転校生の変化していく立場(1)
休み明けの月曜日。
葉柄が登校してくると、教室内には不穏な空気が充満していた。
「なんであたし達、木林さんの言うこと大人しく聞いてるの?」「しらねぇよ。なんかわかんねぇけど聞いちまうんだからよ」「だよね。ちょっとヘン」「ヘンっていうか、なんか……あの子見てるとさ、怖くない?」「怖いってお前(笑)」「いやでも、あたしちょっと分かる」「幽霊見た感じじゃない?」「見たことあんのかよ」「無いけど……でもなんか、得体の知れない? っていうんだっけ? なんか、分からな過ぎて怖いっていうか」「なんだそりゃ」「あたしもよく分かんないの! でもなんか、傷つけちゃいけないような気がしちゃって……」
その様子を眺めつつ、転校生の言い分が通らなくなるのも時間の問題かもな、なんて考えながら、彼は自分の席へと向かう。
今、不満を漏らしながらも灯の言うことを大人しく聞いているのは、あくまでも「殺しちゃいけないと本能が訴えてきていると分かっていない」からだ。
分かっていなくて、訪れる感覚に戸惑い、訳が分からずとりあえず言うことを聞いてしまっている。
葉柄やゆかりのように、その辺りのことを自覚すれば、要は手さえ出さなければ良い、という結論に行き着く。
そうすれば後は無視さえしてしまえば良いだけになる。
灯に毎日会わなかったことで、考える余裕が生まれたのだろう。
本能に忠実に生きてるだけな割りには早いほうか――
「……くあぁ~……」
なんて失礼な事を、欠伸を噛み殺しながら思う葉柄。
だがそんな事はすぐさま頭から抜け落ちる。
その抜け落ちる速度に負けない速さでカバンを机の横に引っ掛けて、さっさと腕を枕に机で寝始める。
後十分でホームルームが始まるけれど、気にしない。どうせいつも通りスルーしてくれるだろう。だから後は三時限目の体育で起きさえすれば…………。
と、そこで彼の思考は落ちた。
◇ ◇ ◇
「水月くんっ!」
「んあ……?」
身体を大きく揺さぶられ、葉柄は起こされた。
「次、体育だから起きなさい! 遅刻しちゃうよ!」
「あ、ああ……ありがとう、ゆかり」
「ゆかり? 誰よそれ」
「……んん~……?」
言われて顔を上げれば、隣にいたのは確かにゆかりではなかった。
いつも起こしてくれるのは彼女だからと、寝ぼけていて確認していなかった。
髪はボサボサしていなくてストレートでキレイな黒。目も気だるそうじゃなくてどちらかというキッとしている。
表情だってそうだ。
いつもどこかニヤついているのに今は全然……って、背も心なしか低いしスラりとしていないし、どちらかというと凸凹が目立っていて……。
「…………」
思えば、起こし方だってあんな激しくなかったような……夢現の中聞こえた声だってあんな元気を込めた声はおかしいし……って、ああ……なんだ、当然だ。
「……転校生?」
「名前覚えなさいよ、いい加減」
そこで葉柄の意識は覚醒した。
彼を起こしてくれたのは、己の正義を暴力のように振り回す灯だったのだ。
「すまん……寝ぼけてた……」
「そりゃそうでしょうよ。朝私が来たらもう寝てるし。そのまま今までずっと起きないし。っていうかなんで授業時間全部寝てるのよ。ちゃんと真面目に受けなさいって言ったでしょ。大体、夜更かしなんかしてるから授業中に寝ちゃうのよ。もっと早寝早起きを心がけて――」
「お前も体育だろ? 女子は更衣室で着替えないといけねぇんだから急げよ」
「――ぐっ……! 分かってるわよ! 放課後、改めて話があるからっ!」
「へいへい」
ったく、面倒だな……ま、忘れてりゃいいか。
ズカズカと教室を出て行く彼女の背中を見送りながら早くもブッチする算段を立てつつ、彼もまた急いで着替えを始めた。
二話連続掲載したのは、前回のが短かったし今回のも短いから
それともしかしたら明日更新出来ないかもしれないから
出来たら良いなと思ってはいるので極力するようにします