おいしくてまずい
非常にまずい。何がまずいってこれはまずいよ……
今僕の右腕には柔らかな感触の何かがくっついている。そしてとろけた表情をした女性の顔もすぐ近くに。どうしてこうなったんだ?
柚月さんに連れていかれた店で今まで味わったことがないほど美味いパスタを口にした僕は驚いて必死に味の内容を伝えようとした。慌てすぎて何を言っているか自分でもわからなかった。柚月さんに笑われてしまったのだが、今考えてみると柚月さんは一度食べたことがあるのだから味の詳細を伝える必要はなかったじゃないか。それにしても美人が何かを食べているところは素晴らしい。ついつい見とれてしまう。
「もう、そんなに見られたら食べにくいよー。」
急いで目をそらす。また笑われた。少しずつ思い始めたが意外とこの姉妹は似ている。笑った顔なんかそっくりだし、打ち解けてきたからかだんだん饒舌になってきたような気がする。
店を出て帰宅、僕の家で仕込みをして4人の自己紹介やら雑談やらで盛り上がり昼を過ごした。夕飯を食べるころにはみんなが幼馴染であるかのように親しくなっていた。
陽菜が眠たいというので今日は泊めてやることにした。柚月さんと一つ屋根の下!なんて考えていたが同じ部屋であるわけがないのでたいして変わらないことに気が付いた。
そしてさっき目が覚めてしまった僕がトイレに行こうと階段を下りていることに気が付く。だんだん思い出してきた。酒盛りをしていた姉と柚月さんがそこにはいた。まあ姉はすでに撃沈していたが。
「姉さん部屋に運んで来ますね。」
と断りお姫様抱っこをして部屋に連れていきベッドに寝かせる。すっかり眠気が覚めてしまったので柚月さんとお話をしながら二人でテレビを見ていたが、なんだろう。柚月さんの様子がおかしい。気づいた瞬間抱きつかれる。
「しゅーくーん、私のこと好き?」
なんだこれ。何が起こっているんだ?いや、わかりきっている。この酔っぱらいめ。しかしどうしたものか。自分としてはこの抱き付かれているという素晴らしい状況を維持したいと思うのだが、どう考えても正気でいられるとは思えない。
「ねぇ聞いてるの? 答えてよ!」
何でこの人はこんなに怒っているんだ……まぁどうせ明日になれば忘れてるだろうし、言ってしまおう。
「聞いてますよ、僕は柚月さんのこと大好きです。」
「ほんとっ!? わたしもしゅーくんだいすきだよぉ!」
首がっ! 苦しいっ! 抱き付きというか締め付けじゃないか!
「うっ……」