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放課後買い物(非)デート記録(1)

 嫌いなヤツの正しい部分を見つけたとして、その部分だけを認めることが出来るのかと聞かれると、葉柄は無理だと答える。

 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。

 葉柄はまさにそのタイプだった。


 だが彼と共に行動し、彼を何度も殺すほど仲の良いゆかりは、ちゃんと相手を認めようと努力する。

 それを彼は、純粋にスゴイと思っていた。

 同時に、自分には真似出来ないな、とも。


 だからといって、彼は何も灯のことが大嫌いというわけでもない。

 ちょっと――いやかなり鬱陶しいな、と思っている程度だ。



 だから目の前を、子供用のマウンテンバイクを押している小学生と並んで歩くのが見えたとしても、無視して見なかったことにして立ち去ることが出来なかった。



「…………」


 いつもしている勉強を終え、解散し、いつも通り晩御飯の買い物へと向かう途中の道で見かけたその光景。

 車がよく通るのに信号がない十字路を、二人で渡っていた。


 灯は葉柄に見られていることに気付いていない。

 結構な距離があるし、葉柄も横顔を見ただけだし、当然と言えば当然だった。


 その遠くから見えた横顔は、小学生と何やら楽しそうに話しているように見えた。

 学校では一度たりとて見せたことも無い表情。


「~~~~~~~~~~」

「~~~~~~~~! ~~~~~~~~~~~っ!!」


 珍しかったせいなのか、それとも今日みたいな出来事があったせいなのか。

 なんとなく、その後をコッソリとついていってしまう。


 辿り着いたのは、とある住宅の一階。

 その駐輪場の出入り口付近で、灯は子供と手を振り別れた。


 元気一杯に手を振る子供と、優しく手を振り返す灯。

 そこには、いつも学校で見せている刺々しい雰囲気は無い。


「あ」


 やっぱりあのクラスに正義感の塊である彼女は合わないんだな、なんて素の彼女を見て思っている間に、振り返ることで後をつけていた葉柄に気付いた灯が、驚きの目と声で彼を射抜いた。


「…………」

「…………」


 六時限目の出来事が尾を引いているのか。気まずそうに視線を逸らす灯。

 対して葉柄は気にした様子もなく、真っ直ぐ彼女へと歩み寄る。

 とはいえ、話しかけるつもりは毛頭無い。

 ここで方向を変えようものなら自分も意識していることになるからと、そのまま素通りして目的地であるスーパーへと向かおうとしているだけだ。


「……ちょっと! 水月くんっ!」


 ガードレールを挟んだ真横の道路を通り過ぎる、大きな車の音に負けない声。

 既にすれ違い、互いに背を向け合っていたはずなのに今更、と思いながらも、名前を呼ばれて無視するとやっぱり意識してしまっていることになるなと思い、うんざりしながらも振り返った。


「……あ、あなた……!」


 遠目でも分かるぐらい、学校指定の通学カバンを握る手が震えている。

 制服の裾を指先でイジイジとしている。

 その態度に、何やら躊躇いの色が見て取れた。


「そ、その……今日のアレ! どうして彼を助けてあげなかったの!?」

「……なんだお前」

「な、何がっ!?」

「わざわざそんなこと聞くために引き止めたのかよ」

「わ、悪いの!?」

「悪くは無いがお前……互いに立ち去ろうとしたところで引きとめられりゃ、普通告白かと思うだろ」

「こ、こくは……! ってなんでそうなるのよ! 私がアンタに惚れる要素なんて無かったじゃん!」

「注意しているうちに惚れたのかと思って」

「んなこと断じてないっ!」

「まぁ、そうか。そうなったらお前、クラスメイトのほとんどのヤツが好きだってことになるしな。……お前最悪な女だなっ……!」

「なんでいつの間にか私がそういう人間だってことになってんのよ! アンタの勘違いでしょっ!」

「勘違いか……確かに俺に惚れてるってのは勘違いだったな」

「違う! ……いや違ってない!」

「お前、クラスメイト全員が好きなんだもんな」

「それこそ違う! そんなキャラ付けしないでっ!」

「え? お前、好きでもねぇヤツをわざわざ注意してんのかよ……それもそれでおかしいだろ」

「いつの間に恋愛関係の話じゃなくなってたのよ!」

「最初から」

「だったら告白の件はなんだった!」

「友達になろう、的な意味かと。ま、俺はクラスの連中九割方嫌いなんだけどなっ」

「んなこと自慢げに言うなっ!」


 と、本題に入る前の導入だったのが躊躇いの色から読み取れていたので、面倒事はゴメンだと巧みに誤魔化しきれたところで、葉柄は早々に立ち去る態度を見せた。


「悪かったっての。んじゃまぁ、俺これから家の買い物でスーパーに用事があるから。そのへんの話はまた今度ってことで」


 家族に頼まれた急ぎ用事がある態度を見せれば、向こうも無理には引き止めてこないだろう。


 そう決め付けての行動だったのだが――


「あっ……待って!」

「あん? なんだよ」

「ちょっと……聞きたいことがあるの。……ついて行っても良い?」


 葉柄もまさか、そんなことを言われるとは思いもしなかった。

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