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35/48

ステマ 35

 日が傾き始めたグラウンドに屋外照明が灯された。

 まだ完全に陽が落ちていないグラウンドにはその光は少し頼りない。

 だがその屋外照明を倍する灯りがグラウンドの一角で、たった一人の少女を照らす為に灯された。

 照明が照らすのはグラウンドに設けられた特設ステージ。そのステージには屋外スピーカが添えつけられ、この少女の声を皆に届けんが為に観客席に向けられている。

「皆! ほにょぽろーん!」

 己を前後左右から照らすサーチライト状の照明。

 己の声を届ける為に向けられた屋外スピーカ。

 何より少女の瞳に一身に集まる観衆の視線。

 灯りと配慮と視線とを一身に浴びた少女が奇妙な挨拶とともに手を振った。

「ステマちゃん! ほにょぽろーん!」

 桜ステマの呼びかけに生徒達が怒号と化して応える。

 グラウンドの奥まで人で埋まっている。まるで全校生徒が集まったかのようだ。

「はーい! 後ろの方ステマの声、届いてる? ほにょぽろーん!」

「ほにょぽろーん! 届いてるよ、ステマちゃん!」

 ステマの挨拶にまるでよく訓練されたかのように生徒達は一斉に声を合わせて応える。

「ステマちゃーん! 僕だよ! ほにょぽろーん! この間は楽しかったよ!」

 集まっていたのは生徒だけはなかった。古文の子安が脂肪をぶるぶると震わせながら一人統制を乱してステマに呼びかける。

「ありがとう! ほにょぽろーん!」

 ステマはその抜け駆け的な呼びかけにも嫌な顔をせずに応えた。

「うおおおおぉぉぉぉぉっ!」

 そのステマの対応にグラウンドの観客達がなお歓喜する。

「今日は突然のライブなのに! こんなに集まってくれて! ホント、ビックリ! ほにょぽろーん!」

「ほにょぽろーん!」

 ステマが皆に語りかけ会場は早くも一体化したかのように全員が一斉に体を揺らして応えた。

「色々と何か言わなきゃだけど、まずはこのライブを成功させることが第一だよね!」

「そうだよ、ステマちゃん!」

「俺達が盛り上げるよ!」

「キャーッ! ステマちゃん可愛い!」

 男女問わずステマの声に会場が反応する。野暮ったい男子生徒の声と、黄色い女子生徒の声がそれぞれステマに投げかけられる。

「ありがとう! では、早速いくよ! 皆ご存知! 私の大ヒット曲――」

 ステマが右手をばっと空に向かって上げる。その合図とともに屋外スピーカから前奏らしき音楽が鳴り響いた。

 観客はこのメロディーに慣れ親しんでいるのか、音楽がなり始めるや皆がざわっと浮き足立った。

 鳴り始めたイントロに合わせて、ステマがその曲名を絶叫に近い声量で皆に告げる。


「『コイコイ! ステマ!』」


「うおおおぉぉぉっ!」

 男女問わずの怒号めいた歓声がステマの曲名告知に合わせて爆発した。


「極めてコイ! 激しくコイ!

 コイにコイする お年頃

 明らかコイ! まさしくコイ!

 コイにコイして 女の子――」


 ステマがステージの中央でその流れ始めた曲と観客の歓声に合わせて歌って踊り出す。

 手足を投げ出し身を跳ね上げてステマが全身の筋肉で躍動した。

 早くも汗が飛び散り始めていた。ステマの額や頬、華奢な腕に、『広告募集中』のシールの貼られた太ももなど。ステマの白い肌から玉の汗が飛び散る。

「おおおおっ!」

 観客の熱気もステマの躍動と一緒になって上がっていった。

「どうにか始まったな」

 その様子を舞台脇下から見上げた廣告が呟く。廣告がいるのは切妻型の天井を持った屋外テントの中だった。体育祭などで屋外に設置される白い天幕の屋根がついた簡単なテントだ。そこには長机とパイプイスが並べられ。廣告達関係者が座っていた。

 廣告は長机の上の『放送部』と書かれた音響ミキサーに手を添えている。ステマの合図に合わせて音楽を流したのは廣告だったらしい。廣告の前には『本部』と書かれた立て札がそのミキサーの横に置かれていた。

「当たり前よ。ああ、それにしてもこのお客さんの入り! 入場料取っとくんだった! 一体いくらになったことか!」

 照明にオデコと眼鏡を光らせて魅甘が悔しさに身を震わせた。

 魅甘は廣告の横に座り進行表らしき資料を片手にステマの様子を見守っていた。魅甘の前には『進行係』の立て札が長机の上に置かれていた。

 廣告の反対の横の席には田中と花梨がそれぞれ座っていた。田中の前には『警備班』の立て札が。花梨の前には『救護班』のそれが。それぞれ長机の上に置かれていた。そして花梨の『救護班』の立て札だけはその上部に吹き出しが書き足され『科学的』と書き加えられていた。

 田中も花梨も固唾をのんで舞台を見つめている。


「また渡せなかった あなたへ思い

 ぶすっと増える 届かない手紙

 出してるつもりよ 数えないでねABC


 そうよ……


 思い綴って 渡せずじまい 

 あなたの靴箱より 私の抽き出しに消えてくこの気持ち

 いくつあるかなんて やぼじゃない?

 

 伝えたいのは 募った言葉

 素直に私 指折るのは あなた思う日々だけよ


 コイコイ! ステマ!

 気づいてステマ!

 ふと目が合うのは ステマなの!


 コイコイ! ステマ!

 分かってステマ!

 趣味が合うのも ステマなの!」


「うおおおぉぉぉっ! ステマちゃん!」

「俺には届いてるよ!」

「届いてないけど、出してるんだよね! 分かるよ、ステマちゃん!」

 ステマの歌声に観客は思い思いの声援を送る。

 ステマの歌は観客にも乗せられて快調に続き、

「……」

 廣告はその姿をじっと瞳に写し込むように見つめた。

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