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ステマ 42

「こっちの世界に飛ばされた人間は向こうの記憶が一日と保たない! それはこちらから向こうに飛ばされた人間から分かっていた! だから僕はこちらの世界に飛ばされた時、必至で自分の状況を書きとめたんだ! 記憶を思い出す出がかりとする為に!」

 田中が廣告を一方的に攻撃する。

 そのことに気を良くしたのか神輿が一人で語り始めた。

「そこの御崎くんは実によく働いてくれたよ! 僕自身が書いた向こうの世界の文字! それを解読する為に記憶をなくした僕は、何とかこっちの大学に入り直した! 言語を専門とする学部にね! そして教師としてこの学校に来たんだ! だが解読は遅々として進まない! だがそんな時、御崎くんに出会った! 彼女の真っ直ぐな性格は僕の魔力によく合ったよ! 御崎くんは僕に操られるままに、その霊媒体質をいかんなく発揮してこの文字を解読してくれた! 君の力で遠くを見たり、不明な文字のイメージを幻視したりできた! おかげで僕は自分が何者か思い出したよ! まだ全部じゃないけれど! 僕が何をするべきかもね!」

「み、神輿先生……」

 神輿の台詞に一途が呆然と呟く。

 ステマと一途はお互いを支えるように立ち上がる。

「ああ、御崎くん。礼を言うよ。ありがとう。時折君は時間が飛んだように感じてなかったかい。その間は僕が君を操らせてもらっていたんだ。色々と役に立ってくれたよ君は!」

「そんな……神輿先生……」

「はは! 僕はもう一度向こうの世界に戻るぞ! ステマ王女! 貴様さえどうにかしてしまえば、恐れる者などもうどの世界にもいない!」

「てめえ……」

 田中の一際大振りの一撃を受け止めた廣告がぎりりと歯ぎしりに奥歯を鳴らす。

「王国をこの手に! 十年遠回りしてしまったが、まだ僕にはツキがあったようだ! こんなところでしがない教員に身をやつし、ガキどもの相手をした時間が無駄にならずに済むというもの!」

「この……」

 田中が大振りの一撃を打ち込んだまま、上から廣告の刀を押し込む。その田中の目は先の一途と同じく光を失っていた。

「いいね! いいね! 人を裏で操るのは、何処の世界でも同じ! 気持ちいいよ! 裏で操られているだなんて! 誰かの意図に踊らされているなんて! そんなことも気づかずに、他人に思い通りに動かされているだなんて! そんな人間を見るのは、最高に気持ちいいよ!」

 神輿が高笑いを上げた。

「るっせえ! 人迷惑な! 向こうの世界で、一人でやってろよ! 俺ら関係ねえよ!」

「関係ない? まだ思い出さないのかい、廣告くん!」

「はあ?」

「君はあの時の子供だろうに!」

「あん? 『あの時』? 何の話だよ?」

「君は近衛隊隊長の息子だろ? 僕の裏切りにあっさりと倒れた情けない近衛隊長様さ!」

 田中の後ろに隠れた神輿が廣告を小馬鹿にしたように目を剥いて睨みつける。

「な……」

 田中がようやく右手を離した。田中が後ろに半歩飛んで距離を取り、廣告がうめきながら体勢を整え直した。

「ああ、思い出したよ。隊長は子煩悩だったからね。同年代の友達のいないステマ王女の遊び相手にって、国王に願い出て王宮までしょっちゅう君を遊びに連れてきていた。あの日も君はステマ王女と遊んでいて、僕の反乱に巻き込まれたんだ」

「……」

「健気だったよ! あの時の君は! 『ステマは俺が守る』とか言っちゃってな! 背中に王女を隠して、僕達の前に立ちはだかった! まあ、所詮は大人の力の前の、子供の虚勢だったけどね!」

「な……」

 廣告は刀を油断なく構えながらステマの様子をちらりと振り返って確かめる。

「……」

 一途に支えられるようにしてステマは顔面を蒼白にして立っていた。

「あははっ! やっぱり、覚えてない? 君は背中に大きな傷跡があるだろ? この間御崎くんを操って、君の素性を探らせた時に見たよ。懐かしいね。その背中の斜めに走る傷は、僕が君につけたんだよ! いっぱしの騎士気取りで、鬱陶しかったからね! 結局手にしていた剣を簡単にはじき飛ばされた君は、それでもステマ王女に覆い被さって守ろうとしたっけ。最後は僕の背中からの一振りで、君はステマ王女の胸に倒れていったけどね! 何が『俺が守る』だ! はは、看板に偽りありだね! どっかに訴えようか?」

「て、てめぇ……」

「ああ! これも思い出したよ! それがいけなかったんだ! 君の背中から吹き出る血を見て、ステマ王女は魔力を暴走させた! 結果がこれだ! 僕とエリザベス! 君とステマ王女はこの世界に飛ばされ記憶を失った! 後少しで、あの国を僕の思惑通りに動かせるところだったのに!」

 神輿は自分の悲劇に酔ったかのように大げさな身振りで力説した。

「これだけの力……どうして、いいことに利用しようと思わないの……」

 ステマが悔しげにぽつりと呟いた。

「――ッ! 人を思い通りに操る魔力! 僕はこの力のせいで、周りの人間に避けられて生きてきた! それがどんな人生か? 生まれながらにちやほやされる、王女の君に分かるものか!」

 神輿はそのステマの言葉に憎悪をむき出しで応える。見開かれた目。むき出しにされた歯。噛み合されたその奥の奥歯。歪む口角。全てがステマに向けられた。

「だが僕は考えた! 民衆に甘い顔をして言うことを聞かせることも! 理想を並べ立てて民衆を導くことも! 魔力で直接人心を操ることも! 何が違うって言うんだ! ステマ王女! 君自身が証明していたよ! 購買部の宣伝広告塔としてね! 人々に都合のいいところばかり伝えて思うように動かす! 物事のいいところばかり見せて、人心を自分の下に引きつける! 外面ばかりが小綺麗な、王族がやっていたことそのものだ! 王族も人気商売! さぞしょうに合っただろうね! その王族の人気を支えていたのが、魔力で作り出した幻の金属なんだから、その魔力を直接統治に使って何が悪い! 下手な手順を踏まないだけだ!」

「――ッ! 違う!」

「違わない! もういい、エリザベス! 茶番は終わりだ! お前の魔力で、全てを吹き飛ばせ!」

 神輿が最後は憎悪そのものを吐き出すようにそう命令した。

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