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ステマ 43

「ぐおおおぉぉぉっ!」

 神輿に命ぜられた瞬間、田中の全身から光が溢れ出た。

 魔力のものと思しきその光は私立屋良堰田高等学校のグラウンド全体を閃光で染め上げた。目もくらまんばかりの光が物理的な衝撃を伴って周囲に一瞬で広がっていく。

「うわわぁっ!」

「キャーッ!」

 廣告が、一途が、魅甘が、花梨が。その田中の閃光に爆弾でも落とされたかのように吹き飛ばされた。

 四人がそれぞれ地面に腰や背中を打って倒れていく。

「皆!」

 ただ一人ステマがその場に取り残されて皆を慌てて見回した。

 見渡してみれば周囲を取り囲み状況を見守っていた生徒と教師達も魔力の余波にやられたのか次々と倒れていく。

「……」

 そして地響きを上げて田中も大の字に倒れていった。

「おや、力を使い果たしたか? 全く、何処までも使えない大臣様だ」

 倒れた田中の背中に御輿が侮蔑の笑みを向けた。

「まあ、いい。さあ、ステマ王女。僕と一緒に来てもらおう」

 全てが倒れたグラウンドで神輿がステマに手を差し伸べる。

「神輿先生……」

「悔しいが、王国の統治には王族の力が必要だ。少なくとも王族の力が何なのか、それを解き明かすまでは協力してもらうよ」

「私は……」

「ん? 君はステマリン王国の王女だよ。間違いない。もう『設定』だとか、取り繕う必要もない。君は誰はばかることない、ステマ王女だ」

 神輿が更にステマに手を伸ばす。

「……」

 ステマがその手から目をそらした。 

「おや? いざとなったら、認めたくないかい? 普通の女の子でいたいかい? アイドルを夢見る何処にでも居る女の子。もしかしたら、本当にアイドルになれるかもしれないそれでも中身は普通の女の子でいたいかい?」

「……」

「だが、残念! 君は確かに人とは違う魔力を持った王女様だよ! 見たまえこのひれ伏す民衆達を!」

 神輿が手を横に振って倒れ尽くす生徒達を指し示した。

 そこには魔力の直撃と余波を喰らって全校生徒が倒れうめいている。

「くそ……動けねえ……」

 魔力で吹き飛ばされなぎ倒された廣告達はそのダメージが精神に来ているようだ。皆が力が抜けたようにその場で倒れていた。

「何を言って……」

「君が望んだのは、こういうことだろ? 王女として、皆が君の下にひれ伏す光景だ! 王族の力に皆が頭を垂れる姿だ!」

「――ッ! 違う!」

 ステマが神輿を睨みつけた。

「違うものか!」

 そのステマの襟首を神輿が乱暴に掴んで持ち上げた。 

「く……」

「何の変哲もない茶色い土塊つちくれ! その土塊を、王族の力は光り輝く金属に変える程なのだ! それこそ王家の魔力! 王族の力! 民衆を納得させる為には、武力だけではダメだ! 魔力だけでもダメなのだ! カリスマも必要なのだ! ステマ王女! 僕とともに元居た世界に戻ってもらうぞ! そして僕の操り人形として、民衆の偶像となってもらうぞ! なりたかったんだろ? 偶像に! アイドルに!」

「――ッ! 偶像とアイドルは違うわ!」

 神輿の言葉にステマが襟首を掴まれたまま怒りに目を光らせた。

「違うものかと――言っている!」

 その目の光にいらだったように神輿がステマの身を乱暴に放り投げた。

 ステマの身が廣告達が倒れるグラウンドの一角へと向かって転がっていく。

「キャーッ!」

「ステマ! くそ!」

「エリザベスが倒れる程の魔力をふるったのに、君には効かなかった。ステマ王女。君には、並大抵の魔力は通じない。少々僕には似合わないが、痛い目に遭ってもらってもらおうか。反抗する気も起きなくなるようにな!」

 転がり身をよじったステマの肩を神輿が乱暴に蹴り上げた。

「――ッ!」

 骨にでも直撃したのかステマが声に鳴らない悲鳴を上げる。

「てめえ!」

 廣告がステマの声に鳴らない叫びに上半身だけようやく身を起こした。だが勢いよく体が動くのもそこまでだった。廣告の体は何とか上半身だけもたげるがそこから先は何かに押さえつけられたように動かない。

「ステマちゃん……」

「桜さん……」

「ステマさん……」

 周りの皆も首から上を上げるのが精一杯のようだ。魅甘が、一途が、花梨が。それぞれにステマの名を呼んではもどかしげに首を上げるだけで手足も動かすことができていない。

 神輿はズボンのポケットからメモを取り出した。以前に走り書きをしたページを開く。そこには『永遠に溶けない氷』『科学部』とメモが走り書きされていた。

「王家の頭を飾る幻の金属ももう少しで僕の手に入る。ほら、幻の金属の精製に必要だと言われる『永遠に溶けない氷』。それはこの間、科学準備室から失敬させていただいたよ」

 神輿は更に小さな石も取り出す。それはまさしく氷そのものと見間違う白く透明な鉱石だった。まるでそれだけで価値があるようにその透明な鉱石は人工の照明の光を受けて輝く。

「それは……確かになくなった科学部の氷晶石なのです……」

 花梨が吊り目の視線だけそちらに向けてその鉱石を確認する。

「そう! 助かったよ、桐山くん! 王族が独占していた幻の鉱石を、まさかこんなところで手に入れられるとは思わなかった! そしてこれが――向こうから僕が持ってきていた茶色い土塊だ!」

 神輿はもう一つ鉱石を取り出した。それはただの茶色い土塊にしか見えない。こちらは幻の金属の原材料にはとても見えない。どう見ても何処にでもある茶色い土の塊だった。

「『土塊』……あの鉱物は……」

 グラウンドから首だけもたげた花梨がその吊り目の目を怪訝げに細めて呟く。

「これともう一つ白い粉状のものが必要らしいが……まあ、それはおいおい王国で集めるさ! さあ、後はステマ王女! 後は君の魔力だけだ!」

「……」

 ステマが何とかヒザをグラウンドに着いて立ち上がろうとしていた。

「あの言葉は残念ながら違ったようだが……貴様が王女であることには違いない! 僕の為に君の力を使ってもらうよ!」

「誰が……」

 ステマは結局立ち上がれなかった。ヒザをついたままグラウンドにへたり込むように座り込む。

「光栄だろ? 君の夢見ていたアイドルになれるんだ。アイドルに。お姫様に。偶像に」

「私は偶像になりたい訳じゃない……」

「同じことだよ! 見てくれだけで、ちやほやされてればいいさ! ましてや裏で操られていれば尚更だね! そこのエリザベスやクラス委員長のように、自分の意志などなくして、僕の思惑に踊りたまえ! 国のお飾りとして! 僕の傀儡として! 見た目だけのアイドルとして! 実際今の君には、何の力もないじゃないか!」

「……」

 ステマが悔しげに拳を握りその拳で己のヒザを叩いた。

 ヒザを叩いたことでステマの太ももの白い肌が揺れる。そこに貼られた『広告募集中』のシールにこの時ばかりは玉の汗ではなく、大粒の涙がこぼれ落ちその上を流れ落ちた。

「――ッ!」

 その『広告募集中』の文字にふっと影が落ちる。

 それは影だけではなかった。影に続いてステマの流した涙を拭うように土まみれの手が優しくふわりと降ろされて来る。

 手の主はその『広告募集中』に応じたと言わんばかりに、そっと静かにシールを撫でた。

 そっと撫でた手をそのまま支えにすると、

「立てよ、ステマ……まだ、ライブは終わっちゃいないぜ……」

 吾斗廣告はステマに寄り添うよう立ち上がった。

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