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ステマ 3

「廣告もほら! ぽにょぽろーん!」

 ステマが顔面に焼きそばパンを貼付けた廣告に満面の笑顔を向ける。

「俺は絶対に言わないからな!」

 廣告は顔の前から焼きそばパンを振りほどくと、ヤケになったのか先に倍する勢いで客をさばき始めた。

「それに、いい? 吾斗。ステマちゃんは、キャンペーンで入店してるのよ」

「はい、香川? 『キャンペーン』? 『入店』? 何言ってんだ、お前?」

「ふふん、何を言ってるの、吾斗? ステマちゃんは宣伝業務の委託で入店してるのよ。他の仕事させたら、労働者派遣法違反で捕まるわ」

「お前こそ何を言ってるんだ、香川?」

 廣告は心底不信げに眉間にシワを寄せる。

「私は宣伝だけしてろってことだよね、魅甘ちゃん? じゃあ皆! ほにょぽろーん――で、感謝感謝の三割引よ!」

 ステマが野獣と化して焼きそばパンに飛びつく生徒達に手を振った。

「おおっ! ステマちゃん! ほにょぽろーん!」

 その中の特に男子生徒が野獣から豹変し、飼いなされたペットのごとき反応で奇妙な挨拶とともに手を振り返す。その目は皆がへの字に曲がり、口元はだらしなく緩みきり、頬は焼きそばパンを頬張る前なのに完全に落ちていた。

「皆! お買い上げ、いつもありがとうね! ほにょぽろーん!」

「うおおぉぉっ! ほにょぽろーん!」

「皆の声援が、私に力をくれるわ! ほにょぽろーん!」

「うおおおおぉぉぉっ! ステマちゃん痺れる! ほにょぽろーん!」

 男子生徒達はステマの奇妙な挨拶にまるで雷に打たれたかのように嬉しげに身震いして応えた。

「明日の放課後はミニライブもやる予定なの! 皆きてくれるよね? ほにょぽろーん!」

「ほにょぽろーん! S・A・L・E! YOU SALE SUTEMA!」

 男子生徒の群れが買ったばかりの焼きそばパンを、まるで今まさにライブ会場にいるかのごとくライトのように頭の上で左右に振った。

「おかしいだろ、お前ら! そのかけ声と声援の仕方は!」

「うるさい! 吾斗! ステマちゃんの幼なじみだからって、調子に乗んな!」

 男子生徒達は怒号とともに同時購入させられたらしきパック入り牛乳を廣告目がけて投げつけた。

「ぐわぁ……おのれ……〝特定〟男子にだけは、人気あるんだから……」

 廣告がパック入り牛乳の山に埋もれながら、そこから手を突き出して震わせた。

「あれ、廣告? 何か言った?」

「別に?」

「ああ、分かった。嫉妬ね?」

 ステマが牛乳に埋まる廣告に向かって自慢げに鼻を鳴らした。

「はあ?」

「ああ、でもゴメンね廣告! 私は誰か一人の女の子にはなれないの! だって――」

 そこで一度言葉を区切ったステマはちらりと皆の様子を確かめた。

 食堂内の皆の注目がステマに集まっている。

 そのことを確かめたのかステマは己の胸に手をやるや悲劇的な口調で語りだした。

「私は異世界にあるステマリン王国から来た女の子! ステマ! 異世界人である私は、元の世界では実はすごい魔法が使えるお姫様なの! 王族の魔力で作り出されるとされる光輝く永遠に錆びない金属! その金属で作った王冠を力の象徴として、皆にその力と範を示してきたわ! 私が受け継ぐ気高い血筋とその力をもって、代々王は皆が幸せに暮らせる国を治めていたの。でもある日突然……悲劇が襲ったの! 王族の――わけても王女であるこの私の巨大な力を恐れた悪の大臣とその部下が叛旗を翻したわ! 奮戦むなしく私はこの世界に小さい頃に飛ばれさてしまったの! いつか元居た世界に戻って、悪の大臣達に苦しめられているであろう国民を助けることを夢見ているわ! でも今の私には力がない……だから今はこの美貌を生かしてアイドルとして頑張るの! いつか王国を助ける為に! 王国に戻っても皆に愛される王女になれるように! そう! そんな健気な美少女アイドル――うん、そういう設定!」

「設定じゃねえか!」

 廣告がパック入り牛乳を巻き上げて怒りとともに立ち上がる。

「うるせえ、吾斗! ステマちゃんの設定を笑うな!」

「ステマちゃん! 僕は信じるよ、君がお姫様だって!」

「うおおおおぉぉぉぉっ! 俺を家臣にしてくれ、ステマちゃん!」

「こ、こいつら……普段話もできない女子と、ちょっと話せるからって……飢えているはのお腹だけでなく、女子との会話もかよ……」

 廣告が飢える男子生徒の面々を見回す。如何にも普段女子とは縁遠うそうな男子生徒がそこには群がっていた。

「うん! 私頑張る! いつか悪の大臣を倒して、王国を救うまで!」

「うんうん。えらいわ、桜さん」

 ステマの言葉に田中が感動したように何度もうなづけば、

「健気なアイドルが売る焼きそばパンはこちら! こちらですよ! ほらラスボスももっと売って! インセンティブ弾むわよ! ぽにょぽーろん!」

 魅甘が更なる明るさを増してオデコと眼鏡を光らせる。

「うおおおぉぉぉぉぉっ! インゼンディボォー!」

「あからさまな設定に、いちいち踊らされてんじゃねえよ!」

「むむ、『設定』って! 廣告が考えてくれた設定でしょ?」

 田中の雄叫びが響き渡る中、心外だったのかステマが胸の前で腕を組んで廣告を睨んだ。

「また、その話か? 確かに俺が言ったんだろうよ! だけど物心つく前のガキの頃の話だろ? そんな子供の頃の妄想を、いつまでも真に受けてんじゃねえよ!」

「ふん! いいわよ! とにかく今は、みんなのアイドル! ほにょぽろーん!」

 ステマが奇妙な挨拶とともに群がる生徒達に手を振った。

「うおおおおおっ! ほにょぽろーん!」

 生徒達の内、特に男子生徒が野獣のような雄叫びとともに手を振り返す。

「購買部限定のくせに……」

 廣告が苦々しげに呟く。

「何か言った、廣告?」

「別に」

「てか、あんたも言いなさいよ、吾斗。ほにょぽろーん!」

 魅甘が職業的なまでに生真面目にオデコと眼鏡を光らせてその奇声を発する。

「俺は絶対に言わないからな!」

「ほら、廣告! ほにょぽろーん!」

「言わねぇ!」

「言いなさいよ、吾斗! ほにょぽろーん!」

「こればっかりは、言わねえって言ってんだろ!」

「ぐおおおおぉぉぉぉっ! うるさい! ガキども!」

 田中が突如焼きそばパンで山盛りのテーブルに両の手のひらを打ちつけた。

「我の販売の邪魔をするな! インゼンディボォ!」

 田中の前で焼きそばパンが宙を舞う。そしてそのあまりの迫力に群がっていた生徒達も驚き飛び上がった。田中を中心とした衝撃波が焼きそばパンと生徒を吹き飛ばしたかのようだ。

「田中さん!」

「おばはん!」

「ラスボス!」

「――ッ!」

 焼きそばパン舞う光景の向こうで田中の目が怒りに赤く光る。

「『おばはん』は許さん!」

「ぐわぁっ!」

 三割引の焼きそばパン――を乗せたテーブルそのものが廣告の顔面に飛んできた。

「廣告! さぼってないでたくさん売ってよ!」

「吾斗! 商品つぶしたら、弁償してもらうからね!」

「るっせえ! 少しは俺の心配しやがれ!」

「インゼンディボォー!」

 テーブルの下敷きになった廣告を中心に大騒ぎになる購買部の一角。

 その騒ぎを食堂のドアの影から身をのぞかせ、

「……たく、ホント迷惑な連中ですわ……」

 長い髪をすっと真っ直ぐ伸ばした女子生徒が一人苦々しげに呟いた。

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