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「前人間」故の噂(1)

「なんだか、視線を感じるの」


 翌日、水曜日の放課後。

 葉柄とゆかりがいつものように空き教室でこれまでの勉強の復習をしようと教科書と自習用ノートを取り出した途端、灯がやってきて、そのことを訊ねる間もなく本題に入ってきた。


「……で?」

「で?」

「なんでそれを俺たちに言うんだ? それもわざわざココにまで来て」


 おかげでゆかりがすごく不機嫌になった。


「なんでって……話せるのが、水月くんしかいなかったから……」

「はぁ~?」


 間延びした疑問の声を上げたのはゆかり。


「そこでなんで葉柄しかいないってことになるの~? クラスメイトとか友達とか、木林さんなら沢山いるでしょ~? むしろあたし達と一緒だなんて知られたら友達なくすよ~?」


 それは自分で言ってて悲しくならないものなのか……? という疑問を葉柄はグッと飲み込んだ。


「友達無くすって言われても……なんか、昨日の出来事でとっくにいなくなってるようなものだし……」


 努めて明るく言おうとしている灯の努力は伝わってくるが、どう聞いても無理しているようにしか聞こえない。


 そう言えば今日は授業中に転校生が注意しても静かにならなかったな……と葉柄は思い出す。

 久しぶりに喧騒の中居眠りしたような感じがしたな、と。


 実はクラスメイト達も、昨日の朝の段階で抱く違和感について何か勘付いていた。

 あの大掃除でのやり取りを見て、「違和感はあるままだけど警戒したり気を遣ったりするほどじゃない」という結論に達したのだ。


「なんで水月くんかって言うと……昨日なんか、色々と話をしたから、かな」

「えっ!? ……えぇっ!?」


 二度見ならぬ二度驚き。二度目に至ってはこの世の終わりみたいな表情まで見せる。

 そんな表情をゆかりに向けられ、気まずそうに視線を逸らす葉柄。


「水月くんなら話ぐらいは聞いてくれるかなぁ、って思って」

「き、昨日って~……でも確か、あたしと別れるまでに会わなかったよねぇ~?」

「あ~……まぁ、そうなんだけど……」

「ま、まさか~……まさかだけど~……あたしと別れてから、二人で会ったとか~?」


 どう説明したら良いものか悩む葉柄の態度は、まるで浮気の言い訳を考えている旦那のよう。やましいことなんて何一つないはずなのに、何故か言い淀んでいる。


 まぁ、それも致し方ないのかもしれない。

 すぐそばでガタガタと震える指先を彼へと向けながら目を白黒とさせつつ違うはず違うはずなんて呪詛でも聞こえてきそうなオーラを放っているゆかりが隣にいては、意味も無く焦ってしまうのも納得だ。迂闊なことを言えない空気がハンパじゃない。


「会った、つぅか、出会った、だな。偶然」

「偶然~? もしかして木林さんは葉柄と同じ方向に家があるの~?」

「いや、ゆかりと同じ方らしい。なんかコイツ、昨日迷子になってた小学生のガキを送ってたんだ。それでこっち側まで来てたんだよ」

「ふ~ん……引っ越してきたばかりなのに、道をね~……」

「それは知らなかったっぽいんだが、泣いてる子供を一人で行かせても不安がるだろうからって、一緒に道を探すようにってついて行ったんだと」

「そう~……すっごい親切なんだね~……木林さんは」

「いやぁ~……そんな凍梨さんに褒められると、なんか照れるな~……」


 本当に純粋に褒めてるように葉柄には見えなかったが、言われた本人がソレで納得してるならソレで良いかと、また言葉を飲み込んでおくことにした。


「それで、わざわざ放課後にやってきたってことは、それをどうにかして欲しいってお願いしにきたのか?」

「え? ううん。だって水月くん、私のことなんか助けてくれないでしょ」


 昨日その辺のことを話したばかりなのにもう忘れてるのか、それとも話したからこそ大丈夫と思ってやってきたのか……なんて勘繰りながらの言葉だったのだが、灯はあっさりとその通りな否定をした。


「ストーカー的な問題を同じ女の子の凍梨さんには頼めないし、そもそも学校内で見られてるだけなのにストーカーって呼ぶのもおかしい気もするしね」

「何より、今はクラスメイトに注目されても仕方がねぇ立場だしな」

「それはそうなんだけど……」

「あん?」


 妙に歯切れが悪く、葉柄もつい先を促してしまった。


「……でも、なんかその感じる視線、妙にネチっこいって言うか……質が違うの」

「質だぁ?」

「気のせいかもしれないんだけど……教室にいるときに感じる視線って、興味とか監視とか、そんな感じばっかりなんだけど……その中に紛れて向けてくる、その見られてるって感じる視線だけは、そのどれでもないって言うか……」

「質が違う……ねぇ……。んで、結局なんでその話をしに来たんだ? 俺にも頼らずゆかりにも頼らない。わざわざこんな場所まで来た理由が分からねぇままなんだけど」

「いや~……ただ話したかっただけなんだ。実は」

「話したかっただけ?」

「うん。実はこれから、昨日送った小学生と会う約束しててね。イジメなのか忘れられたのか、今日学校で確かめて来て教えてくれるって約束しててさ。で、そのまま相談に乗ることになるかもしれないから、自分の不安を少しでも晴らしておきたくて」


 なるほどそれで俺、か。

 少しでも話せば気が楽になる。

 そこで話せるのが俺しかいなかった。

 だから俺を選んでここに足を運んだ。


 そんなところだろう、と葉柄はあたりをつけた。


 そしてそれは事実で、灯はかなり悩んだ上で、葉柄の元へと足を運んでいた。昨日多少話した程度の、友達じゃなけりゃ助けないと公言している葉柄

に話しに行くべきか否かで。

 それでもわざわざ話しかけに行った。そこまでしてあの小学生のためになりたかったのだ。

 もしかしたらイジメられていなくて、こんなことをしていなくても構わなかったかもしれないけれどそれでも、と考えて。


「じゃあ~、もう用事は終わったってことだよね~?」

「うん」

「で、気は紛れたのか?」

「ん~……どうだろ?」


 ゆかりの質問にはあっさりと答えられたのに、葉柄の質問には歯に物詰まった答えを返してきた。


「でも、あの子の前でヘコたれない自信はついたかな。うんっ」


 自分に言い聞かせるようなその言葉と内容は、全く不安が晴らされていないことを物語っている。


「そっか~……じゃあ急がないとダメなんじゃない? 約束の時間が何時なのかは分からないけど~」


 ゆかりだってそのことには気付いているだろうに、さっさと灯を帰らせようとする。


「あ、うん。そうだね。ありがとっ。凍梨さん」

「ううん~。気をつけてね~」

「それじゃあ、また明日。水月くんも! 明日はちゃんと真面目に授業受けてよ?」

「あ~……はいはい。後ろ向きに検討しとくよ」

「検討する気ないじゃん!」


 何が面白いのか、力強くツッコんだ後楽しそうに笑い声を上げながら、灯は駆け足でさっさと教室を出て行った。

 一応、笑える程度には懸念が無くなったのだろう。

 元気良く出入口へと向かったのにゆっくりと戸を閉めるというその所作に、さり気なく二人に育ちの良さを感じさせた。

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