ステマ 7
「ほにょぽろーん! さて、今夜の大人気放課後放送番組『さよなら、残高! また来て、所得!』の時間は――ななな、何と! 我が屋良堰田高校に幽霊が出るとの情報を得て! 緊急レポートを行っちゃいます!」
短いスカートの裾を翻し、その下に覗く白い太ももに『広告募集中』の文字を踊らせて桜ステマが夜の校舎に元気な声を響かせた。おもちゃにしか見えないハンドマイク片手にステマはその場で飛び跳ねまでしてみせた。
おおよその生徒が下校したとおぼしき夜の屋良堰田高校。校門こそは閉じられていないがもう生徒が帰るべき時間だ。その蛍光灯だけが静かに煌煌と輝く校舎のたたずまいがそう物語っていた。
「怖いですね! 夜の学校! ホントに出るんでしょうか? 噂の幽霊!」
はしゃぐステマの横ではげんなりとした顔付きの吾斗廣告が肩を落として立ち、その後ろには女子生徒が一人乏しい明かりにオデコと眼鏡を光らせていた。オデコと眼鏡を光らせたのは勿論購買部の金庫番の香川魅甘だ。
そして見慣れない背の低い全体的に幼さの残る女子生徒がもう一人その脇に立っていた。
ステマはその女子生徒に手を広げて誰もいない方向に向かって紹介を始める。
「今日は助っ人に科学部のエース! 桐山花梨さんにきていただきました! 花梨ちゃん! ほにょぽろーん!」
「どうも。ほにょぽろーん……です」
その女子生徒は少々きつい吊り目をした背の低い少女だった。花梨と呼ばれた少女の吊り目は科学の為に吊り上がっているらしい。
手に余る大きさの分厚い科学書を右手に握りしめ、花梨は制服の上から白衣を羽織っていた。いかにも科学少女という姿で花梨は科学的使命感に燃える吊り目を薄やみに向ける。
「桐山だって? クラスメートで科学部のか? ステマ、お前な。他人巻き込むなよ」
「むむ。花梨ちゃんが来たいって言ったんだもん!」
「ホントか、桐山? 断ってよかったんだぞ?」
「いえ。幽霊なんて非科学なこと。もとより学内で噂になってるだけでおぞましいのです。私が絶対に科学的に否定してみせるのです。おそらくただの原子番号15番。元素記号Pのリンか何かが燃えてるだけなのです。ぜひ連れて行って下さい。私が解き明かします」
花梨はその吊り目の目を内なる情熱のままにそれこそ燐火のように燃やした。
「ほらね!」
ステマが満面の笑みでウィンクまでしてみせた。
「吾斗。さっきからうるさい。お金の匂いがするだから、とっとに行くわよ」
廣告の後ろからずいっと魅甘が姿を現す。魅甘は陽もすっかり落ちたはずの校庭で、どこを光源にしたのかオデコと眼鏡を光らせた。
「お前はやっぱり金か、香川? 他の部の部員まで引っぱり出して!」
「何を言ってるの、吾斗! お金だけじゃないわよ! 話は聞いたわよ! 我が購買部の廃部の危機じゃない! この危機を乗り越えないと、お金儲けできないでしょ!」
「やっぱ、お金か! それにしても、何で科学部の桐山まで呼ぶ必要があるんだよ?」
「はぁ? 決まってんでしょ! 何とかクリニックの先生の話とか。どこぞの大学教授の意見とか。科学者のそれっぽいコメントがある方が、視聴者が信用するってもんでしょ? 当たり前じゃない」
「流石魅甘ちゃん!」
「お前には、良心の呵責というものがないのか!」
「お客様に『払った対価以上のお得感を感じてもらう』――それが私の良心です!」
「何だと?」
「あくまで『お得感』で『お得』ではないけどね……」
オデコと眼鏡を怪しく光らせ魅甘が陰気に笑う。
「それはつまり、魅甘。ぼったくりに気づかせないってことだな……」
「ふふん。そうとも言うわね。さあ、幽霊なんて原価ゼロ案件! 逃すって手はないわ! 行くわよ、皆!」
魅甘がびしっと夜の校舎を指差した。
「香川! お前ももっと怖がれよ!」
「はあ? 利子以外に何を私が怖がるってのよ。本当に幽霊がいるんなら、いい観光名所になるわ。購買部で夜の肝試しツアーとか企画したら客を呼べるわよ。購買部の新たな収入源ゲットよ。軍資金もほら! 購買部の仕入れ予算からぶんどってきたわ!」
魅甘が手に持っていた学生鞄を開いてその中に手を突っ込んだ。魅甘はそこから高々と手を挙げると、その手のひらの中で帯封できっちりとまとめられた札束が一つ揺れる。
「おわわっ! 何つう大金持ち歩いてんだ、香川!」
「すごい、魅甘ちゃん!」
「幽霊に買収予算なんて、非科学なのです」
廣告とステマが驚きに声を上げ、花梨が侮蔑するようにその吊り目の目を光らせた。
「別に。帰りに夜間金庫に入れるつもりで、売り上げ持ってきただけよ。幽霊なんて本気で買収できるなんて思ってないわよ」
魅甘が自慢げに札束をはじいてみせる。
「むむ! でも、やる気は満々だよね、魅甘ちゃん?」
「当たり前よ! 幽霊だなんて、こんな注目を浴びるイベント見逃す手はないわ!」
「ねぇー」
「ねぇー」
ステマと魅甘が最後に嬉しそうに声を合わせて喜色を上げ、
「お前ら、どんなけやる気なんだよ?」
その様子に廣告はげんなりと肩を落とした。




