変わり始める「転校生」(4)
「私を、助けてくれるって話だったよね? どうして私を一緒になって注意するって話しになってるの? 私の正しい言い分を皆に認めさせてくれるようにしてくれるんじゃないの??」
「それは大きな勘違いだよ~。というか、気付かないと~、木林さん」
「気付く……?」
「あたしはちゃんとあなたを助ける提案をしたよ~。あなたは確かに正しいことを言ってるのかもしれないけれど~、それが皆のためになってないってのを注意できるポジションに自分を就けて~、あなたの自己中さをどうにかしていこうとも思ってるし~」
「じ、自己中っ!?」
「自己中以外の何物でもないよ~。結局注意している人のためじゃなくて~、自分のためにその人を注意してるんじゃあね~」
「そんなことはっ……!」
「あるよ~。だってさっき泣いた時に、叫んだよね~? どうして正そうとしてあげている自分を慕わずに嫌ってくるんだ~、みたいなことを」
「だってそれは本当のことで……っ!!」
「図星を衝かれたら人は怒るんだよ~? 木林さん」
「っ!」
「間違えているとどこかで気付いていることを、他人にまで指摘されたら、分かってるよ! って感じでイライラするでしょ~? 宿題しようとしたら宿題しろって言われるのと同じで、皆ね、そんな感じで木林さんに対して怒ってるの~。今の木林さんと一緒でね~」
「…………」
「それも怒ってきてる相手が~、自分のためじゃなくて、怒ってきてる本人のためだけってなったら~、その苛立ちは倍増しちゃうでしょ~? それこそ~、反論したら少し発散してしまうようなものを超えてさ~」
「で、でもそれがおかしいって話でっ! 私は皆のためを思って……っ!!」
「有体に言えば~、誰も頼んでないよね~?」
「っ」
「それに木林さんは、その相手を正すつもり、ぶっちゃけないでしょ~? じゃないと、慕ってくれないとおかしい、みたいな言葉は出てこないよ~。正しくなってくれたらそれで良い、って言う感じじゃないと~、正すつもりがあるってことにはならないんだよ~、木林さん。あなたは~、正すことによる対価を求めてるよね~?」
それが、慕ってくれる人。
あなたが泣いて欲した、自分の味方。
ゆかりがそう言いたいことは、灯でも分かった。
「そんなのは、上から目線で助けてあげて~、その相手に感謝しろって強要してるのと全く同じだよ~。だから、自己中だって言いたかったの~。前の学校では~、皆が優しくて、それを受け入れてくれてただけなんだよ~、ってね」
前の学校……それはさっき話してもらった、この学校にはバカしかいない、の話にも出てきていた。
あの時、ゆかりは言った。
間違いを認めたフリ、上辺だけの付き合い、と。
灯が孤独でなかったのは、その優しさを身に付けている人ばかりだったから。
正しいことをしている、だから好かれている……なんてのはただの勘違いで……本当はただ、相手が優しかっただけ。
自己中に喚き、誰かを助けたなんて良い気分で浸りたいだけのガキの言葉を、周りが受け流してくれていただけ。
本当は嫌っている人が沢山いたことに、灯は気付いていなかった。
図星を衝かれ、怒り、苛立ち、嫌う。
それらは当然の行為。
ただ前の中学では、そんなので怒るのは子供っぽいからと、灯の言うことが正しいからと、もしくは面倒だからと、苛立ちを抑えて仲良しこよしを演じてくれていただけ。
それに気付かず「正しいことをすれば友達が出来る」と勘違いした灯の末路が、コレ。
前の中学でも出来ていたのは友達ではなく、慕ったフリをしてくれていた大人だけだった。
……子供しかいない、とゆかりは言った。
だから今の灯の周りには、慕ってくれる人も、味方も、友達も、誰一人としていない。
厄介なガキである灯を受け入れてくれる大人が、ココにはいなかったから。
そしてそのことに気付かず……自分がガキだったということにも気付かず……受け入れてもらえると勘違いを続けてしまっていた。
敵しか作らないのに、どうして敵を作ってしまったんだと、身勝手に嘆きながら。
「だから今~、木林さんが止めないといけないのは、他人のためと偽った他人の矯正だよね~」
「他人のためと……偽った……」
「うん~。そしたらクラスの皆から責められることもないし~、あたしへの苦情も来ないからさ~。ねっ」
その言葉が合図であったかのように、休み時間終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
「それじゃあそういうことで~。よろしくね~」
手を振って教壇から降りると、クラスメイトから注目されるのも気にせずに、彼女は自分の席に腰掛けて次の授業の準備を始めた。
~~~~~~
それからの授業は……いつも通りだった。
いつも通り、騒がしかった。
話を終えた二時限目は、まだ静かだった。
ゆかりに対して「またアイツが面倒起こしたよ」とか「何考えてんのか分かんねぇんだよな」とか「逆らったら平気で殺しにかかりそうだよな」とか、基本笑顔の間延びした喋り方に反した、周りを黙らせる威圧感を笠に着て色々と決めてくる態度について、休み時間のように五月蝿かった。
灯に対して色々と不平不満が募っていた頃よりも酷かった。
注意したら聞いてくれるだけ幼児園児の方が遥かにマシだろう。
『前人間』の恐怖を抱いていたクラスメイトも全員、灯が注意しないようになったし、注意されてもゆかりに言えば済むだろうと考えるようになったから、こうなってしまった。
確かに、あんな話をした後だと、灯も周りを注意できない。
注意したいのにどうしても、自分自身のためにしていたことや、こうすることでしか親しくなれないと勘違いしていたことなど色々と考えてしまい、前よりも大人しくなってしまっていた。
そうして、喧騒の中、己を抑え込み、静寂を意識して過ごしていた灯に、お昼休みになってゆかりが声をかけた。
「そういえば~、視線を感じるっての、どうにかして欲しい~?」
と。
「…………」
それに、灯は考える。
確かに、クラス内での私の立場は助けられた。
あれから松来くんに話しかけられることもないし、攻撃されることもない。
許された、訳ではないだろうが、面倒になるぐらいなら話しかけないでおこう、ぐらいには思われたのだろう。
きっと私がこれからも面倒な注意しなければ、彼も私に対して何もしてこないように思う。
そうなったらクラスメイトも、私には何もしてこない。
そもそも松来くんの弟に対して私が言ったことが原因でああなっていたのだし、松来くんがどうにもしないのならどうにもならない。
まあ今までの注意に対する非難については色々とヒソヒソと言われ初めているが、直接的な被害はない。
となれば残る問題は、コレになるのか。
……この話を持ちかけられた今もまだ、灯は視線を感じている。
私の態度に対してまだ何かあるのかもしれない。
今は正直言って、自分の態度に対して改める部分に集中したい。
友達を作るために、自分を変えて生きたい。
そのためにも、他の懸念事項はどうにかしておきたい。
松来くんが言った「弟はイジメてないと言っていた」についても、本当にあの子がウソを吐いていたのかどうかを訊かないといけないし……。
そう結論付けた灯は、質問に頷きを返した。
「ん。分かった~。それだったら放課後、いつもの場所に来て~」
元々一人称だったものを三人称に書き直してたけど、なんか段々と面倒くさくなってきた。
モチベ保てんてマジで
段々とこうなってくるかもしれんけど勘弁な




