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転校生の変化していく立場(2)

「それで逃げてきたの~?」

「ああ」


 放課後。いつもの場所でいつも通りに、ゆかりに勉強を見てもらいながら葉柄。


 ただ今日は今までのようなやり方とは違う。

 一昨日、ゆかりに作ってもらった小テストで合格点をもらったおかげか、切羽詰った詰め込み勉強をしていない。


 今日からはこの学年になってからの復習に入るし、おそらく来週からはその日の授業内容を復習するだけになる。


 その安心感からか今日は、雑談に華が咲いていた。

 主に木林灯の話で。


「説教されるだけって分かってるからな。放課後に入ってすぐに来るならまだしも、なんか他の掃除をサボろうとしてた連中を注意してたしよ。別に良いかと思って逃げた」

「それだとたぶん~、明日も言われると思うよ~?」

「良いんだよ別に。放課後に時間使われるより数倍マシだ。んなことより、なんでいつもみたいにゆかりが起こしにきてくれなかったんだよ。そのせいでこんな面倒なことになってるってのに」

「ごめんね~。あたしよりも木林さんの方が動くのが早くて出遅れちゃったんだ~。気付いたら葉柄と話してるしさ~……割って入れなかったの~」

「ちっ……そんな早かったのかよ、あの転校生。なら仕方ねぇか」

「というか~、葉柄も自分で起きるようにならないと~」

「寝る前はそのつもりなんだけどよ、なんか起きれねぇんだよ。なんか」


 たぶん、ゆかりが起こしてくれるという安心感のせいだろう。


 彼女はいつも、次の授業で移動することになれば、授業中に寝ている葉柄を起こしてくれていた。

 むしろゆかり以外起こしてくれようとする人なんて一人としていなかった。


 とはいえ、決してイジメられている訳ではない。

 ただ孤立しているだけ。

 ちなみにそのキッカケは、ある日からずっと二人でいたら下らないからかいをしてきて無視していたらキレられてそれに対してゆかりが持ち歩いてる包丁を取り出して脅した、というのが始まりだ。

 それ以来、二人はクラスメイトのどのグループからも距離を置かれ、キレたら危ない奴等という認識をされている。

 もちろん本人達も自覚はあるし、それを改善するつもりがないのも事実だけれど。


「……まだ、夢に見ちゃうの~?」


 不意に、話をぶった切ってのゆかりの質問に、葉柄は考える。

 心配かけないために嘘を吐くべきか、それとも正直にまだ見ていると言うべきか、を。

 癖が抜けないから寝てしまっているだけと言うべきか、まだ明るく五月蝿くないとしっかりと寝られないと言うべきか、を。


 そんな、沈黙の隙を縫うかのように――



 ガラッ! ダンッ!!


「見つけたっ!」



 今まで一度たりとてありえたことの無い来訪者が現れた。


 人気の無い上の階。

 さらには端っこの空き教室を先生に頼んで使わせてもらっているのだから、誰かが来ることなんて普通ならありえない。

 にも関わらず、現れた。


 いつもとは違う始業式を行わせた元凶とも呼べるべき存在。


「ちょっと! 放課後に話があるって言ったのになんで教室に残ってないのよっ!」


 遠くから聞こえる喧騒をBGMにしていた静かな空間に響く元気な声。

 ただでさえ通る声なせいか、教室が震えたような錯覚までしてしまう。


「なんでも何も……お前がすぐに話しかけに来なかったからだろ?」


 その来訪者――灯に対し、疲れたような表情で、けれども内心少し安堵しながら、呆れた口調を作る。

 そんな葉柄の態度に、灯は顔を真っ赤に怒鳴り返してきた。


「待っておくのが礼儀ってもんでしょ! 私はあなたのためを思って注意してあげようって――」

「じゃあすまん。忘れてた」

「じゃあって何よ“じゃあ”って! 大体さっきの受け答えで忘れてないことぐらい分かってるわよっ!」

「あれ? なんできたんだ?」

「アンタだけなんで会話が巻き戻ってるみたいになってるのよ!」


 ズカズカと詰め寄ってきて、今にも胸倉を掴みかからんばかりに鬼気迫り、その眉間に人差し指を突き出してくる。


「そもそも! 授業中に寝てるアンタが悪いんでしょ! あたしは正しいことをしてるだけなの。注意してるだけなの。あなたのためを思って。分かる?」

「注意ならそんな怒鳴るなよ」

「アンタがいなかったからじゃない! こんな人気の無いところに隠れて!」

「いや、隠れてた訳じゃねぇよ。ここじゃないと邪魔されるからココにいるだけだ」

「邪魔? なんの」

「勉強の」

「勉強?」


 そこでようやく、俺とゆかりの間にある机に広げられたノートや教科書、筆記用具に目が移り……俺の向かいに座っているゆかりを見た。


「あれ……? 凍梨さん?」

「……ん」


 コク、と小さく頷くゆかり。

 どこか壁を作るような、距離を置くような態度。


 葉柄の前では表情豊かで、間延びした喋り方ながらも饒舌だが、それ以外の人となると途端にこれだ。

 それに加え今は、会話を途中で止められたせいで、少し不機嫌も混じっている。


「もしかして、凍梨さんが水月くんに勉強を教えてるの?」

「……ん」


 先程までの怒りが霧散するほど興味を惹いたのか、しきりにゆかりに話しかけ始める。


「えっ? うそっ!? あの真面目な凍梨さんがっ!? こんな不真面目な水月くんと仲良いの!?」

「…………ん」

「なんで? もしかして二人って付き合ってるのっ?」

「……ううん」

「じゃあ……幼馴染とかっ」

「…………ううん」

「え? じゃあただの友達なのに、放課後に付き合ってあげてるの?」

「……ん」

「すっごい! すごいね、凍梨さん。優しいんだね」

「……そんなこと、ない」

「あるって! だって授業中寝てばっかりの彼のために、わざわざ復習手伝ってあげてるんでしょ?」


 開けてあるノートのページを見て、今日授業で受けた範囲だとすぐに察しがついたのだろう。


「楽してる人のために自分の時間を犠牲に出来る人なんてそうそういないって!」


 そう一通り褒めた後、また葉柄へと視線を戻して呆れたようなため息を漏らす。


「それなのに水月くんは……全く」

「いや、俺だって勉強してるだろ? 何も悪くはねぇじゃねぇか」

「凍梨さんに迷惑かけてるじゃない。大体勉強したいなら、ちゃんと真面目に授業受けて、ノートとって、家帰ってから自分で復習すれば良いだけでしょ? それが出来ないって言うんならそうね……私が勉強を見てあげようか」

「は?」

「あれだけ真面目に勉強してる凍梨さんの手を煩わせるのもアレだし。私がノートを見せてあげても――」


「それはダメっ!!」


 ……一瞬、誰がその声を発したのか、分からなかった。


「――……え?」


 葉柄ですら一瞬では理解できなかった。

 だったら、初めて聞いた灯は尚のこと分からなかっただろう。


 大人しく、ゆっくりとした喋り方ばかりをしているゆかりが、その発声源だとは。

 葉柄ですら過去に一度、例の包丁を突き出した事件の時に聞いて以来で、どこか懐かしい気持ちになった。


「…………」

「…………えっ? えっ??」

「あ~……その、アレだ」


 大声で静止してから再び無言モードに入ってしまったゆかりに代わり、戸惑う灯をフォローし始める葉柄。


「これはゆかりの復習も兼ねてんだよ。ほら、誰かに教えると良い復習になるって言うだろ? それだよ」

「え? そうなの」

「…………」


 ゆかりは一つも頷かないが、構わず続ける。


「俺みたいな不出来なヤツでも分かるぐらい教えれたら、そりゃもう完璧ってこった」

「なるほど……」

「だからま、いきなりその復習方法が取れなくなるかもしれねぇってことで焦っちまったんだよ。つまり、この勉強は俺たち二人がWin-Winの関係でやってるってこと。変に横槍入れようとしても無駄だから止めとけ」

「そっか…………。…………ってそれとあなたが授業中に寝ちゃってるって話は違うでしょっ!?」

「ちっ! このまま誤魔化せると思ったのに!」

「思うな! 全く性質の悪い……! 他のみんなはすぐ私の言うこと聞いてくれるのに……!」


 ブツブツと文句を一通り言った後、とにかく! とまた大きな声で仕切り直す。


「水月くんは授業中もちゃんと起きてること! 良い!?」

「転校生は口うるせぇなぁ」

「名前ぐらい覚えろ!」


 まったく……、と何やら小声で独り言のようにグチグチと言いながら、ようやく灯は教室を出て行った。

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