ステマ 26
魅甘が高笑いを上げたその日のお昼休み。屋良堰田高校の校庭にステマの元気な声が響き渡った。
「皆! ほにょぽろーん! 皆様のアイドル! 桜ステマがお送りする! 購買部提供のお昼の校内情報番組! 『こんにちは! 不労収入!』――の時間です! 今日は校庭に購買部特別出張販売所を設けてお送りします!」
ステマは晴れた校庭に向かって胸を張り、肩掛け式の拡声器を腰にがっしりと据えていた。拡声器の下に続く太ももに『広告募集中』の文字を踊らせて、ステマが校庭に向かって明るい笑顔と元気な声を投げかける。
生徒が駆け回る校庭。ステマの拡声器越しの声は、悪ふざけやおしゃべりに興じる生徒達の興味を一瞬で引きつけそちらを振り向かせた。
ステマが胸を張るのは観賞用の植物がガーデニングがされた校庭の一角。
ステマの背後では白テントが設置されておりその下に長机が置かれている。その机には『購買部特別出張販売所』と書かれた張り紙が貼られていた。長机の上にはこれでもかとお昼のお弁当やサンドイッチ、お惣菜が山と積まれている。
この購買部の特別出張販売所にいつもの男子生徒達が我先にと昼食を買いに群がっていた。
「今日はみんな気になるラッキーアイテムのお話です!」
ステマの声は拡声器を通じて校内でも再生されていた。校庭を駆け回る生徒がステマの姿を見る見つけてそちらに振り返ると、校内の生徒もはたと立ち止まって校舎からステマの姿を探した。
「気になりますよね! 今日の運勢とか! 星座の順位とか! どんな運勢とか、順位が出ても! やっぱり今日一日をラッキーに過ごしたい! これは皆の悩みです!」
ステマが笑顔でその校舎を見上げる。
ステマの声と内容に心引かれたのか少なからずの女子生徒が窓から校庭を見下ろしていた。校庭の中でも幾人かの女子生徒が興味深げに互いにささやきあいながらステマ達に目をやっていた。
「まずは作戦の第一段階は成功ね! いつもの場所じゃ、客層が固定しちゃうもの! 校舎からも目につく校庭に販売所を変えて正解だったわ!」
「その急な変更のせいで、俺は! 休み時間全部潰して、許可取りと準備に走り回されたがな!」
魅甘がオデコと眼鏡を陽光に光らせ、廣告がその魅甘に恨めしげに目を細めた。
二人は群がる購買希望者に目にも留まらない速さで商品を売りさばいていた。
購買部の法被に身を包んだ廣告が次々と商品を手渡していくと、客から奪うように魅甘がお金を受け取っといく。そこにはいつものエプロン姿の田中の姿がなかった。
「そんなちょっとした幸運が欲しい貴方に! 今日はとびきりのラッキーアイテムをお知らせです! いい運勢を呼び込みたいですよね! 運命の出会いとか、したいですよね!」
ステマの番組放送は今や校舎から顔を出している生徒に向けられていた。ステマは何か一言口にするたびに窓から顔を出す女子一人一人にうなづいていった。
「ははっ、小さいことをいつまでもうじうじと! 見なさいよ、吾斗! 女子生徒達のあの興味津々の顔! 作戦の第二段階も成功よ! 幸運だ、ラッキーだ、何だとステマちゃんが言うたびに、女子が身を乗り出してくるわ!」
「確かに! 女子はおまじないとか、この手のことに目がないからな!」
「それでは、まずは私から小さなラッキーのお裾分け! 今日は私の番組を最後まで聞いてくれた皆に、特別なお知らせがあります! 幸運を手に入れたい君! 最後まで注目だよ!」
魅甘と廣告が手を一瞬たりとも休めずに商品を販売する間も、ステマの声につられた女子生徒達が更にその外側を取り巻き始めていた。女子生徒は目を輝かせてステマの話に聞き入っている。
「つまりなんだ! 適当にラッキーなアイテムでっち上げて、もう一度犯人に狙わせるってか!」
「そうよ! 自分が盗んだもの以上の価値がある石がまだある! どうせ校内の人間の仕業だもの! おびき寄せれば欲しくなって必ずもう一度来るわよ!」
「そっちの準備におばはんを貸し出したんだからな! うまくいかないとこの忙しさが割に合わん!」
「当たり前よ! よし! お昼の商品は完売御礼!」
「よっしゃ! 作戦の第三段階だ!」
長机に山と積まれていた商品が全てなくなった。そうと見た廣告と魅甘がその机に手をついて乗り越える。机を飛び越え校庭に足をついた二人はいつの間にか手にチラシらしきものを持っていた。
「ほにょぽろーん! では番組の最後に、特別展覧会のお知らせだよ! 今日の放課後、科学教室で特別展覧会を開催します! 科学部の桐山花梨ちゃん監修の! 見た目にも奇麗な鉱石がたっぷりと堪能できますよ! 中にはすんごい幸運を分けてくれるラッキーなストーンとか、パワーなストーンがあるかもだよ!」
「あるかもですよ!」
「あるかもよ!」
ステマの最後の台詞を合図に魅甘と廣告が続く。二人はだっと走り出しステマが呼び込んでいた女子生徒の人だかりに向かっていった。
「ラッキーなストーン! あるかもでーす!」
「パワーなストーン! あるかも! あるかも!」
魅甘と廣告が集まっていた女子生徒にチラシを手渡していく。女子生徒は黄色い歓声を上げながら互いに目配せをしてそのチラシを受け取っていった。
「あるかもあるかもです――って。俺ら、新種の鴨の親子かよ」
「科学的根拠に乏しい話を、『ある』だなんて、断定する訳ないでしょ。企業コンプライアンス的に」
「そうかよ。まあ、今回は文句言わねえよ! あるかもでーす!」
廣告が魅甘に話しかけながらもチラシを配り続けると、女子生徒達は今や自分から手を伸ばしてそれを求めてくる。
「うおっ! 押さないで下さい! ちゃんと数はありますから! うわっ! そこの女子! 勝手にひったくっていくな!」
「甘いわね、吾斗! 他人にだけ幸せになられてたまるもんですか――という時に発揮されるこれぞ我ら女子の女子力! うまくさばかないと、大怪我するわよ! 見なさい! 数々のバーゲンセールで鍛えたこの私の! 流れるような体さばきを!」
魅甘のオデコと眼鏡が一際ぎらりと輝いた。魅甘はひらりひらりと身をかわしながらチラシを配っていく。女子の殺気立った視線と鋭い腕の動きから逃れ、それでいて己の目的を遂行していく。
「あ、はい。あ、はい。はっ! どうぞ。どうも。はっ! はっ! あ、あるかもですよ」
魅甘は相手から差し出される手を制しながら、それでいてその手にチラシを手渡していく。きびきびと動く首から下の体さばきとは対照的に、その上の顔には満面の作った笑顔が浮かんでいた。
「うおおっ! 香川すげぇっ! 武人の身のこなしに、商人の笑顔か!」
そんな魅甘の勇姿に目を奪われたのか、廣告の動きが一瞬止まる。
「――ッ!」
女子達はその隙を見逃さなかった。動きが止まった廣告に女子が一斉に飛びかかる。
「うおっ! しまった!」
廣告は最後は雪崩をうった女子生徒に全てのチラシを奪われながら、
「うわああっ! これが女子力かよ! うおお! あるかもですよ! あくまであるかもなだけですよ! うわわわわあぁぁぁっ――」
廣告は女子力に押し流されるようにその女子の奔流の向こうに消えていった。




