ステマ 37
ステマの曲は今はもう三曲目の佳境に入っていた。
ステマの曲に合わせて集まった生徒が汗を飛ばして歌い踊る。
廣告もステマを舞台脇から見上げながら、体を小刻みにリズムに合わせて揺らしていた。
「やあ、皆。桜さんに踊らされているかい?」
そんな廣告の後ろで不意に声がかけられる。
「はい?」
突然の後ろから声をかけられ廣告が驚いたように振り返る。
そこには現国の神輿がいつになく険しい表情で立っていた。
その後ろには何故か無言で御崎一途が立っている。
そして一途の立つ場所は何処か他の場所と比べて暗い。
屋外照明とステージの照明が頼りの陽の暮れる寸前のグラウンド。それでもそこだけは光が届いていないように闇に沈んでいた。
「先生いつの間に。幽霊みたいに消えるのを止めたと思ったら、今度は亡霊みたいに現れないで下さいよ」
「幽霊でも、亡霊でもいいさ。今はもっと大事な話があるんだ」
「何ですか?」
神輿の突然の申し出に廣告が怪訝そうに眉間にシワを寄せた。
「桜さんにも聞いて欲しいな。この後一旦休憩だろ? 戻ってきたら、二人には話すよ」
「『二人』? 俺とステマっすか?」
「そうだよ」
「そうですか。てか、御崎。何突っ立ってんだよ? 座れよ」
「……」
一途が言われるがままに無言で空いていた後ろの方の席に座った。その瞳は何処か生彩を欠いており全体に無表情に見える。そしてやはりそこだけ極端に暗く一途の表情は細部まで見通せない。
「御崎?」
「……」
「はーい! 一旦ステマちゃんは、休憩入ります! 皆様ちょっとお待ち下さいね!」
一途の表情にいぶかしがる廣告の横で魅甘がマイクでアナウンスを始めた。
「ぬうぅぅ……我の出番だな……」
田中がそう呟きながら席を立った。
「田中さん、余興お願いね! お集りの皆様におかれましては、少々お待たせいたします。その間購買部のラスボスこと――田中さんによる余興をお楽しみ下さい」
「我に、任せよ」
魅甘のアナウンスを背に受けながら田中がステージ向かって歩き出す。
「……」
その背中を神輿がじっと見送った。
「田中さん! お願いね! ほにょぽろーん!」
「ぼにょごぼーん! 任せよ!」
田中とすれ違いながらステマがステージを駆け下りて来る。
「何? どうしたの? ほにょぽろーん」
ステマはそのまま本部に駆け寄ってきた。
「ああ……」
まだ気まずいのか廣告がそのステマから視線をそらす。
「む……」
ステマも上半身をひねって廣告から目をそらした。
「ふふ……」
その様子に神輿は口元に歪んだ笑みを浮かべる。
互いに目をそらした廣告とステマにはその表情は見えなかったようだ。
「で、何ですか、神輿先生? 大事な話って?」
「ああ、御崎くんの手伝いのお陰でね。ようやく僕の持っていた古代文字の解読が終わったんだ。まあ、古代文字ってのはブラフなんだけどね。すごいよ、御崎くんは。霊媒体質ってのかな、この文字の解読にとても役に立ってくれた。まあ、本人はその自覚がないだろうけどね」
すぐに歪んだ笑みを引っ込めて神輿が語り始めた。
「はい? 何ですか? 何の話ですか?」
一人で話す神輿に廣告が怪訝に眉をひそめる。
「あえて、言うよ。桜くんの王女様設定は――本物だ」
「はい?」
「へっ?」
廣告とステマが素っ頓狂な声を上げる。
「僕が持っている文書に全く同じことが書いてある。ステマリン王国の王族は、代々王家のみが使えるある特殊な魔法でもって、羽のように軽い永遠に錆びない光り輝く金属を作り出せる。そしてその金属で作った王冠を頭上にいただき、民衆をそのカリスマ性で治めていた。だが、ある日そのことをよく思わない人間達に謀反を起こされた。ステマ王女はその時魔力を暴走させて、自分とその近くにいた人間を異世界へとはじき飛ばしたのだ」
「はい? 神輿先生? 何を……」
廣告が思わずにか立ち上がる。その廣告の額から汗が滴り落ちた。
「おっと。桜くんと、君の妄想話ではないよ。これは僕が持っている文書に書いてあったことだ。つまり裏が取れたということだよ。桜くんと君の妄想話に」
「な、何、廣告? 何の話?」
ただならぬ雰囲気にステマがようやく廣告の顔を見る。
ステージの上では田中が皆にボディビルダーよろしく筋肉を見せつけるポーズをとっていた。これが田中の余興らしい。ヤジと歓声を受けながら田中は隆々とした筋肉を皆に見せつける。
「王国に謀反を起こした人間はこちらの世界に飛ばされてきた。勿論、君達二人と同じく、こちらに来た時に記憶をなくしてね」
「真面目に言ってるんですか? 神輿先生」
「至って真面目さ。その王に歯向かった大臣の名前も書いてあった。その者の名は――」
神輿がステージに目を向ける。神輿はそこに田中の姿を見つけるや魅甘の前にマイクに手をかけた。そしてそのマイクを口元に持って来るとゆっくりと口を開いた。
「その者の名は、エリザベス。エリザベス・グラグロワ・ドゥブル・バガルガス――国を揺るがした〝女傑〟だ」
口調とは対照的な鋭く投げつけた神輿の視線の向こうで――
「――ッ! 我は思い出したぞ!」
田中エリザベスの全身から目映いばかりの光が溢れ出た。




