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ステマ 29

「そうかよ。でも、今回は鉱石の展覧会だろ? 鉱石関連は桐山が日頃から用意していた冊子だけ。ステマのグッズまで、ついでに売れんのかよ」

 電卓のキーを乱雑に叩く魅甘を横目で見て、廣告が呆れたよう息を吐いた。

「むむ! 今回は準備時間がなかったから、なんだかお土産グッズ類が寄せ集めなのよ! そこは仕方ないわよ。もっと時間があったら、そこら辺の石ころに紐でもつけて、ラッキーなストラップだとか言って売りつけてやるところだったのに!」

 電卓を叩く魅甘の指が更に速くなる。それでいて魅甘は闇雲に打鍵していたようではないようだ。魅甘の手の中で電卓が単価や原価率、粗利を次々と表示していく。

「分かった、分かった。分かったから、怖いこというな、香川。ん?」

 廣告がふと目を転じた。

 科学教室の中央に一際目を引く鉱石が展示されていた。そこは他の展示物以上に人を集めている。女子生徒が互いに肩をぶつけ合いながら黄色い声を上げていた。

「……」

 そこに一人でその鉱石に見入っている女子生徒が居た。女子生徒はすっと真っ直ぐ伸びた背筋を腰の辺りで前に曲げ、真っ直ぐな髪を一直線に耳元から床に垂らしながら鉱石を見つめている。

 御崎一途だ。

 一途は紫色をした鉱石に見入っていた。

 その一途にステマが後ろから近づいていく。

「イケズちゃん! ほにょぽろーん!」

「ひゃっ!」

 ステマに両肩を掴まれて抱きつかれた一途がその場で飛び上がる。

「どんだけ驚いてんだよ、御崎? そんなにパワーなストーンに見とれてたのか?」

「ち、違いますわよ! ちょっと監視しにきただけです! てか、私は一途です!」

 一途が真っ赤になって背後を振り返り、己の肩を叩いたのがステマと見るやぷいっと顔を背けた。

「その割には、御崎。めちゃくちゃ前を陣取ってるじゃないか?」

 ステマに続いて廣告が近づいてくる。

「う、うるさいわね! ああああ、怪しげな商品がないか! 確かめさせてもらってるですわ!」

 一途がステマの両手を肩から振りほどいた。

「そうか? てか、俺らに気づかれずに入ってきたってことは、後ろの出口からこっそり入ってきたな」

「あ、あらそう? あっちが、ででで、出口とは気づきませんでしたわ。別にこっそり入って、こっそり帰ろうとした訳じゃありませんからね」

「そうかよ?」

「そうですわ!」

「どっちでも、大歓迎だよ! しっかり楽しんでいってね! 今見てるのは、アメシスト! いわゆる紫水晶だね! 二月の誕生石で、水晶に二酸化ケイ素が入ってるんだって! いいよね! 紫ってのが、神秘的だよね!」

 ステマがその場で踊り出しそうな勢いで身を翻して展示されていた鉱石を腕ごと指し示す。

「あら? 詳しいじゃない?」

「まだまだだよ! ああ、そっちのお客さん! その石はね!」

 ステマは別の客が他の鉱石に興味津々と覗いているのに気づいてとっさに向き直る。そのまま笑顔で近づいていくとその鉱石の解説を軽く始めた。

「それはモルガナイト。薄いピンクが奇麗だよね。結構お高いらしいよ。そっちはね、ラリマー! 海みたいな青い色が素敵だよね! 不純物として銅が入ってるからこういう素敵な色になるらしいの!」

「何、吾斗くん? 桜さん、こういうの好きなの?」

 手にしたメモにちらちらと目を落としながらも鉱石の解説を始めるステマ。その様子に一途が不思議そうに眉間に軽くシワを寄せた。

「まさか、この催しの為に、急遽桐山に詰め込んでもらったんだよ」

「ええっ? でも、流石にそこまでの時間は……」

「なかったな。でも熱心に聞き取って、自分の感想も含めて話が膨らむようにメモしてたみたいだぜ。別に大したことは言ってないけど。あいつはそういうヤツだよ。焼きそばパンの三割引が、皆によかれと思ったらそれを思い切り宣伝する。ミニライブに特定の男子しかこなくても、一生懸命に皆と一体になって歌う。握手することで皆が喜んでくれるのなら、何百人とだって握手する。展示物に花を添えるだけの役目とはいえ、ちゃんと自分が勉強したこと感じたことを伝える。あれがアイツにとってのアイドルらしいぜ」

「……」

「まあ、女子人気がもう一つ欲しいところだったからな。ここで点数稼いでるのは否定しないよ。あざといと言いたいヤツがいれば、言わせておくさ」

 ステマが懸命に来客に鉱石の説明をしていた。その額には汗が浮かびステマの休みなく動き回る体からしぶきなって散っていく。

「……」

 そのステマの必至の様子をしばらく無言で見つめ、

「ふん、別に……『あざとい』とは言ってませんわ……」

 一途がぷいっと顔をそらし呟いた。

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