ステマ 23
「げふ……」
田中に張り飛ばされた廣告は最終的に地面にお腹を打ってうつ伏せになってようやく止まる。
「人を見かけで判断するのはよくないわ、廣告。ちなみに田中は旦那さんの姓。十年前に運命の出会いをして、今の旦那さんと結婚なさったのよ。田中さんはあの日たまたまあるサイトを見ていて、とても興味を惹かれるタイトルのリンクを踏んだのよ。ただの匿名掲示板のまとめだと思ってたらあらビックリ! なんと素敵な男性が群れをなして連絡を乞う恋のサイトだったの! しかも女性は会員登録無料! 何てボランティア精神!」
「いや、それ多分ただの――」
転がる廣告を気にもかけず、にこやかに田中の出会いを語るステマ。そのステマに廣告がぐぐぐっと腕だけで体を持ち上げて何やら応えようとする。
「でね! 百五十七人の男性に会っては逃げられ、お金を貸しては捨てられたりした結果――ついに今の旦那さんと出会い運命的に結ばれたのよ!」
「運命じゃねえよ! 手当たり次第男漁って、ひどい目に遭っただけじゃねえか!」
廣告が最後は沸き上がる怒りにか天を突くように勢いよく立ち上がった。
「今は家でゴロゴロするだけの愛する旦那様の為に、この学校にパートで働きに来てるのよ。偉いよね」
「結局ヒモに引っ掛かっただけか!」
廣告がづかづかと歩いてステマの下に戻ってくる。
「違うわよ、廣告。田中さんは真実の愛を手に入れたのよ。出会いのある素敵なサイトのおかげでね。もっと詳しく知りたかったら、私のブログのリンクを踏んでね!」
「お前のブログに、田中夫妻の馴れ初めが書いてあるのかよ?」
「うん。魅甘ちゃんが、ゴシップが一番一目を引くからって、田中さんにお願いして載せたのよ」
「ぽっ……」
馴れ初めが皆に見られていることに対する喜びと恥ずかしさか田中が体をもじもじとよじって顔を赤らめた。
「田中さん、ほにょぽろーん!」
ステマがそんな田中の脇を肘で冷やかすようにつついた。
「桜さん、ぽにょぽろーん……」
田中が凶悪な顔を赤らめ、筋肉質な体を更にもじもじとよじらせて応える。
「そうかよ……てか、あまり田中さんに乙女チックなポーズ取らせるな。保健所に精神衛生的観念から、営業停止を食らっても知らんぞ。それとな、ステマ。お前のブログ、リンク踏むとどっかの怪しい通販サイトにばかり繋がるんだが? あれは一体どういうつもりだ?」
「イヤね、廣告。ちゃんと他のサイトに繋がります。よろしいですか――って表示するサイトを間に入れて、他のサイトに移っていいかどうか訊いてるわよ」
「ああ、その時の選択肢が『Yes』と『Oh! Yes!』の二択でなければ、一応お前にも常識があったんだなと感心してしまうところだったよ」
「むむ! 吾斗! ネットの広告収入はバカにならないのよ! ステマちゃんの人気を生かさない手はないわ!」
魅甘が心外とばかりにくっと力を込めて廣告に振り返る。それと同時に己のしていることに絶対の自信の現れかオデコと眼鏡がきらりと輝いた。
「やっぱり全部お前の入れ知恵か……香川……」
「また怪しげなお金儲けですわね!」
廣告が諦めたように肩を落とし、反対に一途が憤慨と言わんばかりに肩を怒らせた。
「にひひ。何とでも言えばいいわ。これは正当な購買部の活動で、帳簿にも載せてる真っ当な収入。誰にも文句は言わせないわ」
「ぐぬぬぬ……」
一途が勝ち誇る魅甘に悔しげに唇を噛んだ。
「そうかよ。おっ? 向こうも終わったようだな」
廣告が不意に顔を上げると校舎の教室の一角から白衣を羽織った女子生徒がこちらに手を振っているのが見えた。
「ほら、桐山のヤツ。終わったみたいだぞ。こっちもとっとと片付けるぞ! 明日は握手会だからな!」
「はーい! ほにょぽろーん!」
廣告の呼びかけにステマが応え、
「にひひ! 明日も儲けるわよ!」
「あくまで部活動の範囲でですわよ!」
「ぐふぅ……インゼンディボォー!」
他の三人がそれぞれに応える。
そしてそんな五人を誰にも見とがめることなく、
「……」
現国の神輿が校舎の陰から無言で見つめていた。
次回は1月8日頃に更新する予定です。




