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ステマ 47

「ええっ! 一国を治める程の幻の金属が! ででで、でも、おおお、お高いんでしょ? 花梨さん!」

「……」

 魅甘には応えず花梨がポケットから何やら容器を取り出した。

「それ、何かで見たな?」

「そうです、吾斗くん。これが神輿先生が最後の一つと言っていたもの……水酸化ナトリウム――いわゆる苛性ソーダなのです」

 花梨が廣告に答えてポケットから取り出した容器を皆に見せる。そこには『苛性ソーダ(水酸化ナトリウム99%)』と書かれていた。

「苛性ソーダ? それって、換気扇掃除した時のだよな? そんな身近なものでいいのか? 幻の金属の材料だろ?」

「科学は身近なものなのです。それはさておき……先生が何の変哲もない茶色い土塊と呼んだこの鉱物……苛性ソーダ、氷晶石……何よりステマさんの魔力……なるほど……魔力ありきだとすると、多少過程は科学的でなくとも……」

 花梨は尚も一人でぶつぶつと呟くと神輿が持っていた茶色い鉱物を地面に置いた。そして花梨は己が氷晶石と呼んだ石と、苛性ソーダの袋の中身を地面にぶちまけこんもりと山を作る。

 花梨はそのまま思案げにうなづくとステマに振り向く。

「ほにょぽろーんをお願いなのです」

「へっ? いいけど。ほにょぽろーん」

 ステマが軽く呪文を唱えると小さな電撃がその指先からほとばしった。

 ステマの電撃は電力と魔力の光が入り交じっていた。その不思議な輝きの向こうに花梨が並べた物質が見えなくなる。

「で、どうなるの? 花梨ちゃん? やっぱり伝説の金属――羽のように軽く、その金属で作った王冠に永遠の輝きをもたらすという幻の金属に……」

 ステマがその光に目を輝かせながら花梨に訊く。

「私の推論が正しければ……」

 光がやがて収まりそこには一塊の金属の固まりが転がっていた。

 その転がり方は確かにそれが金属にしては軽い印象をもたらした。グラウンドの砂地にすぐには埋まらず軽く跳ね上がりながら転がる。

 そしてその表面は今まさに沈みゆく夕日の光を受けて光を反射しまばゆいばかりに輝いていた。

 最初の魔力の光が収まると、赤い陽光を跳ね返す金属の光が一条――ステマ達の目を貫いた。

「おお……」

 皆がその輝きに感嘆に息を呑み込んだ。

「それは、僕の力を約束してくれる金属だ……」

 神輿が力を振り絞るように顔を上げた。その目は魔力で出現した光り輝く金属に吸い込まれるように一点を見つめて動かない。

「ええ。ステマリン王国に伝わる金属です。とっても軽く光輝く金属――」

 神輿の取り憑かれたような目の色とは対照的に、花梨は興味をなくしたように鼻から空気を抜いた。

 花梨はその羽のように軽い永遠の輝きを持つという金属を地面から持ち上げると廣告に向かって放り投げる。

「おい! 桐山! 幻の金属を――」

 己の胸元に飛んできた伝説の金属。廣告はそれを受け取ろうと手を伸ばすが、二、三度お手玉をしながら手の中で弾いてしまう。

「アルミニウムが出来上がります」

「ア、アルミだ?」

 結局廣告はその金属を受け取り損なって地面に落としてしまった。

 アルミだと言われたその金属は軽い音を地面に立てて転がる。

「ええ、なんだか色々な科学的生成過程を、魔力で飛ばしたのが非科学で納得いかないのです。でも確かに、原子番号13。元素記号Al。アルミニウムです。神輿先生が持っていたの茶色い土塊は、実際はアルミの原材料のボーキサイトだったのです。これに家庭科室の換気扇の洗浄に使った苛性ソーダ――水酸化ナトリウムで処理をしてアルミナ――酸化アルミニウムを取り出すのです。そして科学準備室から盗まれたのが、氷晶石――ヘキサフルオロアルミン酸ナトリウム。アルミナと氷晶石を溶融して電気分解するとアルミニウムが生成できます。これが一般的なホール・エルー法でのアルミニウムの生産方法なのです。最後の電気分解には、大量の電気が要ります。一、三〇〇〇〜一、四〇〇〇キロワット毎時の電力。それが最後の鍵。ステマさんのほにょぽろーん――雷なのです」

「ア、アルミ……」

 神輿が伏したまま顔だけ上げて花梨に目を向ける。その目は驚愕に見開かれ現実を受け入れないかのように神経質に痙攣していた。

「軽いのも当たり前。光輝くのも表面にできる酸化膜のおかげで錆びないからです。まあ、確かに科学技術の発達していない異世界なら、奪い合いにもなるかもです。少なくともこちらの世界では、むしろポイ捨て禁止を呼びかけるほどの身近な金属です」

 花梨がもう一度幻の金属を地面から拾い上げた。花梨はそのままぽいっとステマに向かってその金属を投げた。

「花梨ちゃん! 幻の金属、ポイ捨て禁止!」

「何だと……」

 神輿が己が追い求めてきた金属が軽く扱われる様子に呆然と目を向ける。

「何だ? じゃあ、ステマリン王国は、アルミの奪い合いで王座の簒奪騒ぎがあったてか?」

「そうなるのです」

「俺達の故郷は、そんな馬鹿げたことで滅んだってのか?」

「むむ。滅んではないわよ、廣告」

 ステマがぷっと頬を膨らませる。

「似たようなもんだろ」

「とにかく、あれね。確かにその地域にとってありふれたものでも、他所の地域では希少なものってのはあるわ。ましてや科学的に生成しないと手に貼入らない物質なら、伝説の金属って言われても仕方ないわね」

「だが、たかがアルミだぞ、香川?」

「その『たかがアルミ』を向こうに持っていけば、大儲けよ」

「常時道が開いちゃ、あっという間に暴落だろうよ」

「むっ……それもそうね……スタートダッシュと、適正量が肝心ね……」

「いや、そこは素直にあきらめろよ、香川」

「僕は……僕は! ただのアルミに踊らされていたのか?」

 神輿が伸ばした手でグラウンドの土をぎりりと鷲掴みにした。両の手の指でつけられたグラウンドのいびつな溝。それがまるで神輿の歪んだ心の傷のように深く刻まれる。

「そうみたいですね、先生」

 ステマが厳しい目で神輿を見下ろすと、

「うおおおぉぉぉぉっ!」

 神輿の絶叫がいつまでも陽も完全に落ちたグラウンドに響き渡った。

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