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ステマ 30

「あっ? 幽霊まで来てやがった。ホント、オカルト好きだな。あの先生も」

 しばらく一途とともにステマやその周りの様子を見ていた廣告。その廣告が生徒とは違う人影に気づいたのかふと入り口に目をやった。

 そこにはちょうどドアをくぐって会場を見渡す神輿の姿があった。

 神輿は廣告達に気づくやこちらに向かって来る。

「『幽霊』? ちょっと、先生を悪く言うの、よくありませんわよ。先生は授業が終わった後も、古代文字の解明に勤しむ立派な方ですわ。何より三十歳を越えてから、大学に入り直して、教員免許をお取りになった努力家ですのよ」

 一途が自分のことのように唇を尖らせた。

「そうかよ。三十越えて大学入り直すなんて、酔狂なこった。てか、先生の手伝いって、あれか? あの『ほにょ』がどうの言ってた言葉の解読の手伝いかよ。何処までも酔狂なこった」

「むむ! バカにしてますわね? 解読のお手伝いは楽しくって、時間が経つのを忘れる程ですのよ」

 一途の最後の言葉が耳に入ったのか神輿ははにかんだような笑みとともに近づいて来る。

「へいへい。神輿先生。ラッキーあるかもなパワーなストーン。お一ついかがですか?」

「いや、教師の安月給には、ちょっとキツいね。遠慮しておくよ」

 神輿が廣告達の下までくると、

「神輿先生! ほにょぽろーん! イケズちゃん! こっち、こっち!」

「ちょっと! 桜さん! 私は一途です! 先生への挨拶もまだ! あっ、こら!」

 ステマが別の方向から走り寄り一途の腕をかかえるように連れていった。

「ああ、ほにょぽろーん。そうそう、吾斗くん」

 ステマと一途が待っていた女子の集団に呑み込まれていく。その様子を確かめた神輿が不意に口を開いた。

「何ですか?」

「それがね、『ほにょ』に続いて、『ぽろーん』も僕の研究する古代文字に、同じ言葉があったんだよ」

「はい?」

「はは。そう、呆れた顔しないでくれよ。僕の研究対象の文字では、『ぽろーん』は落下だった」

 素っ頓狂な返事を返す廣告に、神輿が困ったような笑みを浮かべた。

「『落下』?」

「うん。かなり原始的な時代に発生した擬音語ということだろうね。まさに感じたままの印象が言葉の意味になっている。顔を見上げるの意味の『ほにょ』と、『ぽろーん』で何か意味をなさないかな?」

「知りませんよそんなの。結局『顔を見上げる』『落下』じゃ、ますますステマの口癖には意味がない。やっぱり関係ないですよ」

「まあ、そうなんだろうけどね。所詮言語なんて有限の発音可能の音の組み合わせ。よく似た言葉は、交流のない言語同士どもよくあるからね。関係ないとは思いつつも、話を聞いてくれてた君には報告しておこうと思ってね」

 神輿は何が嬉しいのか笑みを浮かべたまま続ける。

「はぁ……」

「『ほにょぽろーん』を僕が研究している言語に当てはめると、やっぱり『顔を上げて』『落とす』か……確かに意味がないかもね……」

 神輿はこの時ばかりは眉間にシワを寄せて深刻な表情を作ってうつむいた。まるで本当にこれは検討する価値があるかと思っているように真剣な面持ちで呟いた。

「持ち上げておいて落とすですからね。多分期待が外れて『がっかり』といったところですよ」

 廣告がステマに目をやった。

「『がっかり』と叫びながら、広告塔をしてるのは購買部としてどうなんだい?」

 神輿が顔を上げた。眉間のシワもそのままに神輿の目は何かを探るように鋭く廣告の横顔を伺う。

「あいつの『こだい』は『こだい』でも、『誇大』広告の『こだい』ですから。『がっかり』で十分です」

 廣告がステマから神輿に目を戻すと、

「あはは。そうかい?」

 神輿が探るような表情を瞬く間に顔からぬぐい去る。その顔には元の笑みが戻っていた。神輿がこちらに振り向いた廣告に見せたのはその探るような視線ではなく、生徒に向けて微笑む優しく丸みを帯びた目つきだった。

「はいはい! 分かりました! 分かりましたわ! 手を貸せばいいんですわね?」

 廣告と神輿の会話の向こうで一途が不意に呆れたような何かを諦めたような声を出した。

 一途はステマに背中を押されながらこちらに戻ってくる。

 ステマが一途の両肩に両手を置いて後ろからその身を押していた。

「そうだよ! 廣告!」

 廣告達の下に戻ってきたステマは開口一番幼なじみの名を呼んだ。

「何だよ? 騒々しいな」

「あっちの女の子達が、この間のミニライブ見そこねたらしいんだって!」

 ステマは一途の肩に手を置いたまま身をその場で飛び跳ねさせた。

「まあ、だいたい男ばかりだったからな。あの日のライブは」

「それでね! 明日もう一回ライブして欲しいって! 友達も沢山呼んでくれるし、今日のお客さんも見たいって言ってたって!」

「今日の明日で、いきなりライブができるわけないだろ? 学校の許可とかどうすんだよ?」

「そこはそれ! このクラス委員長の一途ちゃんが、今から許可を取りに駆けずり回ってくれるって!」

「一途です!」

 一途がステマに両肩を持たれたまま顔を真っ赤にして振り返る。

「そう呼んだよ、一途ちゃん!」

「あっ……ふん……」

 一途は更に顔を赤くしてそっぽを向いた。

「いいのか、御崎?」

「別に……私が出した条件を、早くもクリアなさりそうですからね……私だって別に、意地悪したくってあなた達の活動を非難していた訳ではないですわ……ちゃんとしっかり部活動してるところを見せていただければ、それぐらいの手伝い……別にどうということありませんわ……」

「『別に』が多いが、まあいいか。ありがとうな、御崎」

「――ッ!」

 一途が今までで一番頬を赤くするや、

「ふ……ふん! ですわ!」

 廣告の視線から逃れるように顔ごとそっぽを向けた。

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