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ステマ 9

「おおお、押すなよ……」

 しんと静まりかえる陽も既に落ちた学校の廊下。女子陣三人に後ろから押されながら廣告は先頭立ってその廊下を行く。

 廣告、ステマ、魅甘、花梨の四人はムカデ競走のようにぴたりと貼り付いて並んでいた。お互いがお互いを押しながらかろうじて前に進む。

 廊下の外側の窓ガラスに四人の姿が映り込む。外はすっかりと暮れてしまい窓ガラスが鏡と化していた。

 教室側の灯りも消されており左右から四人の姿を挟み込み、取り込むように写し込む。廣告達が行くのは二棟ある校舎の内の一つ。専門教室の多い南棟の一階だった。

「廣告、何か出た? 何か出た?」

 廣告の背中にぴったりと貼りついたステマが恐る恐ると訊いてくる。

「そんな簡単に出てくるのかよ」

「だって……出るんなら、早く出て欲しいし……出ないんなら、出てきて欲しくないし……」

「はいはい」

「いい、吾斗。幽霊が出たら、真っ先に私達を守るのよ」

 ステマの背中にこちらもぴたりと貼りついた魅甘が何処か怒ったような口調で口を開く。

「無理してんのなら、引き返してもいいんだぞ」

「無理なんてしてないわよ! ただ、費用対効果的に早く話をつけたいだけよ!」

「ホントか? 本当は帰りたいんじゃないのか?」

「うるさい! この自慢のオデコに賭けて、私が幽霊なんて怖い訳ないわ!」

「吾斗さん、科学の意地に賭けても。こここ、ここは退けないのです」

 魅甘の背中に更にぴたりと貼りついた花梨が時折おっかなびっくり後ろを振り返りながら割って入る。花梨は両手で分厚い科学書を一分の隙もなく胸に抱きしめ、その両手を魅甘の背中にくっつけ一瞬の遅れもなくついていく。

「科学的には幽霊なんていないんだろ? 何を怖がってんだ?」

「幽霊など非科学です! 科学的にいる訳ないのです! だから私は科学的に考えて二番目に怖い最後尾を買って出たのです!」

「幽霊がいないって自信があるなら、今度から一番怖い先頭を頼むわ」

「女子が先頭だなんて、何て非科学な……」

 花梨はその吊り目の目端に涙を浮かべて抗議に頬を膨らませる。

「だから、押すなって……」

「廣告……」

「お金儲け、お金儲けの為よ……」

「非科学です……科学的にいないはずなのです……」

 四人はしばらくそれぞれ勝手に呟きながら廊下をおそるおそる進む。

 そして突如起こった物音に、

「――ッ! ヒッ!」

 四人は図ったかのようにその場で一斉に飛び上がる。

「ちょっと、廣告! おどかさないでよ!」

「俺がおどかした訳じゃないだろ? 何か教室で物音がしたんだよ!」

「あっちの教室ね。誰もいないはずの教室から、物音が……まさか本物の幽霊……」

「らららら、ラップ音なんて非科学です!」

「詳しいな、桐山。幽霊なんて非科学――」

 廣告がなんだかんだで怖がっている花梨をからかおうとかにやけて振り返ると、

「――ッ! 廣告! あっち、何か出た!」

 ステマがそんな廣告の顔を強引にひねって前方に戻した。

「いてっ!」

 ぐきっと音まで立てて前を向き直る廣告の顔。その視線の先に――

「ででででで――」

 同時に気づいていたらしき魅甘の震え声が皆の耳を震わせる。

「出たあああぁぁぁあああぁぁぁっ!」

 先の物音はドアが開いた音だったようだ。ステマ達の視線の先。そこでは教室より漏れ出た廊下より明るい光が四角く床と壁の一角を切り取っていた。

 そこからゆらりと人影が現れる。

「ひぃ……」

 魅甘がたまらず乾いた悲鳴を上げる。

 廊下の薄暗い照明を受けて現れたのは、ざんばら髪を振り乱し長い棒状のものを持った人影だった。頭頂部は剃ったように何もなく頭頂部から後部にかけて伸ばした髪が静かに揺れる。

 手に持った棒状のものは教室からの灯りを受けて凶悪な光を反射していた。

 見るからに鋭利な刃物――日本刀だ。

「ででで出たあああぁぁぁぁっ!」

「落ち武者よ!」

「ギャーッ! ごろざれるーっ!」

 そう、そのシルエットはどう見ても日本刀を掲げた落ち武者だった。

 廣告、ステマ、魅甘の順に悲鳴を上げて逃げ惑い、それぞれの背中に隠れようと同じところをぐるぐると回る。

 一人回転に取り残された花梨がおろおろと手を差し出して皆をなだめようとする。

「おおおお、落ち着くのです! 皆さん、科学的に考えて落ち着くのです! 落ち武者の科学的成分は――」

 そして落ち武者の科学的成分を想像してしまったのか、

「ふう……」

 花梨が真っ青に血の気を引かせながらステマの胸にふらりと倒れ込んだ。

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