表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/31

変わり始める「転校生」(6)

「……ま~そんな感じで~、あの子の話に信憑性なんてものは無い、って話し~」

「…………」

「たぶんあの子はね~……――」

「…………?」

「――……ここから先は~、自分の口で言う~? 日比樹くん」

「えっ!?」


 ゆかりが見ている方向へと視線を向けても、誰もいない。


 けれども彼女の声を合図に、背後の物陰から足音が聞こえた。


 振り返るとそこには、ランドセルを背負ったまま、俯き、気まずそうに近付いてくる日比樹の姿。


「…………」

「…………」


 何故かウソを吐いていた子供。

 信じていたのを裏切った子供。


 会う約束はしていたけれど、イザそれらを理解して目の当たりにすると、なんて声をかけたら良いのか分からなくなる灯。

 今までどう話し始めていたのかが思い出せなくなっていた。


「……………………」

「……………………」


 しばらく、二人共無言。

 遠くでスクーターのエンジン音が近付き、再び遠くなる。


「……あの! ごめんなさいっ!」


 その無言を切り裂いたのは、日比樹の方から。


「ウソをついてごめんなさいっ!」

「……聞かせて欲しいんだけど」


 許す、許さないの前に、灯は聞いておきたいことを一つ、訊ねた。


「どうしてウソをついたの?」

「…………ら」


 無機物から発せられる音だけが遠く、その中でも一際小さく聞こえた声。


「えっ?」


 聞こえなかった。

 だから、同じことを言ってもらうために、また訊いた。


「好き! ……だから」


 そして聞こえたのは、大きな、一世一代の、告白。


「好きだから……会いたくて……もし、イジメられてないって話をしたら……会ってくれなくなると思って……」

「……その……好きっていうのは……恋愛感情的な意味で……?」


 呆気に取られながらもなんとか、辛うじて新たに生まれた疑問について訊ねると、


「も、もちろん!」


 という、大きな返事がかえってきた。


 それに灯は、ただ顔を真っ赤にしたまま。

 静かに、その小さな少年の告白を、噛み砕き、受け入れていく。


 …………そ……そ、っか……。

 なんか……なんというか……正面切って言われても、イマイチ実感が沸かなかった。

 自分が、自分のことが、好きだと、言われることに。


「その……おれ、子供だから、信じてもらえないかもしれないけど……マジなんだ! 助けてもらってからずっと……お姉さんのことっ、好きなんだっ!!」

「…………」


 私のことが……好き……。

 ……私なんかのことが……好き……。

 ……生まれて初めての告白が……小学生か……。


「…………」


 ……うん、悪くないな……。




 ……でも……――




「――ごめんね」


 その愛を受け止めることが、私には出来ない。


「私、自分の為だけのウソをつく子とは、付き合えない」

「…………あ」


 例えどれだけ、顔を真っ赤にして、両手の拳を握り締め、力いっぱい告白されても……誠意が伝わっても、良いと思っても、可愛く見えても、正してあげれば良いやなんて考えが過ぎっても、受けることは出来ない。


 まだ、私は誰かに支えられ、誰かを支えられるほどの人間じゃあないから。

 まだ、誰かと共に歩めるほど、私は立派な人間じゃあないから。

 まだ……自分以外の誰かのために、時間を割けるほど、私は大人じゃあないから。


「だからさ、正直に生きてよ。生きて、中学生になって、それでもまだ私のことが好きだったら……勝手だけど、また告白して。その時、私がまだ誰のものでもなかったら……その時は、付き合おう。付き合って、正直に生きたってこと、証明して」


 きっとその証明の確認のためなら、時間を割く価値はあるだろうから。


 それまでに、今よりは立派な人間に、なってみせるから。


 そうして生きてくれたキミならきっと、私を支えてくれるだろうし、私も支えたいと思うだろうから。






「だから今は、ごめんなさい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ