱いは知らない。銃も魅力的だがメンテナンスや扱いが難しいだろうし、なにより異常に高かった。拳銃1つ20000DRって、それだけ銃が協力ってことだろうけど。


 数十の武器を確認していくと「ナックル」という武器を発見した。メリケンサックくらいしか思いつかないが、一応確認する。


 拳――・針手袋500DR ・爆拳1500DR


 針手袋はなんとなくわかる。針の着いた手袋だろう。

 爆拳が気になったので、画面を押し詳細を表示する。


 爆拳ダイナマイト――殴ると爆破する拳。攻撃力大幅上昇。重さ1。


 ダイナマイト。クレイジーな名前だぜ。

 重さは合計が筋力以下になればいいのだから、筋力37の俺からすれば1なんて誤差だ。


「十五、それ買うの?」


 いつの間にか隣に陣取り、身を乗り出し画面をのぞき込む千華。昨日風呂に入っていないはずだが何で良い香りが漂うのか、女の子は不思議だ。


爆発ロマンを感じてな」

「拳って、リーチとか不利じゃない?」

「それもまたロマンだ」


 確かに、拳はリーチが短い。しかし不利な分、他の機能が高いはずだ。でないとバランスが取れないしな。強力ゆえ高額な銃のように、便利なものには枷があり、不便なものには何かしら優れた点がある、はずだ。

 迷ってたってどうせ決まらないんだ。こういう時は直観に任せる。


「ていっ」

「ああっ!」


 爆拳ダイナマイトをポチる。残金505DR、財産の四分の三が爆破した。

 目の前に白っぽい手袋が現れる。薄っぺらい、安っぽい。ビニール手袋だこれ。


「…………はぁ」

「と、とりあえず着けてみたら?」


 カッコイイ系の拳に装着する武器が来ると思ったのにガッカリだ。

 手袋を装着。すると、手袋は透明になり見えなくなってしまった。


「消えた……?詐欺?」

「え、ちょっと触らせて。何も着いてないわね」


 俺の手を弄り手袋が消えたことを確認する千華。不良品を寄越されたのか?


「お、落ち込まないでよ……。そうだ、まだDR残ってるでしょ?魔法でも買ってみたら?」

「…………うん」


 体を丸めるように座り込みながら、魔法をチェックする。MPが少ないとはいえ、数回なら魔法もしようできる。レベルが上がるごとにHPとMPは増えるしな。MPがないに等しい東樹は魔法を取らないだろうけど。


 魔法は種類が豊富だ。この中から選ぶとなると悩むな。


「……千華はなに取ったんだ?」

「まだ悩み中。ゲームとか詳しくないから、魔法とかよくわかんなくて」


 ふむ…………熟考の末、爆発魔法なるものを購入。


「どれだけ爆発が好きなの?」

「なんか、意地になっちゃって」


 残金5DR。

 ほぼ有り金をつぎ込んでようやく手に入れた爆発だ。


 初級爆発魔法――「小規模爆破」。1つしか魔法覚えられないのか。他の系統魔法は3つくらい習得できたみたいなのに。

 2005DRも使って得たのは魔法1つ。

 そもそも武器が消えたことがおかしい。運営にクレームを入れたいが、そんなシステムはない。


 唯一得た力を試そうと立ち上がり、人がいないところまで離れる。俺の爆発に巻き込んでしまうかもしれないからな。

 離れて意識を集中する俺と、心配そうに見つめる千華。その様子を見た、起きているクラスメイト数名が寄ってくる。見世物じゃないのに。


「なになにー、なにやんのー?」

「暑士、静かに。彼のあの闘気、なにやら凄いことをしますよ……」


 野次馬の暑士と冷也の言葉に、他の観客もごくりと唾を飲み緊張した面持ちを見せる。


「ふっ、お前ら!世紀末の爆発ショーに巻き込まれても知らねえぞ!」

「「「おおおおおおおおおおおお!!!」」」


 沸き起こる歓声、飛び交う声援。なんか気分が乗ってきた。


「七五三木君、なんかテンション可笑しくない?」

「徹夜だったからな」


 津田さんと土田は冷めた目をこちらに向けるが、爆発を目にしても冷静でいられるかな。


 意識を集中。掌に力を込め魔力を注ぐ。

 ぽわぁ、と淡く光る掌。魔力を注ぎ、注ぎ、MPを空にする。

 通常の魔法は使用MPが決まっているが、爆発魔法は使用するMP量を任意で決められ、それに合わせた威力を発揮する。といっても最大MPの少ない俺の全魔力をつぎ込んだところで威力は知れているが。


『(小規模)爆・発!!!』


 叫ぶように、唱える。

 掌に集中した魔力が変化し、爆発を生じさせる。


 ドゴオオオォォォンッ!!


「ぶげぇっ!!?」

「十五ーーー!?!?」


 掌から生じた爆発は、俺を後方へと吹き飛ばした。

 背中から地面に滑り込み、爆発と落下の痛みに呻く。


「うがが……いってぇ……」

「ち、治癒!誰か治癒魔法!」

「わ、私が!『治癒ヒール!』」


 パァァァ、癒し効果を持つ魔力が傷口に振触れ、傷を癒す。


「し、死ぬかと思った……。ありがとう」

「もう痛いところない?平気?」

「うん、大丈夫。本当にありがと」

「どういたしまして、えへへ」


 治癒魔法を施してくれた安藤安あんどうやすさんに土下座しながらお礼を言う。彼女は今から命の恩人だ、安藤天使と呼び尊敬しよう。

 高校生には見えない、幼い顔でニコリと笑う安藤天使は、土下座する俺の姿を見ても動じない。男に土下座させるのに慣れてるのか?


「え、えっと。大丈夫?」

「おう、千華。いや、大丈夫ではないか」


 使用者を吹き飛ばすという糞魔法を習得してしまった。爆発で吹き飛ばされた際、視界の端に表示されたHPが半分ほど減少するのが見えた。今は治癒魔法のお蔭で全快しているが、二度と使用したくない。自爆特攻くらいにしか使えないだろうしな。

 武器は消え、魔法を使い物にならず、DRも雀の涙。厄日だ、いやこんな世界に来た昨日から不幸は続いているか。


 爆発音で目を覚ました皆が心配して寄ってきた。おい、注目されたら何があったか説明しなきゃならなくなるだろ。


「十五がなー、『俺の爆発に巻き込まれんなよ』って格好つけといてなー。自分の出した爆発で、自分だけ吹き飛ばされたんだ!」

「や、やめろ暑士!これ以上ダメージを与えないでくれ!」


 クラスのみんなから笑いものにされ、メソメソと一人で涙を流したのは言うまでもない。


 散々笑った彼らは今回の技を、自爆と爆発をかけ「自爆発」と名付けた。

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