表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/31

殺しちゃいけない転校生(3)

「新しい学校はどうだ?」


 灯がこの家に引っ越してきて始めて、家族三人水入らずの晩御飯。

 珍しく一緒に食事をしている父親からの質問に答えるため、灯は急いで口の中の物を飲み込んだ。


「……んぐ。えとね、授業内容が、前の学校でとっくに習ってるところだから、ちょっとつまらないかな」


 口の中に物が入っている時に喋ってはいけない。母親からのその教えに則って、口の中で細かくなったニンジンを飲み込んでからようやく、自然と弾む声で返事をした。


「勉強が遅すぎ。二年生の二学期にやったところを今頃やってるんだもん」

「そうか。やっぱり、前の学校のままの方が良かったんじゃないか?」

「それだとパパとママと一緒に暮らせ無いじゃん。明日から家庭教師が来てくれるんだし、大丈夫だよ。だからね、学校では勉強以外のことを頑張ることにしたのっ」

「勉強以外?」

「うん! あのね、前の学校でも私、よく皆を注意して、感謝されてたからさ! そうやってあのクラスを良くしようかな、って思って。前の学校よりも酷いから、ここは私が一肌脱いで、あのクラスを良くしてあげるんだ」


 嬉しそうに話すその表情には、疎まれる可能性なんて微塵も考慮していない。


 普通に感謝され、友達だって沢山できると信じて疑っていない。

 事実、前の学校がそうだったからだろう。

 悪い子を注意したら、その子に迷惑かけられてた子達が、灯の友達になっていた。

 そしてその仲良くなった子の悪いところを指摘して、ありがとうと感謝されていた。


 そこに、悪意なんてものは無かった。

 純粋培養のお嬢様中学に、そんな雑菌はあり得なかった。


 だからそうやって、灯の周りには沢山の友達がいた。


 だから今の学校でも、同じ方法で友達が出来るはずと信じて疑わなかった。

 クラス内の空気も良くなってまさに一石二鳥。

 そんなことすら考えていた程だ。


「そうか。あかりはえらいな」

「えへへ……うん! でも私は、当然のことをしてるだけだよ!」


 正しいことを、当然のようにしているだけ。

 だがその当然を受け入れてくれるところの数は、実はかなり少ない。


 父親もそのことに、気付いていない。

 公立中学の汚さに。


「でもね、あかり。分かっていると思うけど、『前人間』だってことは、クラスの皆に知られたらダメよ? 人とは違うと、何をされるか分からないんだから」

「うん! 前の学校でもそうだったもんね。大丈夫だよママ!」


 心配そうな母親を安心させるために、元気良く返事をする。

 そんな灯を見て柔らかな笑みを浮かべてる母親もまた、父親と同じだった。


「その様子だと、すぐに友達は出来そうだな」


 間抜けに安堵する父親の言葉に、何も知らない灯は満面の笑みで返事をする。

 これから自分のせいで巻き起こる出来事を、想像だにしていない声で。


「うん! とうっぜん! まかせてよっ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ