ステマ 45
「ほにょぽろーん! ほにょぽろーん! ほにょぽろーん!」
「ほにょぽろーん! ほにょぽろーん! ほにょぽろーん!」
「ほにょぽろーん! ほにょぽろーん! ほにょぽろーん!」
今や声は和して大合唱となっていた。
「これは? ――ッ! これは! まさか――」
神輿が焦ったように首を巡らした。神輿の顔から余裕の表情が消え見る見ると青白くなっていいく。
「何故だ……魔力か高まっていく……魔力を持たない人間でも、これだけの数の人間が一度に同じ呪文を唱えれば……魔力が発揮できるということか……」
神輿はステマの奇妙な挨拶を繰り返す生徒達を睨みつけるように見回した。
だがそんな威嚇にステマの奇妙な挨拶を唱える渦は止まらない。
言葉は本当に渦になっていた。言葉が魔力を呼んだかのステマと廣告を中心として渦を巻く風が巻き起こっていた。
「いや! 確かに魔力が集まっていく! 皆が皆、同じ言葉を唱え! ありもしない、魔力を高めていく! これではまるで……ステマではないか!」
「……」
ステマは廣告に後ろから肩を抱かれしっかりと支えてもらいながら静かに目をつむっていた。
「そうか! ステマか! 貴様! ステマ王女! ステマを仕込んでいたな!」
「……」
ステマは神輿に応えない。
だが神輿は全てを悟ったようだ。
「これは言わば――ステルスマジック! ステマ! 謀ったな、ステマ王女!」
神輿が目を剥いた。見開いたまぶたが恐怖と憎悪が入り交じっていびつに痙攣する。
「……」
ステマは神輿に応えなかった。廣告に支えられステマは穏やかなまでの表情でその風を身に受けていた。
「ほにょぽろーん! ほにょぽろーん! ほにょぽろーん!」
同じ言葉を声を一にして、皆が声の限り叫んでいた。声は空気を震わせ大地を揺るがすように周囲に広がっていく。それでいながら渦を巻いて魔力がステマに向かって集まっていく。
「く……皆に、広く告げられていく……口の端に上がっていく……」
神輿の周囲を見回す目に怯えの色が浮かび始めた。
「微量な魔力が、貴様に集まっていく! 貴様に力を与える! そういうことか! ステマ王女!」
空気の流れが目に見えてステマに向かって流れている。神輿にはその中の魔力の流れが見えるようだ。神輿は歯ぎしりをしながらその様子を呆然と見守った。
「……」
ステマは黙って皆の言葉に耳を傾け身を任せていた。見えない魔力がステマに近づいて来るに連れて集まり光り出した。光の小さな塊が更に合流して大きな光の玉と鳴りステマに向かって集まってくる。
「そうだ……それに思い出したぞ! 『ほにょ』は『顔を見上げる』の意味――名詞に転じて『天』を意味する古語! 『ぽろーん』は同じく『落下』の古語……『天が落ちる』……すなわちこれは……これは――」
神輿が怯えた目で空を見上げた。夕闇迫るその空に先ほどまでなかった曇天の雲が沸き上がっている。そしてそこから落ちて来るであろうものに、神輿がおののき震えあがった。
「雷の魔法! ステマ! 貴様、まさか――」
神輿の目が張り裂けんばかりに見開かれた。
「電撃のステマを仕込んでいたな!」
「――ッ!」
ステマが目を見開いた。
ぼろぼろのステマが、傷だらけの廣告が、互いの目の奥の光を覗き込んでうなづいた。
力強い視線のままに二人は前に向き直る。
「く……」
神輿がそのあまりの気迫に一歩後ろに身を退いた。
そして神輿の目を射抜く鋭い眼光を瞳から放ち、ステマと廣告がその魔法を解き放った。
「ほにょぽろーん!」
二人の声が和し空に向かって響き渡った。同時に全天を覆う閃光が走しる。
そこから一条の光が天から落ちてきた。
落雷だ。
「――ッ!」
神輿の全身を雷が貫いた。魔力を帯びたその電撃は神輿の全身を痙攣させ頭上から足下に向かって駆け抜ける。
「――ッ! おのれ! ステマ! 吾斗! またしても……またしても、お前達が!」
神輿の怨嗟の声が絶叫とともに辺りに轟いた。
神輿は電流のダメージそのものは己の魔力で防いだようだ。だが魔力を帯びたその雷は神輿の精神と魔術的な中枢を焼いたようだ。
先に田中の魔力で吹き飛んだ生徒達のように神輿の体から力の芯のようなものが抜けていく。
「……」
神輿は雷にその身を焼かれたあとかろうじてしばらくその場に立ち止まっていたが、
「……かは……」
最後に乾いた空気をそのノドの奥から漏らすとどっと倒れていった。




