ステマ 8
「何言っての、廣告? 『幽霊』だよ? 『騒ぎ』だよ? これぞ火のないところに煙を立たせる炎上マーケティング!」
ステマがぷぅっと頬を炎上よろしく赤く膨らませながら振り返る。日の落ちた校舎の前でそこだけはまだ夕日が残っていたかのようだ。
「『炎上』? 何だって?」
廣告はあいかわらずのげんなり顔で聞き返した。
「どんな内容でも、注目を集めれば勝ちってことよ、吾斗」
「非科学なのです」
魅甘と花梨がそれぞれの意見を述べると、
「分かった、分かった! よし、行くぞ!」
その意見から逃れるように廣告は肩をすくめて校舎にあらためて顔を向ける。
「行くよ! ほにょぽろーん!」
「ふふん! 待ってなさい幽霊騒ぎ! 炎上上等よ!」
「非科学です。それを証明する為に行きましょう」
その廣告のかけ声に女子陣が応えた。
「……」
「……」
「……」
「……」
だがその威勢の勇ましさとは裏腹に四人の足は一歩も前に出ない。
「早く行きなさいよ、廣告」
「言い出しっぺはお前だろ、ステマ。何で俺が先頭なんだ?」
「あんたが先に行きなさいよ。飛び込みは営業の仕事でしょ、吾斗?」
「何だよ、香川? 幽霊買収するって、さっきまでの意気込みはどうした?」
「最初から金額提示するなんて、何てバカな交渉術なの? まずは相手の様子を営業が探ってきなさいよ」
「あのな……てか、桐山も顔が青いぞ? 大丈夫か?」
「ゆゆゆ、ゆーれーい――なんて、ひひひひかーがくーです……」
「発音がなんだか非科学だぞ、桐山――」
廣告があきれてそう告げると、
にゃあ――
「きゃあああああぁぁぁぁぁっ!」
唐突に四人の前に現れ横切っていった黒猫に女子陣が悲鳴を上げた。
「ああああんたが行きなさいよ、廣告。男でしょ?」
廣告の背中にステマ達女子生徒三人がとっさに隠れる。
「何で、こんな時だけ男性優位なんだよ! 俺だって夜の学校は怖いわ!」
「むむ! 中学まで剣道部だったでしょ? 今も道場は通ってんでしょ!」
「誰かに無理矢理購買部に入れられたおかげで、全く怠け気味だがな!」
「むむむむ! お前は俺が守ってやる――って言ってたあの言葉嘘だったの?」
「そんな台詞吐いたことねえよ!」
「あれ? そうだっけ?」
ステマが心底不思議そうに首をひねった。
「桐山! 幽霊なんて非科学なことあり得ないんだろ? おまえまで、何で後ろに隠れてんだよ!」
そのステマの様子に気づかなかったのか、皆と同じく己の背中に隠れる花梨に廣告が振り返る。
「か弱い女子に幽霊に向かって行かせようだなんて――ひひひ、非科学です」
「やっぱお前も怖えのかよ!」
「吾斗。早く行きなさいよ。営業でしょ?」
「営業関係あんのかよ! 何でも営業にまわせばいいって思ってんだろ?」
「営業と書いて、雑用と読む」
「読まねえよ!」
「仕方ないわね、ステマちゃん!」
「何、魅甘ちゃん?」
「じっと吾斗の目を見て、お願いしてみて」
「な……香川! てめえ!」
「分かった! 廣告、お・ね・が・い」
ステマが目を輝かせて廣告の目を見る。その後ろで魅甘の眼鏡と花梨の吊り目が続いた。
「ぐぬぬ……」
女子陣の――特にステマの目が廣告の目を真っ直ぐ射抜く。
「分かった! 分かった! 俺が先頭でいきゃあいんいだろ? いきゃあ!」
廣告が怒ったように肩を怒らせて先に校舎へと向かっていく。
「流石、廣告! 単純!」
「いわゆるプレゼント需要を掘り起こす為には、女性の男性へのおねだりが今も昔も有効なのよね」
「非科学ですね」
「うるせぇっ! とっととついてこい!」
女子陣にヤケになったように一度だけ振り返ってそう告げると、
「ヤラセでも、仕込みでも、本物でも! 何でもきやがれ!」
廣告は夜の校舎のドアを勢いよく開いた。