1-1 「たとえばこんな話を」
例えば、こんな異世界の話をしよう。
まず、モンスターがいる。王道だ。敵がいなくちゃお話は進まない。
次に、ダンジョンがある。モンスターの住処みたいなものだ。ここに、主人公は挑んでいく。目的はなんだろう。ダンジョンにあるお宝かもしれないし、単なるスリルのためかもしれないし、あるいは、それが主人公の仕事だからかもしれない。
僕の場合は、一番最後が当てはまる。より正確に言えば、生活費のためだ。
だから僕は今日も、ダンジョンに潜っている。
ダンジョンで、殺し合いをしている。
楽しいかって?
さて、君はどう思う?
今の状況を説明するならこうだ。
僕の前には3体の鎧騎士がいる。身長は2m前後。西洋の甲冑で、兜は鳥の嘴のように尖った形だ。錆びついた鎧はぎぃぎぃと不愉快な音を立てながら僕の方へ向かってきている。
先頭を走る鎧騎士の手には錆びついた長剣。
二体目は左手に円盾、右手に斧。
三体目はなんだろうな。手ぶらだ。武器を落としたのだろうか。
そんな奴らが走って向かってきてる。
僕を殺すために。
あいつらに比べたら、不良だろうがヤクザだろうが可愛く思える。
こんな人外のやつらと毎日、毎日、嫌というほど戦うのが僕の仕事だ。それでも夢が溢れてるって?
なに、大丈夫。2日もすれば慣れるよ。そしてこう思うはずさ。
帰りたい、ってね。
僕は後ろ腰に吊り下げたホルスターから銃を抜く。もちろん普通の銃じゃない。魔法銃ってやつだ。
形式的には回転弾倉式のリヴォルバーだ。ただ、銃身は鉄板のように長方形で、厚みがある。40cm近いほどの大きさで、弾丸に込められた魔法をぶっ放せるファンタジーな存在だ。
僕はそれを片手で構える。もちろんこれだけ大きければ重さだって相当だ。けれど、僕は片手で持てる。
なぜか。
言わなくたってわかるだろう?
お約束ってやつだ。
僕の身体能力は、この世界では強化されている。
だから、でかい銃だってもてるし、反動なんて無いも同じだ。
1、2、3。
引き金を引く。銃口から魔法弾が3つ、撃ち出される。
鎧騎士の頭が吹き飛び、その場に崩れ落ちた。
いや。
一匹、避けた。
あの素手のやつだ。
驚くほどの俊敏さでステップを刻み、僕へと襲い掛かってくる。
速い。
速いが――
「遅いよ」
動きを読んで引き金を引く。
今度こそ、鎧騎士は全滅した。
その場に残る魔結晶を拾いながら、僕はため息をついた。
帰りたい。
振り返り、ドアへ向けて銃を撃つ。木片を飛び散らせながら、鎧騎士が倒れこむ。4体目、だ。
僕の日常はこの繰り返しだ。
どことも知れない異世界で、日々ダンジョンに行き、魔物を相手に銃をぶっ放し、生きるための生活費を稼ぐ。
そんなことの、繰り返し。
……どこで銃の撃ち方を学んだかって?
もちろん、ゲームセンターさ。