殺しちゃいけない転校生(3)
「新しい学校はどうだ?」
灯がこの家に引っ越してきて始めて、家族三人水入らずの晩御飯。
珍しく一緒に食事をしている父親からの質問に答えるため、灯は急いで口の中の物を飲み込んだ。
「……んぐ。えとね、授業内容が、前の学校でとっくに習ってるところだから、ちょっとつまらないかな」
口の中に物が入っている時に喋ってはいけない。母親からのその教えに則って、口の中で細かくなったニンジンを飲み込んでからようやく、自然と弾む声で返事をした。
「勉強が遅すぎ。二年生の二学期にやったところを今頃やってるんだもん」
「そうか。やっぱり、前の学校のままの方が良かったんじゃないか?」
「それだとパパとママと一緒に暮らせ無いじゃん。明日から家庭教師が来てくれるんだし、大丈夫だよ。だからね、学校では勉強以外のことを頑張ることにしたのっ」
「勉強以外?」
「うん! あのね、前の学校でも私、よく皆を注意して、感謝されてたからさ! そうやってあのクラスを良くしようかな、って思って。前の学校よりも酷いから、ここは私が一肌脱いで、あのクラスを良くしてあげるんだ」
嬉しそうに話すその表情には、疎まれる可能性なんて微塵も考慮していない。
普通に感謝され、友達だって沢山できると信じて疑っていない。
事実、前の学校がそうだったからだろう。
悪い子を注意したら、その子に迷惑かけられてた子達が、灯の友達になっていた。
そしてその仲良くなった子の悪いところを指摘して、ありがとうと感謝されていた。
そこに、悪意なんてものは無かった。
純粋培養のお嬢様中学に、そんな雑菌はあり得なかった。
だからそうやって、灯の周りには沢山の友達がいた。
だから今の学校でも、同じ方法で友達が出来るはずと信じて疑わなかった。
クラス内の空気も良くなってまさに一石二鳥。
そんなことすら考えていた程だ。
「そうか。あかりはえらいな」
「えへへ……うん! でも私は、当然のことをしてるだけだよ!」
正しいことを、当然のようにしているだけ。
だがその当然を受け入れてくれるところの数は、実はかなり少ない。
父親もそのことに、気付いていない。
公立中学の汚さに。
「でもね、あかり。分かっていると思うけど、『前人間』だってことは、クラスの皆に知られたらダメよ? 人とは違うと、何をされるか分からないんだから」
「うん! 前の学校でもそうだったもんね。大丈夫だよママ!」
心配そうな母親を安心させるために、元気良く返事をする。
そんな灯を見て柔らかな笑みを浮かべてる母親もまた、父親と同じだった。
「その様子だと、すぐに友達は出来そうだな」
間抜けに安堵する父親の言葉に、何も知らない灯は満面の笑みで返事をする。
これから自分のせいで巻き起こる出来事を、想像だにしていない声で。
「うん! とうっぜん! まかせてよっ!」