解決していく問題と(3)
「――とまぁ、そんな感じでちょっと鍛えてやってたから、遅れちまった」
到着と同時、早速結果報告。
イジメられていた沼上が犯人で、また同じように灯を狙ったらこらしめてやるという意味合いで一度殺してバレないところに放置したこと、そのついでに戦いを挑むことに恐怖を感じないよう自信をつけさせるためにワザと力を落として戦って時間が掛かったことを説明した。
「…………」
「なんだ転校生? まさか殺したことが反対だって言いてぇのか?」
「今日は色々とあったからそういうの考え中。……じゃなくて、もしかして水月くんって、案外優しい?」
「はぁ?」
「だってそんな、わざわざ相手のこと気にしてあげたりとか……」
「本当に優しかったらその後の流れで殺したりしねぇよ。あくまでもまたお前が狙われないよう、少しでもどうにかしようって考えた結果だ。あのデブのことを思ってのことなんて少しもねぇよ」
「言われたら……そう、か……不良が雨の中子犬助けてるの見てときめく的な、マイナスからゼロへのふり幅でそう感じただけか……」
その通りだと葉柄自身も思ったので、何も言い返さない。
「で、ゆかり。そっちはどうだったんだ?」
「バッチリだよ~。外での視線の原因は~、なんとかなったかな~」
「よし、それじゃあ転校生、約束は覚えてるな?」
「約束?」
「おい」
さすがにそのキョトン顔は葉柄でもイラっとする。
「学校でも外でも、視線を感じないようにしてやったんだからちゃんと俺を殺せよ。約束だろうが」
「え? いやでもそれって、クラスの中で私がイジメられないようにするためにしてくれるのと交換条件じゃなかった?」
「……ん?」
言われたら……そんな気が……。
「だから凍梨さんと水月くんが、なんか私の係り? みたいなのになってくれたんじゃなかったっけ?」
「……………………」
じゃあ……あれ? これ全部無駄じゃね……?
なんか、犯人の一人があのデブだって分かって、それをゆかりに話したら外での視線にもアテがあるとか、まさか学校内と外で別人とは思ってなくてビックリして、なんかテンション上がって、そのまま解決しようって提案して、ゆかりが何か言いたげだったけど本人に聞いてみようとかなんとか言って――
「――ってそういうことかっ!」
「えっ!?」
「ゆかりお前気付いてたなっ!?」
突然叫んだ葉柄に驚く灯を置いて、彼はゆかりに詰め寄る。
「俺が無駄なことしようとしてるって!」
「ま~、うん。どうしてなんの取引きも無いのにわざわざ助けようとするのかな~、とは思ったよ~?」
「だったら注意してくれよっ!」
くっそ! 犯人分かったテンションでつい当初考えていた予定通りにコトを運ぼうとしてしまった! とっくに約束は取り付けれてたんだっ!
「……えっと……」
「……ごほん」
どういうことかとオドオドする灯に、一つ咳払い。
「……うん。確かに約束はしてたが、俺はこう思ったわけだ。もしかして完全には止められないかもしれない、と。だからもう一つの問題を解決することで、さらに恩を売っておこうって思った訳だ」
「お~」
「……会話の辻褄が合わなくない?」
感心するゆかりとは対照的に疑問を重ねる灯。
「なんか凍梨さんに言ってた言葉を考えると、後先考えずに助けてくれたっぽかったんだけど……」
「そう感じるのも無理はねぇが、まぁ実際はそういう考えがあったんだよ、うん」
「……本当? 凍梨さん?」
「葉柄が言うんなら本当だよ~」
「…………はぁ」
超納得してない顔をしていたいが、ため息一つでその表情を崩してくれた。
「ま、助けてもらったのは事実だしね……でも『前人間』じゃない私が殺しても変わらないわよ?」
「まだ言ってんのかよ。ま、それでも良いから頼むわ」
「今から?」
「お前で死ねると思ってる俺がそんな犯罪者を作るようなことするかよ。ちゃんと段取り組んでからだ」
これからはその段取りをゆかりに協力してもらいながら考えないとな……と考えながら、葉柄。
「ともかく、今日はこれで解散だ。明日から、あんま今までみたいにクラスの連中を注意するなよ? 被害を受けるのは俺達なんだからよ」
「そうだね……せっかく手を尽くしてくれたんだし、私もそのお返しというか、自分のことだけど、なんとかしないとね」
大丈夫よ安心して。なんて言葉を色々と曖昧な顔で言ったのを最後に、ゆかりと灯はじゃあねと挨拶をした後、二人並んで葉柄とは反対方向へと歩いて行った。
……俺もスーパーに向かうか。
◇ ◇ ◇
歩く道すがら、考える。
どうすれば転校生に殺してもらって、尚且つ彼女が人殺しにならない方法はないものか、と。
「……う~ん……」
あまりにもご都合主義というか……なんというか……。
もし俺が死ななければ、俺が被害届を出さなければ済む話なんだが……そもそも殺してもらおうとするのに死なないなんてことはない訳で……。
だからって俺が死ねば間違いなく、姉貴は被害届を出して警察も動く訳で……。
となったら普通に殺されただけだと、絶対転校生が犯人だと行き当たってしまう訳で……。
……だからって、姉貴に「俺が死んでも被害届は出さないでくれ」なんて言っても聞いてくれないだろうし……っていうかろまた喧嘩になるか……そんなこと言ったら。
「う~ん……」
本当、難しい。
……ドッ……!
「っ!」
突然、腰の辺りに衝撃。
縦に、長く、深々と、何かが身体の中へと入ってくる熱。
理解できない。考え事をしていていきなりなんだ。というかこの感触はまるでゆかりとの殺し合いで感じるソレをさらに熱くしたような……。
振り返る。
まずは衝撃の元を見る。
何かが深々と刺さっている。
柄のようなものが見える。
間違いなくその先は刃で。
熱が入ってきたのではなく。
入ってきたその周辺に熱気を帯びただけだと気付いて。
痛い。
痛い。
いつも感じるもの以上に痛い。
いや痛いんじゃない。
怖いんだ。
身体全ての熱がその場所に集中してしまったような気がしてしまうほど寒い。
身体全体が恐怖している。
だから寒い。
怖い。
なるほど。
これが本当の、死ぬという感覚か。
今までゆかりとの殺し合いが、おままごとだと称してもおかしくはない。
それほどまでの、新たな感情。
人を殺すとは、人に殺されるとは、こんな感じなんだ。
イザとなったら、案外、あっさりとしている。
「……っ!」
口元から漏れそうになる呻き声を堪える。
一際大きな痛みの波がやってきた。
それからはずっと、その波が襲ってきていて……さっきまでの静かな痛みは、もうどこにもない。
広がる激痛。
熱を帯びた場所からのソレは……本当に……。
「っ!!」
相手から力が抜けるのが伝わってくる。
刺された箇所の感覚が過敏になっているのが、見ていなくても分かる。
ぼやける視界。
その中で、柄から相手の手が離れたのを見て、その姿を確認して、俺は――
~~~~~~
――人目につかない場所へと移動した。
背中から刃を生やしながら。
マンションの裏手側。
人が覗き込まないと見えない建物と建物の隙間。
そこに身を忍び込ませる。
身体を座らせる。
歩いてきた道を見ると、血が点々としているのが見えた。
今の場所に近付けば近づくほど、それの量は多くて……。
今はもう、怖くない。
広がるのは安堵。
あの時の痛みも、恐怖も、その全てが、消失していた。
……ああ……今度こそ俺は…………やっと…………。
…………………………………………死ねるのだろう。




