ステマ 41
「……」
田中の雄叫びを合図にステマを羽交い締めにしていた一途が崩れ落ちるように倒れた。一途は身を守ることもせずに無言でグラウンドの地面に倒れ転がる。
「一途ちゃん! 廣告!」
その様子にステマが悲鳴めいた叫び声を上げる。
もはやグラウンドを取り巻く生徒と教師達は見守ることしかできない。皆が息を呑んでステマ達の様子をうかがっていた。
「ステマ! 大丈夫か!」
ステマに名を呼ばれて廣告が駆け寄った。
二人して一途を抱き起こすが闇に操られていた少女はぴくりとも動かない。
「やれやれ……やはり、まともに操れるのは一人までか……まあ、いい……エリザベスの力! 存分に見せてあげるよ!」
「ぐおおおおぉぉぉっ!」
神輿の言葉に田中が筋肉を隆々と盛り上げながら雄叫びを上げる。
「田中さんが……人とは思えないほどの雄叫びを上げてるわ……」
「いつも通りのようも気がするがな、ステマ……」
廣告が油断なく田中を見上げる。
「ななな、何ですの?」
ようやく意識を取り戻したらしき一途が目を白黒させながら辺りを見回した。
「ステマリン王国とやらは、本当にあったらしく。神輿がその王女のステマを狙ってる」
「はぁ? 吾斗! あなたそれ、本気で言ってるの?」
「神輿とおばはんがそう言ってんだよ! ステマ! 御崎を頼む!」
廣告はステマ達を残して自分だけ立ち上がり神輿と田中に対峙する。
「廣告! どうするの?」
「そうだな……せめて武器か何かあれば……」
廣告はステマ達を背にして素手で身構える。田中の筋肉隆々とした腕と比べて、それはいかにも頼りない少し鍛えているだけの普通の高校生の腕だ。廣告はそれでも深く腰を落として身構えた。
「吾斗!」
「吾斗くん!」
その時生徒達を掻き分けて魅甘と花梨が走って戻ってきた。魅甘は何やら手に細長い棒状のものを手に持っている。
「吾斗くん! 武器を持ってきたのです!」
「吾斗! 受け取りなさい!」
魅甘が身を翻すとその棒状のものを廣告に向かって投げて寄越した。
「香川! 桐山! ――ッ! て、これ! お前ら! 真剣じゃねえか!」
廣告に向かって飛んできた棒状のもの。廣告はそのずっしりと重いそれを空中で掴むや目を剥いた。
それは落ち武者こと武藤が自慢げに見せびらかせていた日本刀だった。
「落ち武者から、ぶんどってきたわ! いいえ、借りて来たわ!」
「落ち武者狩りしたのです! いえ! 落ち武者借りしてきたのです!」
魅甘がオデコと眼鏡を光らせ、花梨がその自慢の吊り目を輝かせた。
その後ろを必死に髪を振り乱して武藤が追いかけて来ていた。
「かわいそうなことすんなよ! 落ち武者が涙目で、追っかけてきてるぞ! てか、いくら田中さんでも、真剣向けていい訳ないだろ!」
「エリザベスを侮ってもらっては困るな廣告くん! 魔力に目覚めたエリザベスに、刃物など棒切れも同然! それぐらいの武器! ハンデにもならないよ!」
左手を前に突き出し後ろで田中を操る神輿が残忍な笑みを浮かべた。
「そうかよ! じゃあ、遠慮なく!」
廣告が鞘から日本刀を抜き放った。初めて持つ本物の刀の重さに廣告は少しぶれながらも真っ直ぐとそれを構えた。
「はは! 血は争えないね、廣告くん! その姿、君の本当の父親にそっくりだ! こちらの世界で剣道をしていたのは、やはり父親の血が騒いだからか? それとも本能的にステマ王女を守らねばと思ったからか?」
「うるせえ! 覚えてねえって、言ってんだろ!」
「ぐおぅっ!」
田中が上げていた右手を振り下ろした。
田中の手から閃光がまるで物理的なもののように放たれる。
「この!」
廣告がその閃光を刀を斜めに構えて受け止めた。
「こらえた! いけるか?」
廣告が歯を食いしばってその光を受け止めるが、
「ぐおおおおぉぉぉっ!」
「く、この……」
実際は雄叫びを上げる田中の連打に防戦一方へとあっという間に追い詰められた。
雄叫びを上げひたすら廣告に打ち込まれる田中の魔力の閃光。
「廣告……」
その様子にステマは廣告の名を呼ぶことしかできなかった。




