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ステマ 24

 その翌日の放課後。屋良堰田高校の講堂。その入り口はやはり主に特定男子生徒で我々もとごった返していた。

 講堂に押し寄せる生徒達。誰もがその手に小さなチケット状の紙片を握りしめていた。まるでそのチケットが今からのお目当ての少女の手そのものように彼らは汗ばんだ手でその紙片を握りしめる。

「はいはい! 時間はまだです! もうしばらくお待ち下さい! はい、そこ! 押さないで!」

 講堂の入り口でその群衆を購買部の法被に身を包んだ廣告が体を張って押さえていた。廣告は両手を大きく広げて一人で入り口に殺到する生徒を押し戻していた。

「うるせぇ! 廣告! ちょっとぐらい融通きかせろ!」

「そうだ! そうだ! 早くステマちゃんと、握手させろ!」

「うおおおおぉぉぉぉっ! ステマちゃん!」

 廣告の注意もむなしく男子生徒の人の波は今にも入り口から溢れ出そうになっている。

「ほにょぽろーん! 皆、握手会にきてくれてありがとう!」

 ステマがそんな生徒達に明るく手を振った。

 講堂のど真ん中に設置されたテーブル。そのテーブル越しに握手する段取りなのかステマがその向こうから愛想と手を振りまいた。

「うおおおおぉぉぉぉぉおおおおおっ! ステマちゃん! 来たよ!」

 ステマに応えて目を血走らせた生徒達が少しでも前に出ようとする。廣告の顔をそのチケットを握りしめた汗ばんだ手で押しのけ、体ごと前に出ようと皆が足を一歩でも前に出そうとした。

「こら、ステマ! あおってんじゃねえよ!」

「いいじゃない、少しぐらい。あんなに沢山、皆買ってくれたんだから!」

「ああ、確かに! 数えられないくらい、今日はサンドイッチばかり売ったよ! その結果がこれだよ!」

「吾斗。ちゃんと押さえてなさいよ。ステマちゃんに怪我でもあったら、承知しないからね」

 ステマの横では購買部の腕章をした魅甘がテーブルの上に忙しげに冊子を並べていた。

「香川! お前もこっち手伝えよ! これじゃ何かの地獄絵図だよ! 亡者どもがクモの糸を求めて、殺到してるじゃねえか!」

「イヤよ。私はステマちゃんのブログをまとめた小冊子の販売準備で忙しいの。今回は握手会特典で、ステマちゃんのサインがつくわ。ステマちゃんと握手して、その高揚感のままにこの冊子を売りつけるのよ!」

「相変わらずか! じゃあ、おばはんは何処だ? おばはんをこっちに回せよ!」

 廣告が田中の姿を見る求めて周囲を見回すと、

「おばはん禁止!」

 田中が何故か上から飛び降りてきた。田中は長いスカートとエプロンをはためかせ廣告の横に片足を曲げて着地する。

 ずんという振動を伴った衝撃音が講堂全体に響き渡った。

「うお……天井から中年女性が降ってきた!」

 天井近くから落ちた来たらしき中年女性の出現に、ファンの人だかりから悲鳴めいた叫びが上がる。

「ひいいいぃぃぃっ!」

「本物だ! 本物のラスボスが現れた!」

「こ、殺される!」

 そしてその落下の衝撃もさることながら、顔に浮かぶ陰にこもった田中の表情。その殺気すら感じさせる目の光に特定男子の人だかりが一斉に後ずさった。

「助かった。てか、何で上から落ちくるんだよ?」

「飾りつけ……桜さんの握手会の為に、講堂の天井をデコレーションして来た……我の女性らしい可愛い感性で……」

「そ、そうか……終わったんなら、こっちを頼む……」

 廣告が天井を見上げた。

 そこには天井のあらゆるところから色とりどりのリボンがぶら下げられていた。鉄骨がむき出しの講堂の天井。その鉄骨に直接にリボンが飾り付けられている。

「あれを、どうやって天井に飾りつけたんだ? 足場なんてないぞ?」

「ぶら下がってに、決まっておろう……力が入りすぎて、少々曲げてしまったがな……」

「そ、そうか……」

 廣告が天井に目を凝らした。そこには人の手の平の形にへこんでしまった鉄骨がちらほらと見えた。

「とにかく、ぶら下がってる時に、天井を見なくてよかったよ……」

 廣告が天井から視線を降ろし田中の足下を見た。

 田中はエプロンの下にスカートをはいていた。そこからくるぶし上辺りの素足がたくましい筋肉を見せつけながら覗いていた。

「見上げていたら、上も下も地獄絵図だったな……」

 廣告が改めて押し寄せる生徒達に目を転ずると、

「うるさい、廣告! 早く入れやがれ!」

 そこは相変わらず男子生徒の波が押し寄せるちょっとした地獄絵図だった。

「時間厳守だよ! もう少し待てよ!」

「何だと、吾斗? こっちは助けてやったんだぞ!」

「そうだ! そうだ!」

「恩人にこの仕打ちはないぞ!」

「はぁ? 何の話だよ?」

 廣告が生徒達の言葉に怪訝そうに眉間にシワを寄せる。

「これだよ! これ! とぼけんなよ! ステマちゃんのミニブログ――〝フイッター〟でのうそぶき!」

 生徒の一人が携帯を廣告の目の前に突き出した。

「何だよ? フイッター? ああ、短い文章でうそぶくブログか? ステマのフイッターのうそぶきが何だよ?」

 廣告が突き出された携帯のモニタに目を凝らす。

 そこには涙目になったステマをデォルメしたアイコンとともに――

 『ほにょぽろーん! 皆助けて! 今日の握手券つきサンドイッチ! 仕入数、間違えちゃった! 二百個も余計に仕入れちゃって、売り切れるか心配だよう! にゃう!』

 と、そのうそぶく文字列が踊っていた。

「二百個も余計に仕入れちゃった。にゃう――だとう! おい、ステマ!」

 廣告が驚愕に目を見開き背後のステマ達を振り向いた。

「ん? 何、廣告? 何の話?」

 廣告の叫びにステマが不思議そうな目で見つめ返す。廣告の言いたいことに心当たりがないようだ。

 だがそのきょとんとしたステマの横で両の頬の口角をこれでもかと吊り上げて、

「にゃう……」

 香川魅甘がオデコと眼鏡を怪しく光らせほくそ笑んだ。

「香川! てめえ! 仕込みやがったな! 通りで数が多いと思ってたら――」

「『数えられない』程――売ったんでしょ? よかったわ、数え〝られ〟なくって」

「やっぱりか、香川!」

「はーい、時間ですよ! ステマちゃん! 二百五十人のファンと、頑張って握手してね!」

 魅甘の合図とともに田中が廣告の襟を掴んで後ろに引いた。廣告という栓を失った人だかりが講堂に文字通り雪崩れ込んでくる。

「うわわわぁぁぁあああぁぁぁっ! 覚えてろ、香川!」

 廣告は怨嗟の叫びととともにあっという間にその雪崩に呑まれて姿が見えなくなった。

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