ステマ 46
「うおおっ! ステマちゃん! 最高!」
「最高のライブだったよ!」
「キャーッ! ステマ王女! 可愛い!」
神輿が倒れと同時に遠くでステマを応援していた生徒達が我先にと走り出し駆け寄って来た。
夕焼けがグラウンドを既に覆っていた。生徒達は長い影を引き連れてステマ達のもとへと駆け寄ってくる。
「ライブじゃねえっての……」
そんな生徒達に廣告が緊張から解き放たれた安堵感からかほっと息を漏らして呟く。
「あは……ごめんなさい、皆……こんなことに巻き込んで……皆、怪我ない?」
生徒はあっという間にステマを取り巻いた。皆にもみくちゃにされながらステマはまずは生徒達の怪我を心配する。
「あなたこそ、ぼろぼろじゃない?」
一途がそんなステマの頭を撫でた。
「ちょっと投げ飛ばされて、肩を蹴られただけだよ。一途ちゃんの髪も人のこと言えないよ」
「あら、そう? たまにはぼさぼさもいいんじゃない? 真っ直ぐすぎて利用されちゃったしね」
一途が魔力の余波で千々に乱れてしまった髪を撫でる。手櫛に一途の長い髪が絡まりそのままでは真っ直ぐになりそうにないのが見て取れた。
「神輿のヤツ! ステマちゃんはアイドルなのよ! 人気商売なのよ! 顔に傷でもついたらどうしてくれたのよ!」
魅甘が未だ転がる神輿にオデコと眼鏡を光らせた。
「もし顔に傷でもつけていたら、億単位の損害賠償を請求してやるわ」
「まあまあ、魅甘ちゃん」
「お怪我ですか? 『科学的救護班』到着なのです。希ヨードチンキでも、過酸化水素水でも、マーキュロクロム液でも。好きな消毒液を選ぶのです」
花梨がいつの間にか救急箱を片手に抱えるように持っていた。花梨が救急箱の蓋を開けそこにずらり並んだ医薬品をステマにずいっと差し出した。花梨がその特徴的な吊り目の目をきらきらと輝かせる。どうもその救急箱の中の医薬品の品揃えが自慢で仕方がないらしい。
「あ、ありがとう……花梨ちゃん……でも、後でね……」
「とにかく、よかったな……ステマ……」
最後に廣告が日本刀の鞘を拾いながらステマに呼びかける。
「廣告……」
「そんな顔すんなって……とにかく全部無事なんだから……いつもみたいに、能天気に笑ってろよ……」
廣告が日本刀を鞘に戻す。
「うん……ほにょぽろーん……」
ステマが自然と呟くと、
「おわっ!」
廣告の足下目がけて小さな雷が落ちていった。
「あれ?」
「おいおい。電撃自由自在かよ、恐ろしいな」
「うーん。困ったね、これからどうしよう……」
「それは、こいつの方だろ?」
廣告が神輿を見下ろした。
「ステマ王女……」
誰よりもぼろぼろになった神輿がそれでも立ち上がろうと手をグラウンドに着いた。
だが少しよろよろと手を着いただけですぐに地面に突っ伏した。
その神輿の懐から透明な石と茶色い土塊がこぼれ落ちて来る。
「なるほど、確かに……これはこちらの世界でも〝永遠に溶けない氷〟と呼ばれる鉱石――氷晶石です。しかもこれは、この間科学準備室から盗まれたものです。神輿先生、確かに返していただきましたのです」
花梨が身を屈め転がってきた透明な鉱石を手に取りうなづいた。
「『永遠に溶けない氷』? まままま、まさかそれって! 伝説の金属――その原材料と、ステマちゃんの魔力が揃ったってことよね!」
花梨の呟きに魅甘がオデコと眼鏡を喜色に光らせて反応した。
この時ばかりは割れた眼鏡の乱反射する光が魅甘のぎらりと光る心根を表したかのようだった。
「一つ足らないらしいぞ、香川」
「ああ、お金でどうにかならないの! それぐらい予算出すわよ! 何てたって、幻の金属なのよ!」
「それは……僕のものだ……」
神輿が絞り出すようにうめいた。
「科学部の鉱石なのです。本当は氷でも何でもありませんけど。これは確かにそうとも言われる氷晶石なのです。それと神輿先生が異世界から持って来たこの鉱物……」
花梨が黙って茶色い方の土の塊も手に取った。
「花梨ちゃん……」
「桐山、何だよ? ひょっとして、どうにかなるのか?」
「ホント、花梨さん!」
「ええ。この茶色の鉱物を私のアレで処理……できたものを氷晶石と共に溶融すれば……なるほど……ステマさんの王族の力があれば、神輿先生の言う幻の金属が出来上がるはずなのです……」
花梨は最後はぶつぶつと自分に確認するように呟くと、白衣のポケットからプラスチックの容器を取り出した。




