初デート
土曜日、5日間の学校という苦行を終え、待ちわびていた休日がやってくる。
そして今日は柚月さんとデート、もといお買い物である。行先は僕たちの家から少し離れたところにある大型ショッピングモールだ。柚月さんが車を出してくれるらしく、楽しみである。
余所行きの服に身を包み、髪も入念にセットして、腕には前に陽菜にもらったバングルまでつけている。いつものお洒落気合い度を1とすると今日は20ぐらいだ。
玄関のチャイムが鳴る。僕は急いでドアを開けて挨拶をする。
「おはようございます、柚月さん。」
「おはよう、秀くん。」
あぁ、なんて美しいのだろう。朝日に照らされた白く輝く肌はまるで、名前にもあるような月の光のようである。それに加え今日は一段と化粧がしっかりと施されていて、柚月さんの美麗な容姿を際立たせている。さらに言えば黒タイツ。すらりと伸びた長い足をアピールするかのように黒いその生地が僕の目と心をひきつける。
なんてことを考えながら僕はかわいらしい軽自動車の助手席に乗せてもらう。車の中には花や小動物を模した小物や芳香剤が置いてあり、いかにも女性らしい感じ。
移動中少し気になっていたことを聞いてみた。
「そういえば柚月さんは誕生日っていつごろなんですか?」
「私? 私はねー、11月の23日。勤労感謝の日だねー。」
「近いですね。もう一か月もないじゃないですか。」
「そうだねー。この年ぐらいになると誕生日が来るのが怖いのよねぇ。」
「またまた、まだ充分若いじゃないですか。」
「秀くんはいい子だね、モテるぞー。」
優しい笑顔で僕の頭をなでる柚月さん。嬉しい反面、子ども扱いされている気がしてなんだか嫌だった。
ショッピングモールにはいって最初に
「ちょっと寄りたいところがあるんですけどいいですか?」
と聞いておく。二つ返事でOKをくれたので、さっそくそこに向かうことにしよう。
ついた場所は書店だ。僕はもちろん柚月さんも目を輝かせて奥に進む。僕は柚月さんの目を盗んでこの書店の目玉、栞コーナーでキョロキョロしていた。
「好きな作家、これは読んだ、こうだった、これおもしろそう!」という会話ができるだけですごくうれしい。自分の趣味について語り合える友人ができたこともだが、柚月さんと好きなものを共有している。そう感じるだけで僕の心は高揚感と満足感で満ち溢れる。
今度は柚月さんに連れられて服を見ている。過去に「私の買い物が長いんじゃない、女子の買い物は長いものなの!」と姉さんが言っていたがどうやら本当のようだ。しかし姉さんと彼女ではこちらの気分がまったくもって違う。「これ似合うかな?こっちのほうがいい?」なんて聞かれると困ってしまうが、着せ替え人形のように試着室で変身を繰り返す柚月さんを見ているとよだれがでそうだ。
そして買い物が終わり、
「ごめんね、荷物持ちさせちゃって……」
「全然問題ないですよ、お昼ご飯何か食べに行きましょうか?」
「そうしよっか、私のお気に入りのパスタが食べれるところに案内しよう!」
柚月さんは今日ずっとニコニコしている。楽しんでもらえているようでよかった。