ステマ 28
その放課後。科学教室。
普段は素っ気ない実験室然としたテーブルが並ぶこの科学教室。ビーカーやら試験管やらが似合いそうな机の上に見るからに奇麗な鉱石がずらりと並べられていた。
女子生徒の黄色い声が教室中のそこそこに沸き上がっては尾を引いてこだました。
「ほにょぽろーん! 購買部主催の『パワーなストーン展覧会』にようこそ!」
ステマはその入り口出たところすぐの廊下を陣取り来場者に愛想を振りまいていた。ステマの手には『パワーなストーン展覧会』と銘打った看板が握られている。
「寄ってて、下さいね! 科学部の秘蔵の鉱石が! 皆様の来場をお待ちしてますよ!」
ステマは『広告募集中』の文字踊る太もももまぶしく、全身を踊らせて通りかがる生徒に来場を呼びかけた。
「はいはい! お手は触れないで下さいね! 道順の通りお通りください!」
入り口入ってすぐの受付らしき机の前では『購買部』の腕章をつけた魅甘が、オデコと眼鏡を光らせて通りがかる女子生徒達に声を張り上げていた。
「むむむ……非科学なのです……パワーなストーンの展覧会だなんて……屈辱的なのです……」
その光景を前に花梨がその特徴的な吊り目の端に涙を溜めていた。
教室の入り口すぐに設置された机とイス。その机の上には『解説』と書かれたネームプレートが置かれている。
花梨はいつもの白衣を羽織りその席に座っていた。イスの上では屈辱からか両のヒザの上に置いた拳がぷるぷると震えていた。目からは今にも涙がこぼれそうになっている。
「ごめんね、花梨ちゃん。今だけだから。今だけ。犯人を捕まるまでの我慢だから」
ステマがそんな花梨を慰める為にか肩に手をやって顔を覗き込んだ。
「だって……」
「ほら、お客さん来たよ! ほにょぽろーん! どうぞ中に!」
ステマに入り口で迎えられた来場者は教室に入るや目につく鉱石に飛びついていく。
「ほら、花梨ちゃん! 皆、花梨ちゃんの鉱石に夢中だよ!」
「それにしても……皆、鉱石の外見しか見てないのです……ああ、あれは単に奇麗なだけじゃなくって、科学的には……」
「あはは。ごめんねごめんね、花梨さん。でも、あくまで主催は購買部だから。購買部が科学教室を借りて、展示会を開いているだけだから」
魅甘がドアから顔を覗かせた。会場の人の入りに気をよくしているのか。それとも少しでも花梨の機嫌を伺おうとしているのか。くねくねと体をくねらせへらへらと笑みを浮かべながら魅甘が花梨に近寄る。
「でも、私の自慢の科学物質達が……科学的鉱石達が……科学の結晶達が……」
「そうよ! 私だけじゃ、オカルト入っちゃうから! 科学部の花梨さんに、科学的考察をしてもらうことで、バランスをとってるのよ! 花梨さんは、科学の為にいるの!」
急に体中に力を入れ直した魅甘が花梨の肩をがっしりと掴みその目を覗き込んだ。
「か、『科学の為』……」
相手の言葉をおうむ返ししつつ花梨が魅甘の目が見返した。
「そうよ! これは科学の為なのよ!」
「科学の為……」
魅甘の言葉を繰り返す花梨の目が見る見ると輝いていく。その目の光は先まで目の端についていた涙のせいではないようだ。涙はあっという間に落ちてなくなり花梨の目は内から輝き始めた。
「分かってくれた? さあ、一緒に。科学の為にパワーなストーンを売りさば――」
魅甘があまつさえ花梨の手を手に取ると、
「おい、いたいけな科学少女を、ゲスい理論で籠絡するな」
その頭上に丸めた冊子が振り下ろされた。
「イタい! 何よ、自分の持ち場離れんじゃないわよ!」
丸めた冊子で頭を小突かれ魅甘が後ろを振り返る。そこには『購買部』の法被を羽織った廣告が居た。
「俺の持ち場ね。こんな冊子とか、グッズとか、売れんのかよ、香川?」
廣告が教室の反対側の出入り口に振り返る。そこは出口となっていた。その出口の少し前。鉱石の展示の道順の最後に何やら鉱石関連とステマ関連のグッズが並べられていた。
「はぁ? 何言ってるのよ、吾斗! こういう展覧会のセオリーでしょ? 一通り興味のある展示物に目を輝かせさせて、十分に憧れと興奮を持っちゃったところで出口! ああ、もったいない! もっと堪能したい! もっと余韻に浸りたい! そういう気分で出てくるお客様に、ばばんと関連グッズを出口で並べて見せちゃう! 買っちゃうわよ! 思い出に! 記念に! 自分が展示会で抱いた感想や感動を、形で残したいと思ってしまうが故に! 買ってしまうわよ!」
魅甘はスカートのポケットから電卓を取り出した。電卓は『原価』や『売価』のキーまであるビシネス用の本格的なものだった。そしてその電卓のキーはよほど使い込まれているのか、文字盤が汚れかすれていた。
魅甘はオデコと眼鏡を光らせてその電卓に指を添えると、
「百貨店の催し物でも! ちょっとした博物館だって、皆やってる手だわ! 今回そこでしか儲けがないんだから! 持ち場離れず頑張りなさいよ! ああ、決算が楽しみだわ! あははははははっ!」
既に決算が見えたかのようにキーを乱打し出した。




