ステマ 44
「廣告……」
刀を片手に傷だらけの体で立ち上がった廣告。その見た目も痛々しくまた明らかに痙攣している体を見てステマが息を呑む。
「吾斗廣告……」
倒れてもなお立ち上がる廣告に神輿が苛立たしげにその名を呼んだ。
「立てよ! ステマ! こんなところで諦めんのかよ! お前の夢を! アイドルになるんだろ? 王国を救うんだろ? 皆を幸せにするんだろ?」
廣告が尚も座り込んでいるステマの腕の下に手を差し入れた。
「廣告……」
「お前はいつものように能天気に笑ってろよ! 香川に有名になる為の知恵借りて! 俺を自分の都合で振り回して! 桐山や御崎に迷惑かけて! それでもいつもみたいに明るく笑ってろよ!」
「……」
「その為になら、俺はいつだってお前の側にいてやる! お前が言って欲しいことを言ってやる!」
廣告が強引にステマを立たせた。
「廣告?」
まだ力が入らないのかステマがよろめき廣告の胸に倒れ込んだ。
「ほら! いつもみたいに言ってみろ――」
「……」
「ほにょぽーん! ってな!」
いつもは絶対に言わなかった台詞を廣告が声の限り絶叫した。
「廣告!」
「いくらでも言ってやるよ! ほにょぽろーん! ほにょぽろーん! ほにょぽろーん!」
「廣告……」
「お前は本当は記憶が戻ってるんじゃないのか? 俺と違って。だから神輿に偶像だと言われて否定しても、お姫様だ、王族だと言われて否定しない! むしろいざ力を使わなければいけないこの危機に、お前は力がなくって途方に暮れている! まるで知っていたのに、どうすることもできない自分を責めてるようにな! そんなお前が、この言葉に執着していた! この言葉が持つ意味が本当はあるんだろ? ほにょぽろーん!」
「……」
「だから、俺はお前とこの言葉に賭ける! いいか、ステマ! ほにょぽろーん! っだ! ほにょぽろーん!」
「でも、廣告……今の私には力が……」
ステマが悔しげに唇を噛んだ。
「ほにょぽろーん! ホント、恥ずかしい台詞ですわね! ほにょぽろーん!」
もう一人頑にその台詞を口にしなかった女子生徒の声がステマの背中から投げかけられる。
「一途ちゃん!」
「そうよ、一途ですわ! 覚えておいてね! これは操られてたホンのお詫びですわ! ほにょぽろーん!」
一途が真っ直ぐな髪をぼろぼろに乱して立ち上がる。それでも一途はまだふらつく体を真っ直ぐに立たせて叫んだ。
「ほにょぽろーん! 皆様のアイドルで本物のお姫様が、悪に立ち向かう現場はこちら! こちらですよ! ほにょぽろーん!」
一途に続いて魅甘が立ち上がる。ヒザをがくがくに震えさせながら、それでも魅甘が明るい宣伝口調でその言葉を口にする。自慢のオデコがいつものように光るが、眼鏡が割れてしまっていてこちらはやや不揃いな光を反射していた。
「魅甘ちゃん!」
「科学的に、ほにょぽろーん! なのです!」
花梨が白衣を翻して立ち上がった。相変わらずの吊り目をいつも以上に鋭く吊り上げ花梨が後に続いた。
「花梨ちゃん!」
「背水の陣で臨め! ほにょぽろーん!」
「ご縁ありますように! ほにょぽろーん!」
「僕だよ、ステマちゃん! ほにょぽろーん!」
武藤が、菊池が、子安がその後に続いた。
「ほにょぽろーん! ほにょぽろーん! ほにょぽろーん!」
廣告が声の限りにもう一度その言葉を続ける。
「ほにょぽろーん! ほにょぽろーん! ほにょぽろーん!」
一途が、魅甘が、花梨が、その後に続いた。
「ほにょぽろーん! ほにょぽろーん! ほにょぽろーん!」
他の生徒達が続く。まだ立ち上がれない者も、何とかヒザや周囲の者の肩に手をつき立ち上がった者も。グラウンドを遠巻きにするようにして取り巻いたまま廣告達に続く。
「な……」
その様子に神輿が慌てたように周囲を見回した。
「ほにょぽろーん! ほにょぽろーん! ほにょぽろーん!」
「ほにょぽろーん! ほにょぽろーん! ほにょぽろーん!」
「ほにょぽろーん! ほにょぽろーん! ほにょぽろーん――」
廣告達に続く生徒達の言葉が私立屋良堰田高校のグラウンドにこだました。
ステマの奇妙な挨拶がまるで渦を巻くようにグラウンド全体に響き渡る。
そしてその皆の合唱と化した言葉に、
「こ、これは……」
神輿はたじろいだように後ろに半歩退き息を呑んだ。




